プロローグ
おおきなくりのきのしたで
あなたとわたし
なかよくあそびましょ
おおきなくりのきのしたで
*
久しぶりに小さな頃の夢を見た。
幼なじみだった女の子と遊んでいた夢だった。
もう遠い過去に感じた。
20年以上も昔の事であった。
町の大木に群がる子供達。
追いかけっこをしたりかくれんぼをしたり…
日が傾くと一人ずつ、一人ずつ家に帰っていった。
僕と彼女は家が近かったからいつも一緒に帰宅していた。
他愛のない会話をしていた。
同じクラスの人気者のりっちゃんの話。
隣のクラスの先生の奇行の噂話。
そして…他のクラスの気になる男の子の話。
どうでもいい話から身内の話まで。
大木の広場から家に帰るまでの、たった15分の雑談の時間。
僕にとっては大切な時間だった。
今、僕は既に家庭を持っている。妻は仕事の同僚だった。
妻と僕はいつも一緒に仕事をしていた。
僕はきっと、それで惹かれていったのだろう。
勇気を振り絞って告白し、付き合いはじめ、
二年間の交際を経てようやくゴールインをした。
だが…最近妻が冷たい。
何かがあったのかもしれない…浮気とか…
小さな頃は、あの幼なじみを嫁にすると信じて疑わなかった。
彼女と一緒にいるのは「当たり前」だと思っていた。
しかしそれが「当たり前」ではなかったと知ったのは中学生の頃だった。
中学生活ももうすぐ終わるという頃から、彼女の様子はおかしかった。卒業式が近付くにつれて、彼女は憂鬱そうな顔を見せるようになっていた。
当時の僕は、彼女の表情を不思議に思ってはいたが、気にとめることでもないと思っていた。
小さな頃、共に遊び回った
あの―――大きな栗の木の下で
彼女は僕に言ったのだ。
「タクヤ…ごめん。私…引っ越すことになったの。」
彼女の言葉に 僕は凍りついたのだった。