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1-2 怒
加湿器のシューという音だけの畳部屋に老人が寝ていた。横には夫人が付き添っている。名は美佐枝。彼女は病床の高次に長年連れ添ってきた。
二人の間には子が出来なかった。高次はそれを美佐枝のせいにし、何かにつけ彼女を責め、美佐枝はそれに黙って従うしかなかった。女子大を出てすぐに杜着いた彼女に口を糊する方途はない。空気も冷たく感じる檻の中のような夫婦生活。その中で美佐枝は、いつしか考えることを止めた。
そんな高次も最近身体を壊した。老いで満足に歩くこともできない。高次は長くもたないだろう。枯れ枝のようになった夫を見ている美佐枝。その目に精気はない。
その時、骨と皮だけの手が布団からニュッと伸びた。枕元の水を飲もうとしている。よろよろと手が伸び、それがコップを掴もうとした刹那、美佐枝はコップを載せた盆を手元に少しだけ引いた。高次の手がガサガサと辺りをまさぐる。
その手を美佐枝は精気の無い目でただ見つめた。
二人称 極端人間女
→場面設定より心裡描写をもっとかければ