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暁の都が沈む時  作者: R
6/10

暁の都が沈む時⑥

「大分落ち着いてきましたし、もう大丈夫でしょう。」

大方の治療を終えた司暮がそう言うと、金色の竜はグルルと小さく唸って、眩い光に包まれながら姿を変えた。

それは体だけでも2階建ての家ほどの大きさになり、先程よりも腕が退化した代わりに、翼と尾が巨大になった。


「近くの医療チームが居る仮設診療所に向かいましょう。

 酸素ボンベも、残りの移動分ぐらいしか残っていないでしょうし。

 ……あと水もありませんし。」

「お前の所為だろうが」

少年を抱えながら川から出た怜司が言うと、司暮は”貴方が無茶をした所為です”と返した。

ディルーノはその大きな鼻に司暮を乗せ、慣れた様子で司暮を自らの背中へと誘うと、続けて少年と怜司も同じように運んだ。


怜司が大きな金色の背に乗り、万が一に備えて自分と少年をロープで結んでいると、

突然司暮が思い出したかのように声を掛けてきた。

「そういえば怜司、怪我は?」

今更自分の主人の心配かと、怜司は不機嫌極まりない顔で司暮を睨み付けると、

司暮は逆に何を怒っているのだと、不思議そうに首を傾げて来た。

その従者らしからぬ行動と思考に、怜司はいつものことだと思い直し、面倒臭そうに返事をした。

「ケツに枝が刺さった。」

「そうですか。 もっと他に痛がる場所があるかと思いましたが、その様子なら大丈夫そうですね。」

顔や腕に幾つか切り傷を作っていた怜司は、そのことに関しては触れずに、あえて冗談を言った。

しかし、心配されない事を前提に冗談を言ったつもりだったのに、司暮はクスリともしない。

それどころか、逆に醜い者を哀れむかのような、侮蔑的な視線を向けてきた。

それを見て怜司は更に不機嫌になり、少年と自分の体を結ぶローブを力任せに硬く結んだ。

それを見た司暮が合図を出すと、ディルーノは少年の体を気遣うように、出来る限り静かに黒い空へと飛び立った。


飛び立ってからすぐに、司暮が怜司に白い布と消毒液を差し出してきた。

「川の中は雑菌が多いです。治療の魔法を使う前に、ちゃんと傷口を水で洗って消毒しておきなさい。」

相変わらず素気の無い淡々とした口調に、怜司はつい嫌味を言ってしまう。

「水くれよ。」

「水の魔法は貴方の専売特許だと思いますが。」

しかし、怜司はすぐにそれを後悔した。

魔法で作り出した水は、魔法が解けてしまえば当然その水も消えてしまうので、飲み水には適していない。

という事は、先ほどの場面ではボトルの水を飲んで、ここでは魔法の水を使って傷口の洗浄をするのが正しい。

加えて司暮は炎の魔法を得意とする魔術師で、怜司は水の魔法を得意とする魔術師だった。


反論する余地がなく、しかしどうしても司暮に仕返しがしたかった怜司は、

白い布と消毒液を差し出して、逆にわざとらしく甘えてみる事にした。

「俺には傷のケアとかしてくれないの?」

「それは貴方の無茶が祟ってできた傷でしょう。どうして私が貴方の尻拭いをしなければならないんですか。」

「え、これ尻に」

「お馬鹿」

言葉が言葉だっただけに、怜司は違う意味と勘違いしたが、司暮はそれを一喝した。

子供の頃からそうだったが、一体いつになったら怜司のこの下品癖は治るのかと、司暮は少し頭を痛めた。


しかしながら愛想のない従者だと、怜司は渋々と傷の洗浄をしながら、深く溜息をついた。

厳密に言えば、14の時に家を飛び出して何もかもを捨てた自分にとって、

その家に仕えていたこいつは、もはや従者でも何でもないが。

何故か一緒になってこいつまで家を出て来てしまったのだから、もうただのストーカーに近い部分があった。

それでいて愛想の欠片もないのだから、全く頭が痛い。


もしこいつが日雇いの従者であれば、半日でクビにしてやるのにと怜司は心の中で思いながら、

目の前に座っている司暮の背中を軽く蹴飛ばした。

自分が子供を抱えているので、司暮は大した反撃は出来ないだろうと怜司がニヤついていると、

すぐにお返しの裏拳が眉間に飛んできて、怜司は顔を押さえながら暫く苦悶した。

少し経ってから怜司が「今のはケツのより痛い」と言うと、司暮は「うるさい」と叱った。

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