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生贄にされかけたらしいが俺は元気です。女になったけど  作者: 山吹弓美


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114.あの後の事情

 戦い済んで、日が暮れて。

 俺は到着した宿の部屋で、ベッドにばったりぶっ倒れた。


『まま、だいじょぶ?』

「なんとか……」


 ぱたぱたと翼を羽ばたかせつつ尋ねてくるタケダくんに、俺はどうにか声を出して答える。ふはははは、空飛ぶ馬なんて嫌いだー。

 一方同室になったムラクモは平然と、俺に視線を向けている模様。というよりはタケダくんを見てるのかね。


「しっかりしろ、ジョウ。タケダくんの前で、情けないぞ」

「そこかよ」

「そこだ。何しろお前は、タケダくんのママなのだからな」


 はいはい。でもまあ、確かにそうか。

 とりあえず午後は、いっぺん乗ってたせいか午前中よりはましだったしな。すぐに飯も食えるっぽいし、よいしょと起き上がってみる。うむ、大丈夫そうだ。




 さて、あの後。つまり、カサイの直弟子騙った魔術師のおっさんを、ムラクモの知り合いに引き渡した後だけど。


「本当にありがとうございます! 奴の本性が分かって、大変助かりました!」


 お店の人に、えらく感謝された。何でもちょくちょく顔を見せるおっさんで、魔術師を見つけると俺たちの時と同じように行ってって飯たかったり魔術道具巻き上げたりなんだりしてたらしい。

 何でも、カサイ当主の直弟子を名乗ってる魔術師にはやたらと手を出せないらしくてな。まあ、そういう名前だからあのおっさんも騙ってたんだろうし。

 でまあ、あれはニセモノこっちはホンモノと分かって、面倒な相手を無事叩き出すこともできたってことで。とはいえ、俺はなあ。


「俺はまだカサイの弟子としてはほんっと新人ですし、気にしないでください」

「いえいえ、そういうわけには。カサイのお名前がもしなかったとしても、あなたは店とお客様の恩人なのですから」


 なんて感じで、料理持ってきてくれたのにお代受け取ろうとしないんだよね。4人と1匹分。いや、それなりに安いけどさ、4人分タダにするってのも問題だろ。

 受け取って受け取れませんのやり取りが数度続いたところで、ハクヨウさんが呆れたように口を挟んできた。


「じゃあ、タケダくんの分だけタダにしてもらうってのはどうだ? 白の伝書蛇だし、こいつも解決には一役買ってるし」

「しゃあ?」

「ああん、可愛いなタケダくんは」


 こきっと首を傾げるタケダくんに、ムラクモの表情がだだ崩れした。これはもう、人前とかそういうの関係ねえな。

 まあそれはそれとして、店長さんはえらく恐縮してた。うん、まあ、タケダくんの餌だけだと安いしな。アキラさんの店で買う携帯食よりは高いけど、そらまあなあ。


「い、いえさすがにそれだけでは、お礼にはなりません」

「うーん……じゃあ、デザートおごってくれますか?」


 なら、これで行こう。せっかくだし、甘いものは別腹……って、すっかりこの身体に慣れてると言うか女の子やってるというか、とほほ。


「は、はいっ! ぜひ、我が店自慢のデザートを!」


 とまあ、こんな感じで事態はどうにか終了。食べたご飯もデザートもおいしくて、ユウゼよりちょっと高かったけど十分満足できた。いや、デザートはおごってもらったわけだけど。

 で、その間カイルさんはにこにこと楽しそうに見てるだけだった。ああ、まあ、こっちに入ってくるとカイルさんのこと知ってる人も多そうだしなあ。変に口挟んでこじれても問題になりそうだし……と言うよりは、単に面白がって見てただけ、かもなあ。




 それで少し休んだ後、ラータの北の門を出てから空の旅を楽しんだというか何というか。

 そして、今いるのは次の街であるツッツ。王都からは馬で空飛んで半日ほどの距離、だそうだ。ラータよりはちょっと大きめというか、ここから街道がいくつか出ているその分岐点になってるので、宿屋が結構多い。そのうちの1つ、ハクヨウさんが王都まで用事があって行く時に使う宿屋に、今夜はお世話になる。

 カイルさんとハクヨウさん、俺とムラクモとタケダくんという割り振りはまあ、納得が行く。俺、この世界じゃ女だしな。少なくとも、身体は。


「夕食にするか?」

「そうだな。この下で食うんだっけ」

「下が食堂、というか酒場になっている。そこでだな」


 ムラクモがさっきから微妙にそわそわしてるのは、多分お腹が空いてるんだろうと思う。さっき部屋に通される前に酒場の横通ったんだけど、いい匂いしてたからなあ。俺も、ちょっとは食いたいし。


『ぼくはおなかいっぱーい』


 と、タケダくんがふらふらと身体を揺らしながら言ってきた。……いや、確かに伝書蛇って燃費良いらしいけどさ。


「そか。部屋で寝てるか?」

『ううん、ままといっしょいく』


 俺の問いには、首を横に振って答えた。あくまでもこいつは、俺と一緒にいてくれるらしい。はは、ほんといいやつだな、お前。

 ムラクモは俺たちを交互に見て、それからほにゃんと表情を崩した。敵の前とか、そういうところじゃまず見せない顔だ。


「タケダくん。ジョウと一緒にいたいのだな?」

「よく分かるなー」

「何しろタケダくんのことだからな」


 いや、そこは胸張るところじゃないから。まあ、言葉が分かるのが同じ伝書蛇を除くと俺だけなんだから、表情や仕草で理解してもらえるのは助かるけどさ。

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