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生贄にされかけたらしいが俺は元気です。女になったけど  作者: 山吹弓美


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107.王家の事情

 ロープをマジシャン並みの手際でするりとしまい込み、お茶を飲んで一息入れてからムラクモが言葉を続けた。コクヨウさん、分かりやすく胸をなでおろすのはどうだろうなあ。


「とはいえ、今のゴート陛下は余り礼儀にはうるさくないのだがな」

「そうなのか?」

「ああ、陛下は堅苦しいのがお嫌いなんだよな。最低限の礼さえ失しなければ、特に文句は言われねえ」


 気を取り直してコクヨウさんも、ムラクモに同意するように頷いた。ああ、でも何か分かる気がする。


「なるほど……セージュ様のお父さんなだけのことはあるなあ」

「そういうことだ」


 あ、王姫様の呼び方は王姫様自身から『名前で呼べ』と言われたから。殿下もいらん、そうである。弟であるカイルさんから殿下って呼ばれるの、実は結構堪えてるらしい。『昔みたいに姉様でいいのにー』だってさ。

 ま、王家の家庭の事情は俺が首を突っ込むところじゃないし、置いておこう。ともかくそう答えた俺と、それに納得して頷いたムラクモに、コクヨウさんがちょっと呆れたようだ。


「そこで納得すんのかよ」

「だって、他に知ってる人で王族つながりなの、カイルさんくらいですし」


 しょうがねえだろ。俺、街はここしか知らねえんだぞ。他に知ってるのは、マジであの神殿くらいだもんよ。それで他所の国の王族2人も知ってるなんて、そっちの方がすごいだろうが。って、それも置いとくぞ。

 そのカイルさんも、意外と礼儀には細かいことは言わない。ただし、本人自身が結構きっちりしてるので見習わないとなー、とは思っちまうんだけどな。中身までイケメンだと、そうやって惹かれる人が多いんだよな。おのれ。

 で、そう答えた俺にコクヨウさんは「若はなー」と納得したように頷いた。


「ゴート陛下の血を引いてるとは思えねえくらい、礼儀正しく気遣いのある方だしな」

「礼儀正しく気遣いがあるのであれば、ミラノ王太子殿下もそうだぞ。カイル様とは方向性が違うが」


 ありゃ、ムラクモもミラノ王太子のこと知ってるのか。……まあ、カイルさんが王子様だった頃から仕えてるなら、お兄さんなんだからそりゃ知ってるよなあ。聞いてみるか。


「あのー。俺面識ないんですが、ミラノ王太子ってどんな人なんですか」

「王太子殿下は母上、すなわち王妃殿下によく似ておられていてな。ゆったりのんびりマイペース型だぜ」

「おっとりした気質の方でな、カイル様のお母様が亡くなられた時はカイル様を深く気遣っておられた」

「へえ、優しい方なんですね。カイルさんのお兄さんだっていうの、納得できました」


 つか、マジで王姫様と男女逆のほうがしっくり来るよな、それ。いや、何気に王姫様も気遣いあるとは思うんだけど、表現方法とか言動が男性っぽいっていうか。王女様なんだから、さすがに俺と同じく中身は男、ってことはないと思うんだけどな。


「王妃殿下もな。母親を亡くされたカイル様を、自分の息子のように可愛がってくださったんだ。だから多分、カイル様の今の性格は2人のお母様から受け継いだものなんだろうな」

「そっかあ……」


 しみじみと流れたムラクモの言葉を、何となく噛みしめる。そんな人だから、いきなりよその世界から引きずり込まれた上に前は男だった、なんていう俺を受け入れてくれて、優しくしてくれたのかもな。

 ……んー。王妃様か。ゆったりのんびりおっとりマイペースなお妃様って、やっぱり。


「王妃様、いいとこのご令嬢なんですか?」

「よく分かったな……まあ、ちょっと考えれば分かるか。公爵家令嬢だ」

「やっぱり」


 でーすーよーねー。一国の王に嫁ぐ女の人って、そういうもんだよね。この世界って王様とか貴族とかいるし、そういう世界だろうなとは想像ついてたけど。

 つか、公爵ってことは冬に王姫様が全力でぶっ潰したあいつらより爵位は上か。そりゃまあ、どういったつながりかはともかくとして、王様に嫁出すよなあ。


「ちなみに、王妃殿下の兄上に当たる当代の公爵殿がゴート陛下と同じタイプでな。戦場で結ばれた友情というか」

「ぶっ」


 そっちかい。思わず吹き出しちまったろうが。

 ということは、コーリマの国民さんってある意味大変だろうなあ。王様と、その王様と仲の良い貴族の当主様が少なくともダブルで力こそパワーだ、とか何とか変なこと言ってることになるんだろうし。わあ。


「国王陛下みたいなのが複数いるんですか、コーリマ王国……」

「おかげで文官系が結構胃が痛いらしい。王姫殿下が実務握るようになって、かなりましになったそうだが」

「コクヨウの言い方を借りれば、胃痛の何割かをセージュ殿下が肩代わりしたことになるな」

「ひでえ」


 コクヨウさんはあさっての方を向いて、ムラクモは意図的にタケダくんと遊びつつマジで酷えこと言っている、よな。うん。

 ということは、王姫様はその胃痛を少しでも和らげたくてカイルさんを呼び戻したい、とそういうことか。それはまた、別の問題だからな。


「ま、それはそれとしてだ。トップがそういう思考の持ち主かつ太陽神様を深く信仰しておられることもあってだな、王都自体は結構平和なんだ。見物しといて損はないぞ? ジョウ」

「そういうことなら、喜んで」


 おお、話がやっと元に戻った。なるほど、王様が何だかんだでえらい実力の持ち主、補佐というか実務やってる王姫様も以下同文、ってことで治安が保たれてるってそれでいいのかコーリマ王国。いや、いいんだろうけど。


「王都はその立地からしてなかなかの見物だからな。ジョウとタケダくんにはぜひ、楽しんでほしいものだ」

『えーと、よくわかんないけど、おでかけたのしみー』


 何気にタケダくんも混ぜるところはさすがムラクモ。タケダくんも王都に行くのは楽しみだろうし、俺も楽しみだ。どんなところなんだろうな、王都。

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