暁の都が沈む時⑦
少年が目を開けると、いくつかの棒に括り付けられた布が、風で勢いよく靡いているのが目に入った。
辺りを見渡すと、そこは真っ白い布に囲まれた仕切りのない広い空間で、
少年はいくつも並ぶ簡易ベッドのうちの1つに寝かされていた。
「おはよう。 もう大丈夫です。 だから、たくさんもう寝ていていいよ。」
すると突然頭の上から優しそうな女性の声がした。
見ると女性は緑色の迷彩服の上から簡単な白衣を羽織ってニコニコと微笑み、
少年の頭を撫でながら「お水は飲む?お腹は空いていない?」と聞いてきてくれた。
それは少年にとって理解のできる言葉ではあったが、どこか妙に訛っていて、
異国の者が異国の言葉を無理やり真似ているような喋り方だった。
その所為でここは自分の国ではないような気がして、
安心させようとしていた女性の気持ちとは裏腹に、幼い少年は急に心細くなって泣き出しそうになった。
しかし”男の子は泣いちゃいけないよ”という母親の言葉を思い出し、
少年は首を横に振って女性の申し出を断りながら、わざと眠たそうに両手で目縁を擦る。
少年の涙に気付いた女性は、少しでもその気を紛らわせようと、
可愛らしい袋に包装されたリンゴとオレンジ味の飴玉を2つ持って来てくれた。
それを受け取ると、少年の心は少しだけ落ち着いた。
それから一体ここはどこなのだろうと、少年がこれまでにあった経緯を思い出そうとすると、
自分は2人の男性と、金色の竜に助けられた事を思い出した。
堪らずにベッドから飛び起きると、少年は2人の男性を探しに行こうと駆け出す。
しかしすぐに先ほどの女性からまだ寝ていなさいと止められ、ベッドに連れ戻されそうになったので、少年は咄嗟に嘘を吐いた。
「おといれ…」
「あ、おトイレ? じゃあ、こっちだよ。」
案外あっさりと女性から信じて貰い、少年は女性に手を引かれながら大きなテントを後にした。