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生贄にされかけたらしいが俺は元気です。女になったけど  作者: 山吹弓美


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110.国境の事情

 太陽が真上に来る頃になってやっと、馬たちは地上に降り立った。上から見えたところではユウゼみたいに周囲をしっかりした城壁で囲まれた街があったから、そこに寄るみたいだな。

 いや、頭の中の中はしっかりしてるんだけどさ、正直言ってへろへろである。鞍にずーっとしがみつきっぱなしだったんでな。……途中から、カイルさんが片手で支えてくれてた。慣れてる人はすげえ。


「……じ、地面だあ……」

「ああ、馬で空を飛んだのは初めてか」


 馬の足が着地したのが分かって、俺はほっとして全身脱力。背後でカイルさんが苦笑してるのが分かる。そうだよ、初めてだよこんちくしょう。振り返ったらイケメンオーラで何も言えなくなるから、このままで答えた。


「そもそも、俺が育ったとこの馬は飛ばないんですよう」

「すまん。次からは気をつける」

「お願いします……」


 いやほんと、頼むよ。ところで次からって……ここ、王都じゃないよな。つまりこの先も進むんだから、その時か。わーお。

 うん、王都じゃないっぽい街なので、聞いてみるか。


「ここは?」

「コーリマの南の端でな、ラータと言う。こちらから入国するには、一度ここで身分証明をして手続きを済ませないと駄目なんだ」

「なるほど。それでわざわざ降りたんですか」


 国境の街で、入国審査ね。なるほど。

 国境、と言ってもこの世界の国境って、実ははっきりラインが引かれてるわけじゃないらしい。ラータっていうこの街やユウゼみたいな街が道沿いに点々と存在してて、その街がどこの国の所属かってので大雑把に分けてる模様。中にはユウゼみたいに独立してる街もあるけどな。

 農村とかだと城壁なんかないところもあって、そういうところには近くに砦があったりしてそこに所属してる国の軍の部隊が派遣されてるとか。国の支配が届いてないところは、カイルさんたちじゃないけど傭兵を雇って守ってもらってたりするらしい。どこも大変なんだなあ、と思う。

 なるほどと納得してると、近くにハクヨウさんたちの馬も降りた。その鞍の上でムラクモが、にやりと笑みを浮かべているのが見える。


「もうひとつ、大事なことがあるぞ。我々と馬たちの昼食だ」

「あ、それは重要」

「そういうこと。若、先行きますよ」

「ああ、頼む」


 そういや、もうお昼か。そりゃ確かに重要だな。……って、ユウゼからここまでえーと、3時間ちょい? 結構早いな、馬の飛行速度。いや、距離分かんないけど。




 ラータの街の門はユウゼと同じような造りになっている。ちょっと違うのは門の前に堀が巡らせてあって、門の方からチェーンで繋がった橋がかかっていること。国境だから、戦争とかになったら閉めたりするんだろうな。

 で、コーリマ王国への入国審査してるってことで、結構人やら馬やら馬車やらが並んでいる。その割にさくさく進むなあ、と思ったけど、割と近くまで来たところでよく見たら並んでる人が出したペンダントとか御札みたいなものを、板みたいなやつにかざしている。

 そうか、あれ魔術道具だな。あれ使って身分証明のデータ読み取ってるんだ。なるほどなあ。馬の上からかざしたやつでもチェックできるのか、すげえ。

 で、俺たちの番になった。コーリマの金属鎧をつけた兵士さんがやってきて、手を差し出してきた。もう片方の手にはさっきの板を持ってる。


「ラータの街にようこそ。身分証明を拝見できますか」

「ああ。どうぞ」

「よろしくお願いします」


 俺はペンダントを取り出した。カイルさんもペンダントにしてるらしくて、胸元から取り出す。俺のと違って、王冠の形してる。

 で、スキャンしてるところに懐からごそごそ。顔を出してきたタケダくん、何か寝ぼけ顔だな。


『……まま、おはよー』

「おはよう。寝てたのかよ、タケダくん」

『うん』


 いやまあ、お前は飛べるから空に上がっても平気だったけどさ。俺の身にもなってくれ……いや、無理か。

 なんて考えをまとめる前に、兵士さんが慌てて姿勢を正した。びしりとした敬礼は、それなりに様になっている。


「こ、これは失礼いたしました! カイル様、魔術師様、ようこそコーリマへ!」

「いや、俺に敬礼する必要はないだろう」

「俺もですよ……」


 あー、ゴート王陛下の息子さんとカサイ一族の弟子な魔術師ってこういう扱いなんですかそうですか。いやカイルさんはわかるけど。


「お、王都には連絡いたしたほうがよろしいでしょうか?」

「ありがとう。個人の旅行なのでな、特に連絡はいらないよ」

「は、承知いたしました。魔術師様、カサイの方には、いかがいたしましょう」

「あ」


 カイルさんがしれっと拒否したのに、何か兵士さんはほっと胸をなでおろしたように思える。はて、何かあるのかね。王姫様は大丈夫だろうから、後は王様と王太子様?

 で、俺に話を振られてはて、どうしようと思ったよ。

 カサイの方。つまり、カサイ一族につながりのある魔術師さん。王都にもいるみたいなんだけど、会ってみたいとは思う。あー、でも俺、王都も初めてだしなあ。

 少し考えて、出た結論を口にした。ま、この辺が妥当なところだろ。


「自分はこの前の冬に弟子入りしたばかりの新人で、他の人とは面識がないんです。ばったり会ったりしても困るでしょうから、一応お話だけ通しておいてもらえますか」

「了解しました。コーリマで良い日をお過ごしくださいませ」


 ラセンさんにはカサイの名前を利用しろって言われてるんだけど、どう利用していいか分からんからなあ。王都の街中案内でもしてもらえれば良いかね、とは思うんだけど。何だろう、名前の無駄遣いのような気がする。

 首をひねってると、カイルさんが軽く手綱で馬の首筋を叩いた。そのまま馬、ロクロウタは先に行って待ってるハクヨウさんたちを追うようにてくてくと、街の中に入っていった。

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