暁の都が沈む時⑤
司暮の言葉を聞いて、少年は安心したように眠ってしまった。
やがて少年の呼吸は穏やかになり、痙攣も収まりだした頃、2人の傍にどこからともなく金色の竜が現れた。
その竜はカンガルーくらいの大きさで、2本足で地面に立ち、瑠璃色の綺麗な瞳で司暮を見つめていた。
その金色の体は、先ほど3人を乗せて飛んでいた竜よりも遙かに小さく、また墜落の衝撃によって酷く傷ついていた。
「ディルーノに調べさせましたが、あの建物の中には、もう生きている人間は居ないそうです。
病院、みたいですが…。」
「病院? どこか悪いのか、こいつ。」
「たぶん」
2人は後ろにある大きな建物を見上げながら、少年の身を案じた。
これ程大きな病院なのだから、相当な病気を抱えている事は想像にかたくない。
加えてあの建物の中に生存者が居ないとなると、付き添いで来ていたであろうこの子の親も、既に亡くなっている可能性が高い。
もしこの子がこの先助かったとしても、この子は無事に生きて行けるのかと、2人は暫く無言で少年を見つめた。
「お前も飲むな」
暫くすると、相手をしてもらえなかったディルーノが川の水を飲もうとした。
それに気付いた怜司がディルーノの頭を小突くと、ディルーノはグウゥと低い声で不満そうに唸った。
「あの建物の中は、ディルーノでも応えるほどの火の海だったそうです。
よく無事でしたよ、この子。」
そう言いながら司暮は、怜司の飲み水が入ったボトルを逆さまにして、ガポガポと遠慮なく金色の竜に与えていた。
「おい」
それに対して怜司は抗議の声を上げたが、先ほど司暮からさり気なく渡された酸素ボンベを何となく受け取ってしまって、
片手に少年、片手に酸素ボンベという状況で、身動きが取れずにいた。
「貴方はこの子に、このくらいの報酬は支払うべきです。」
「なに?」
為す術もなく金色の竜の胃袋に入っていく水を眺めながら、怜司は不機嫌そうに聞き返す。
しかし、それにも増して不機嫌そうに答えたのは司暮だった。
「全く無鉄砲にもほどがあります。あんなに猛スピードで急降下をさせるなんて…。
いくらなんでも、あそこからもう一度上がれと言うのは無理です。
今度ちゃんと、ディルーノに美味しいものをご馳走してあげてくださいね。」
水の入ったボトルを空にした司暮は、今度は簡単な治療魔法をディルーノに施しながら言うと、
怜司は呆れ果てたようにへいへいと素っ気のない返事をした。
その誠意のない返事に、司暮は何か物言いたげな素振りをしていたが、
子供が助かったことを考え、それ以上の文句は口にしなかった。