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生贄にされかけたらしいが俺は元気です。女になったけど  作者: 山吹弓美


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100.葬列

 『ユズ湯』を後にして、宿舎に戻った。途中の街並みを、王姫様はそれはそれは楽しそうに見ていた。


「街並み、珍しいですか?」

「通ることはたまにあるんだが、何しろきょろきょろしてたらおつきから前見て進めって怒られるからなあ」

「そりゃ怒られますよ。街道で待ち受けている国民たちに、殿下が落ち着きがないように見えては困りますから」

「……大変なんですね」


 王族って、道通るだけでも見世物状態なのかな。マジ、大変だな。まさかカイルさん、それが嫌で傭兵やってるわけじゃないよなあ。

 で、宿舎に到着したところで玄関の中から、ムラクモが出てきた。これは、俺らが帰ってくるの待ってたかな?


「お帰りなさいませ、副隊長。それとセージュ殿下、ユウゼにようこそ」

「ムラクモ? どうしたの」

「はい。後続の荷馬車と、遺骨が到着したとのことでお知らせに」


 遺骨。つまり、死んだ人の骨。

 唐突に出てきたその単語に、俺は目を見張った。

 そうだ、カイルさんたちは戦いに行っていたんだよ。誰も死んでないなんて、そんなこと、あるわけないじゃないか。相手は遠慮せず攻撃をしてくるんだから。

 コクヨウさんは何とか助かったけど、でも。


「分かりました、準備をして迎えに行きます。殿下、ジョウ」

「うむ、私も出迎えよう」

「は、はい、行きます」


 アオイさんに視線を向けられて、俺も頷くしかなかった。こう言っては何だけど、こういう機会でもなければこんな場面に出会うことはないのだから。




 準備、とは言っても特に喪服とかそういうのはないらしい。派手じゃない色の服に、グレーのフード付きマントを付けるくらいなんだって。真っ黒だと黒の神を象徴してしまうんでグレー、なんだそうだ。

 それを着けて街の入口で待ってると、しばらくして荷馬車が数台、それからまた違う馬車がやってきた。

 白木で出来た、塗装もしてない馬車。棺桶が乗ってるとしたらせいぜい1つか2つくらいしか乗らないはずだから、焼いて骨壷かな?


「あれに遺骨が乗っているの。神殿で弔いの祈りを捧げた後、裏にある納骨堂に納めることになるわ」

「遺骨、ってことは火葬ですか」

「本来は土葬なんだがな。我が国では、黒と戦って死んだ者は黒の呪いを焼き払うため、身体を焼いて骨を持ち帰り弔う」

「うちも、カイル様や私がコーリマ出身だから同じ作法で弔うのよ」

「そうなんですか」


 アオイさんと王姫様から説明を受けて、納得する。俺のいた世界だと遺体を焼くのも大変だろうけど、何しろこっちには魔術があるからなあ。うりゃっと焼き払うことも不可能じゃないだろ。アキラさんやラセンさんもいたことだしな。

 って、そこじゃねえだろ、俺。


「まあ、遺体を持ち運ぶのに手間がかかると言ってしまえばそうなんだが」


 目の前を通って行く白木の馬車を見ながら、王姫様がぼそりと呟いた。いやいや待て待て。


「本音でもぶっちゃけないほうが良いと思います、そこは」

「うむ」


 思わずツッコミを入れたら、さすがにまずいなと思ったんだろうな。王姫様は気まずい顔をして、こくんと頷いてくれた。いやほんと、口にしたらダメなこともあるからな。

 葬儀の参列者は馬車の後について神殿に向かうということで、俺たちも歩き始めた。と言っても、王姫様を除くと傭兵部隊の顔なじみの皆くらいだ。この街に縁のある人って、実はあんまりいないらしい。


「……砦は、コーリマの手に戻った。現在は私に従った兵士の一部を残して、内部の捜索や逃げた黒の追跡を行っている」


 歩きながら、王姫様がぽつりと言葉を落とした。はっきり聞いていなかった、砦の攻防の結果だ。

 もちろん、カイルさんや王姫様自身が砦を離れたってことは決着がついたからだってのは分かるし、戻ってきた傭兵部隊の様子を見ればこちらの勝ちだったというのも分かる。ちゃんとした報告は今晩とか、そのくらいになるだろう。


「無論、被害が皆無なわけではない。我が配下にも、カイルの部下にも数名、死者を出した」

「……故に我々は今、神殿へと向かっております」


 アオイさんも、言葉をぽつり。仲間が死んだから、その葬式に向かっている。うん、俺もそうだ。


「戦だ。人が死ぬのは当たり前だ、お前が案ずることではない」


 王姫様の言うことは、分かる。戦争で人が死なないなんて、あり得ない。特にこの世界の戦争は、魔術でいろんな力を飛ばしたり弓矢や剣や槍で相手を傷つけ合う戦いだから、当然人は死ぬ。俺だって殺した。ざくざくと。

 ここはそういう世界で、俺がいるのはそういう仕事をする部隊だ。もう、怖いとか、言ってられない。


「スメラギ・ジョウ」


 名を呼ばれて、顔を上げた。いつの間にか俺の足は止まっていて、その俺をアオイさんと、それから王姫様が見つめている。


「お前は死ぬなよ。多分、カイルが心を痛める」

「……死にたくないから、頑張ります」

「それでいい。お前には白い伝書蛇もついている、太陽神様のご加護があるさ」


 俺の素直な答えは、王姫殿下に届いたらしい。フードの中で、こそこそと小さく動くタケダくんにも。

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