36 帰り道
帰り道、一緒に帰っていて話がつきると、優壱は唐突にこう言った。
「お前と先輩、本当に付き合ってんの?」
「は?ひどいな、ちゃんと付き合ってるよ!」
何を言い出すんだか…。
「だって、一緒に帰るわけでもねーし、いちゃつくこともねーじゃん。」
うっっ!痛いところをつかれた。そう言われてみれば、そう。付き合い始めてから、約二週間。未だに手をつなぐことすらしてません。
勿論、私だって一緒に帰りたいし、いちゃいちゃもしたいですよ!!
で・も・ね
「周りに内緒で付き合ってるから、そういうことできない…かも。」
「鴨?」
「ちょっと!ヘンな漢字変換してないよね!?」
「どーどー」
「馬じゃないんですけど?はぁ、何を言おうとしてたのか忘れちゃったじゃん。」
「何で、かもがつくのかって話だよ。で、何で?」
「……だってさ、やる気さえあればちょっとはできるもん。」
「ちょっとって何を?」
優壱はニヤニヤしながら聞いてきた。なんか、デジャヴを感じる。
「手をつなぐとか!」
「まぁ、やろうと思えばできると思うぞ?お前も先輩のメアド、持ってるだろ?偶には一緒に帰りたいですってメールしてみればいいじゃん。」
確かに、連絡網は一斉メールでまわることが多いため、全員メアドを交換してある。携帯を持ってない人は、家電(固定電話)だけど、先輩は携帯を持っているから問題ない。
「でも、私が告白して付き合い始めたからさ、なんかワガママ言っちゃ悪い気がして……。」
「オレから言ってやろっか?」
「えっ?別にいいよ!気にしなくって!」
「そうか?」
「うん。別にいちゃいちゃできなくっても、先輩の彼女になれただけで嬉しいし。」
「ふーん。……オレだったら先輩みたいにしないけどな。」
何ですか!?その、オレだったら幸せにする発言は!
「好きな子にはちゃんと好きっていうし、いちゃいちゃだってしたい。普通はそうじゃん?」
そういうことか……。妙に心臓に悪いヤツ!
いちゃつきたい。普通ならそう考える。でもね……あくまでも、前提は好きな子。
「……先輩はきっと私のことを好きってわけじゃないんだよ。だって先輩は……」
私が口ごもると、優壱は急に慌てて話題を変えた。
「そっそういえばさ、翔馬が菜穂のこと好きなの、知ってる?」
「えっ、翔馬くんが?」
初耳だ。噂でも聞いたことナイ。翔馬くんってそういう噂はあまりないから。
「でもって、菜穂は翔馬のことが好きっと。」
さらに初耳!やっぱり、優壱は相談役なんだな〜。
私達は友達だけどそういう話はしないから。だって、もしも「優李の好きな人は?」なんて聞かれたら答えられないもん。
……あれ、さっきの話から行くと、もしかしなくても2人は好きあってるってこと?
「両想いじゃん!それで、付き合ってるの?」
優壱は、うーんと唸った。
「それがまだなんだな〜。」
「何で?」
お互いに好きなら告白した瞬間にうまく行くはずだ。
「翔馬は告白する勇気がない、菜穂は翔馬の好意には気づいているが、翔馬から告白してほしい。」
「なら、菜穂が翔馬くんに告白すればいいのに。」
「菜穂は告白されたことしかねーから、思いつかねーんだよ。」
うわ~~~~!!羨ましい!!私なんて、幼稚園のころと小1だよ?自慢にもなりゃしない。
「まぁ、このまま翔馬が動けないなら菜穂にアドバイスするけどよ。」
「アドバイス?」
「お前から告白したら?って。」
「あぁ~、なるほどね。それでうまく行けばいいんだけど。……そういえばさ」
優壱は告白しないの?
つい、口から出かけた言葉を飲み込む。これは、言ってはいけない言葉だ。私は、コイツが告白した場合に咲先輩がどう答えるのか知っている。絶対にそうなると確信している。それなのに……玉砕するために背中を押すなんてできない。
「そういえばさ、もうすぐ夏休みだね。」
「お前、気が早いなー!!」
笑われた。だって、代わりの話題が特に無かったんだもん。
「夏休みと言えば……」
「部活!」
「お祭り!」
同時だが、言葉は合わなかった。
「お祭りってっっ!!おまっっ!どんだけ遊びたいんだよっっ!」
また、笑われた……。近所迷惑ってくらいに……。
「えー!いいじゃん、お祭り!」
「やっぱ、部活だろ?夏休みはほとんど部活だーって梓姉も言ってたし。」
「えーっ!じゃあ、お祭り行けないの?」
からかわれても、好きなのは好きなのよ。
「いや、ある程度の休みはあるらしい。ほら、お盆とか。あと、お祭りは毎年部活で行くんだって。」
「部活で?」
「あぁ。「仲良し部活だもん!」って言ってたぜ?」
「ふ〜ん。まぁ、部活三昧でも結局は楽しいんだろうな〜。」
「どうだかな。」
「何で?夏休みと言えば部活!って言ったの、優壱でしょ?」
優壱はうーんと唸るとこう言った。
「楽しいだろうが、辛いだろう。」と。




