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現在午後八時

俺とユキは二人で町の外へと繋がる堤防へと向かった。

この時間帯、数ある街灯の下を歩く人間はいない。

皆自宅で夕食をとったり家族みずいらずでくつろいでいるんだろう。

この汚い町で。


堤防へ着くまでには距離がある。

その道、俺とユキは手をつないで歩いた。

俺たちはあの会話をしてから一言も話をしていない。

手をつないでいるのもラリアに無理やりつながされたと言ったほうが早いかもしれない。

別に放す理由もないし、ユキも嫌がっていないし。


人の命を守るためなら


俺の、この気持ちに従うためなら


何だってするよ



堤防に近づくと、建物の数が減るため明かりもどんどんと減ってくる。

空を見上げても、星のひとつも浮かんでいない。

それどころか月すら見えない。

すると、ユキが突然立ち止まった。


「?」


俺の手を握るユキの手に力が入った。

顔を覗き込んでも、暗くてよく見えない。

このとてつもない高さの堤防を前に、ユキは少しだけ震えていた


「ユキ」


「やっぱり、エドヴァさんは・・・」

「ヤダね」


俺は一度決めたことはよっぽどのことがない限り曲げない。はず。

ましてや命がかかってるとかそんなの


俺の偽善心を揺さぶるようなもんだ。



俺たちは堤防の見張りに見つからないように隠れながら少しずつ前へと進んだ。

思ったより数は少ない。

むしろいないほうがいいような感じ。

隙をついて、まだ堤防ができていないところに回り込んだ。


・・・・・・・

あっさりと町から出ることができました

見張りの意味あるのか?


「・・・・・」


ここでつかまるとまずいのでとりあえずもっと先に進むことにした。

町からずっと離れていくと、排気ガスかなんかで真っ黒く染め上げられた空は少しずつ晴れてきて、しばらくすると満天の星空を拝むことができた。


「・・・・・キレイ」

「うん」


空には星以外にも月が、まるでストレス発散をしているかのようにまぶしいくらいに黄色く光っている。



ドサッ


「!?」


無意識のうちにその場に座り込んでいた。

もうちょっと、ゆっくりこの空を見ていたかったから。

今なお手は握っている状況なので、いきなり座り込んだ俺につられてユキも思い切りしりもちをついた。

良かったことに、コンクリートの地面ではなく砂地だったから怪我はなかった。

というかこんな場所じゃなかったら俺も座らない。

ユキはそのまま、俺の隣にひざを立てるようにして座りなおした。


「・・・・さみしいね」


月の光に照らされたユキの顔は何の感情もなかった。

目線はずっと先で。


町を出て、空を見ながら歩いた。

空だけを。

小さいころ、堤防を作っていた時のことを思い出したくなかったから。

空はきれいだけど

それに合致するキレイな風景はそこにはなかった。

後ろを振り向けば馬鹿でかい機械でできた町。

目の前には

延々と続く砂漠。

少し遠くには気が数十本かそこらくらいの木がぽつぽつと並んでいる。


わかってたんだ

町から出ても

何もないことくらい

でも

この感情をもっと、味わいたかった。

ユキと一緒にいれば、この気持ちは消えることはない、この感情


人として決していいと言い切れない、この「偽善」のこころ

自分で自覚してるぶん余計にいいとはいえない。

それでも俺は



ユキは腕を伸ばし、遠くのほうを指差した。


「あそこ」


声は小さく、まるで思い出話でもするかのように


「私、あそこからきたの」


暗くて見えない

でも、ここではないものがある


っていうか


「思い出したの?」


今まで会話した中で、思い出したことといえば名前だけ。

急に思い出した割には普通だな


「ううん、知ってたの」

「?」


ユキは、座ったまま俺の方へ倒れてきた。

ちょうど、その辺によくいる地味なカップルを連想させるように、頭を肩に乗せて。

その状態でユキは話を続けた。


「なんで来たかはわからないけど・・・あそこからこの町に来たの。そしたらつかまった」

「へぇ」


短い文章だけど

人体実験で記憶をなくした訳ではないことは、わかった。

・・・・・・・


・・・・


「つかまった後何されたの」


肩にもたれかかるユキに反応はなかった。

知らないのか、はたまた言いたくないのか

わからないけど

とりあえずもう聞かないほうがいい、のだろう。


しばらくの間、沈黙だった。

すこし長く居すぎたらしい。

風で砂を吸い込んでいたみたいで、お互い少し咳き込んでいる。


「そろそろ行くか」

「・・・うん」


俺は先に立ち上がって、ユキが立ち上がる手助けをする。



その瞬間、辺りが見えなくなるほどのまぶしい光に包まれた。


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