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生贄にされかけたらしいが俺は元気です。女になったけど  作者: 山吹弓美


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115.地方の事情

「ジョウ、施錠の魔術は掛けたな?」

「もちろん。カイルさん、ハクヨウさん、晩ご飯食べませんかー」

「分かった。ハクヨウ、行こう」

「了解ですー」

『ままといっしょー』


 部屋を出たところでカイルさん、ハクヨウさんと合流した。部屋にも鍵はあるんだけど、まあ念のためということで特に魔術師がいる場合は、扉に施錠の魔術をかけるのが当たり前らしい。まあ、カードキーでオートロックとかいう世界じゃないもんな、ここ。

 で、4人と1匹でそのまま下の酒場へ降りた。なるべくなら男と一緒に行動した方がいいようだ。


「昼間の詐欺師のような輩がいないとも限らないしな」

「あれならともかく、ジョウもムラクモも可愛い女の子ですし。ナンパはまだ良いほうで、もっと良からぬ考えで近寄ってくる連中もいるでしょうよ」

「そういう馬鹿どもには、私が罰を与える」

「ムラクモの犠牲者増やすのも問題なんで、なるべく皆で行動しましょう、ねっ」


 ま、そういうわけだ。あとムラクモ、「私の犠牲者とは何だ!」なんて怒るなよ。分かってんだろうが。

 そんなこと言いながらやってきた酒場は、ユウゼでいつもお世話になっている宿舎の食堂よりももっと賑やかで、何となくだけどアルコールっぽい匂いがした。ああ、まあ、宿舎であんまりお酒飲む人いないからなあ。皆、外で飲むらしい。

 空いたテーブルを探して4人で座る。注文取りに来たのは、結構パワフル系のお姉さんだった。あ、オネエサンじゃないからな。筋肉質の女性。


「いらっしゃい。ハクヨウの旦那、今回は墓参り?」

「俺じゃなくてこちらがな。あー、いつものように適当に見繕ってくれや。4人分」


 お姉さん、定宿に使ってるだけあってハクヨウさんの顔は覚えていたようだ。つか、大雑把な注文だな、おい。

 で、そのハクヨウさんがカイルさんを手で示すと、お姉さんはおやと驚いた顔をした。


「あらいい男。旦那の言ってる、若様?」

「ハクヨウ。お前、俺のこと何言ってるんだ」

「男前の若様、ってちゃんと事実言ってますよ? あとこちらの2人は、俺の同僚」

「どうも」

「こんばんは」

『こんばんはー』


 カイルさん、コクヨウさんならともかくハクヨウさんなんだから、そんな変な噂は流さないと思うぞ?

 それから紹介されたので、ムラクモと一緒に頭を軽く下げる。肩の上で、タケダくんも一緒に。


「まあまあ、可愛い使い魔さんも連れて。それじゃあ、使い魔さん用のミルクはいるかしらね」

『みるく? のむー』

「お願いします」


 腹は減ってなくても、ミルクは飲むのか。まあいいけど。


「使い魔さんはミルクでいいけど、あんたたちは飲み物はどうします?」

「エールでいい……っと。ジョウ、お前酒は飲めるのか?」


 注文の続きは飲み物か。そこでハクヨウさんが、俺に目を向けた。あ、酒か。


「あー。俺のいたとこ、20歳までは駄目だって言われてたから全然分かんないです」

「そうなのか。じゃあ、水出しのお茶があったよな。彼女だけそれで、あと3人はエール」

「了解。少々お待ちをー」


 お姉さんがにっこり笑って、さっさとテーブルを離れていった。宿舎の食堂ではお茶が当然だったから、俺が酒飲めるかどうかなんてこういうところでも来ないと分からなかったわけか。言われてみれば、聞かれなかったしなあ。


「そうか。ジョウは酒が飲めるかどうかも分からないのか」


 と、何かムラクモにびっくりされた。え、そこかと思って皆を見回してみると、カイルさんは苦笑して口を開く。


「ジョウのいたところは、水の質が良かったんだな。だから、ワインやビールを飲む必要もないのだろうし」

「そういうものなんですか? 確かに、汲んだ水ほぼそのままっていうか、ちゃんとろ過とかしてたから飲めましたけど」


 正確には浄水場で殺菌とかいろいろして飲めるようにした水だけど、でもまあ大昔はそのまま飲んだりもしてたんだろうしな。あんまり間違ってないだろう。

 ただ、蛇口ひねって出てきた水を直で飲めるってのはあっちの世界でもレアケースらしい、ってのは何となく知ってたけど。

 俺の大雑把な説明に、ハクヨウさんは軽く目を見張った。こういう顔すると、やっぱりコクヨウさんと同じ顔なんだよねえ。


「へえ、マジで良い水だったんだ。こっちだと、川や井戸から引いてこれるってのは結構珍しいんだぜ。ユウゼはその点、恵まれてるけどな」

「コーリマも、それなりに恵まれてはいるな。大きい川は流れているし、王都は湖のそばにある」


 ムラクモが、目を細めて言葉を続けた。へえ、王都って湖のそば、なんだ。そりゃ水には不自由しないだろうな。

 なんてこと考えてたら、タケダくんに頬をつんつんとつつかれた。


『まま、みずうみってなにー?』

「めちゃくちゃでっかい水たまり、とでも覚えとけ。王都のそばにあるんなら、明日にでも見られるよ」


 そうかー。お前生まれてからずっとユウゼの中だったもんなあ、湖知らないよなあ。いろんなもん、俺以上に知らないんだよなあ。見せてやらないと、な。

 ふと、カイルさんが小さくため息をついた。あれ、何かあったのかな。


「ただ、例えばイコンなどは水資源が乏しいようだな。井戸は掘るのが大変だし、川は細い上に谷底にあるから」

「そっか。山の中でしたっけ、汲んで持ってくるのが大変ですよね……」


 言われてそうか、と思う。イコン、久しぶりに聞いた国の名前。

 そうだよなあ、高い山登ると水とかないから自販機でも高いんだよな。ペットボトルとかでも、持っていくのも大変だし。それで、代わりにお酒なのかな。大変だなあ、水の確保ってやつも。

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