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生贄にされかけたらしいが俺は元気です。女になったけど  作者: 山吹弓美


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112.魔術師の事情

 ともかく注文を済ませて、席でのんびりすることにした。お客さん多いし、ちょっとは待たないとなあ。

 お昼食べてちょっと休んだら、街を抜けて……王都にはいつ着くんだ? 聞いてみよ。


「ところで、王都までは後どれくらいあるんですか?」

「ここからだと、飛んで行ってまる1日だな。今晩は、ここと王都の間にある街で1泊することになる」

「……あと1日飛ぶんですか……」


 げー。てことは午後も飛んで、1泊して、明日の午前中も飛んで行くわけかよ。だ、大丈夫かな、俺。


「地面行ったら往復で1週間潰れてもおかしくないんだ。悪いけどよ、あきらめてくれ」

「はい……」


 ハクヨウさんが微妙にへこんだ感じで言ってくるので、大人しく頷いた。ああうん、夏祓いの週ってマジ1週間だもんな。移動だけで潰れるよりは、まだ空飛んで目を回してるほうがマシだ。1人で馬乗ってるならともかく、2人乗りだし。

 なおムラクモは、タケダくんをなでて至福の真っ最中である。いやまあ、タケダくんも嫌がってないからいいけどさ。




 と、何か視線を感じたので振り返ってみた。少し離れたところから、おっさんがこっちガン見してる。俺と似たような、でも地味なベージュ系のローブ着てるから魔術師らしい、ってのは分かるんだけどな。あ、こっち来た。


「へえ、お嬢ちゃん、新人の魔術師?」

「あ、はい」


 そらま、見りゃ分かるだろと思いながら答える。カイルさんとハクヨウさんが胡散臭げな顔してるから、きっと変な奴だってのは……いや、それこそ見たら分かるだろ。めちゃくちゃ怪しいじゃねえか、詐欺師でももうちょっと普通の顔してるぞ。

 めちゃくちゃ怪しい理由である、人をじろじろ吟味するような目でこのおっさんは、ふんと鼻を鳴らすと胸を張って声を張り上げた。


「何だ何だ、コーリマで魔術師名乗るんならこのホウサク様に挨拶なしじゃあ通じねえぜ?」

「……」


 なんのこっちゃ。

 店は一瞬だけしーんとなって、それからすぐにざわざわとした会話の声が戻ってくる。俺はとりあえず、コーリマ出身の3人に聞いてみた。


「この人知ってます?」

『いや知らん』


 3名同時にきっぱりハモリ。まあ、3人とも魔術師じゃないから知らないっちゃ知らないだろうけど、でもそんだけ偉い魔術師さんならラセンさん経由で知ってないとおかしいよね、うん。


「……って言ってますけど」

「知らんで通じるかあ! あのカサイ現当主の愛弟子たる、ホウサク様だぞ!」


 途端、今度は周囲がザワッとした。店中の視線が集まってるのが、何か分かる。とはいえ、んなわけあるかい。カサイの今の当主ってラセンさんじゃねえか、その弟子がこんな偉そうなわけないってーの。

 ま、そうなるとこちらとしては、だ。


「あ、俺もそうなんですよ」

「何だと? 嘘つくんじゃねえよペーペーが」

「そりゃ新人の弟子ですから。カサイ現当主の弟子で、ジョウと言います」

「……はい?」


 ラセンさんにもらったペンダントチラ見せしつつ、こちらの素性をぶっちゃけてやるのが一番だよな。ラセンさんも、カサイの名前利用しろって言ってたし。いや、こういう利用方法じゃないとは分かっているけどさ。

 と、ムラクモのそばでおとなしくしていたタケダくんが鎌首もたげて、何か機嫌悪そうに尻尾をびたんとテーブルに叩きつけた。


『このおじちゃん、うそついてるー。らせんおねーちゃんと、ぜんぜんかんじちがうもんー』

「……タケダくんが嫌がっているな。どうやらお前、身分詐称してるんじゃないか?」


 タケダくんの言葉は分からなくても、その感情をすっかり把握できるようになってるみたいなムラクモ。ジト目でホウサクさんとやらを睨みつけ、ゆっくり立ち上がる。そのホウサクさんはしゃー、と息を吐いたタケダくんに目を向けた瞬間凍りついてるけどな。


「タケダ? え、し、白?」

「彼女の使い魔だよ。白い伝書蛇がどういう意味合いか、知らないわけじゃねえだろ? おっさん」


 ハクヨウさんが獲物みーつけた、って感じの笑いを浮かべながら、淡々と言葉を紡ぐ。その隣りでは、カイルさんが呆れたように肩をすくめていた。

 何か、自分がものすごーく悪い状況であることにやっとこさ気がついたらしいホウサクさんは、慌てて片手を掲げた。おいおい、混んでる食堂の真ん中で魔術使うかこの馬鹿!


「ばばば馬鹿なあ! そんなの知らねえぞ、白の使い魔連れた直弟子とか!」

「光の盾、ミニ」


 魔力貯められる前に、とっさに詠唱した。ちっこい光の盾をおっさんの顔の直前に出して、そのままばちんとぶつけたわけだ。だからミニ。


「ムラクモ」

「承知」


 カイルさんの一声とともに、くらくらしてるホウサクさんにムラクモが跳びかかった。例によってどこから出したんだあのロープ……それはともかくとして、ほんの十数秒で毎度おなじみ特殊な縛り方の出来上がり。あんまり広くない店の中で、隣のテーブルにも迷惑かけないようにやってしまったのはすげえな、おい。


「ちちちちくしょう! 本当に俺はカサイ当主のじじいにっ」

「今のカサイの当主、女性ですけど」

「へ?」


 おっさんおっさん、一発逆転狙って大外ししてるぞ。慌てて駆けつけてきた店員さんに、とりあえず頭下げないと。迷惑かけちゃったし。

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