狐火
幼馴染が地域の伝説を調べ、現れた赤い狐から自分たちが悲恋の二人の子孫だと知る。
狐火、鬼火、人だま、火の玉、いろんなものが光るのですね。なんとなく違いが分かるようで、いざ説明しようとすると良く分かりませんが。
「徹♡」
「篠?」
高校の帰り道、幼馴染で高校も同級生の篠田に声をかけられた。
篠のやつ、このごろ可愛くなったな、高校デビューってやつかな?下の名前じゃなくて僕はいつも篠って呼んでいる。子供の頃からだから、呼びやすいんだよね。
「私図書委員の帰りなの。」
僕は委員会も部活も入っていない。第一希望の高校に入るのに、全エネルギーを使い果たして、何もする気が起きない日々なのだ。
篠も僕も、中学時代は同じ図書委員会で活動をしていた。篠は高校は楽勝で入学している。だから部活も委員会もやっていけるのだろうな。
僕は小学校の低学年の頃は病気がちで家で本ばかり読んでいたから、それなりに本は好きだった。それだけの理由で図書委員になっただけだった。
「徹は最近はなんか面白い本読んだ?」
「いや、この頃はもっぱらネットだよ。」
「へえ、どんなサイト見てるんだろう、AVとか(^-^)」
「違うよ、伝説とか民話とか、たまにオカルト、都市伝説とか。」
「そうかあ、中学の頃、良く世界の民話全集読んでたわね。」
「今は日本の妖怪とか、物の怪の話が多いかな。」
「そうなんだあ。私ね、図書委員会で秋の文化祭の展示の準備してるの。日本の妖怪の特集をするんだよ。それで妖怪の話、調べてるところなんだ。」
久しぶりに篠と話した。女の子は苦手だけど、篠とは普通に話せる。幼い頃から仲良かったから気が楽なんだろう。僕はいわゆる女子トークが苦手だ、それに合わす男子もいるけど、僕にはできない。
その日から放課後は、篠と一緒に地域の伝説やら民話を調べるようになった。
「ねえ徹くん、この間じいちゃんに聞いたんだけど、榎木町に狐火の伝説があるんだってさ。」
「狐火?」
むかし、石工の米吉と言う男が罠にかかった狐を助けるのだが、その後狐がきれいな女の人に化けて米吉を訪ねてきて、そのまま嫁になったという。美しい女でしのと名乗っていた。でもある日旅の修行僧に正体を明かされ米吉の元を去ることになる。
「恋しくなったら榎木の下に来てください、私は炎になって現れますから。」
と別れ際にしのは言った。
その後米吉は、恋しくなると榎木の下に行き、炎になったしのと会うようになったそうだ。
やがて年老いた米吉は、ある日榎木の下でこと切れるのだけど、その時炎は青く瞬いたのだそうだ。
「なんか切ないね。」
「あれはリンが燃えてるとか、光の屈折だとかいろいろな説があるみたい。」
「うちのじいちゃんが言ってたけど、篠田家は伝説に関係があるらしいの。」
「へえ、じゃあ篠も狐だったりして。そういやあお稲荷さん好きだったよなあ。」
「ばかあ!」
目を吊り上げて怒られた
「やっぱ狐。」
篠田家は宮司の家系で、元々は篠田稲荷と言う神社を守っていたようだ。
「その神社って、今はないんだよね。」
「うん、戦争が終わるとこのあたり開発が進んで氏子さんもいなくなって、それで閉ざされたみたい。」
「神社はどこにあったの?」
「榎木町の篠田公園に祠があってそこだったそうよ。今は立ち入り禁止になって柵で囲まれてるのよ。祠は男が亡くなった時に穴がふさがれたそうよ。」
僕と篠は、土曜の午後祠を訪ねることにした。
都会化した街だけど、中心街を抜けるとまだまだのどかな田園地帯だ。交差点の角地に大きな榎木が立っていて、そこに篠田公園がある。その傍らに土手のようなこんもりとした土の山があった。それが祠の跡らしい。土手の中央には大きなでこぼこした石がはめ込められていた。
「なんかお墓みたいだな。小さな円墳みたいだ。」
「古墳が削られたんじゃないかって言う人もいるみたい。」
僕らは祠の周りを巡ってみた。土の山には登れないように柵がある。
「ねえほら、ここ見て!」
篠が呼んだ。
「ほらここ。」
祠の隣に大きな石板のようなものが建っている。
「ねえこの石板みたいな石、今気がついたんだけど夕日が当たっているでしょ。これをここから見ると。」
大きな石板はでこぼこしていて、夕日に当たると影が出る。その影は。
「狐!」
「これが狐火かな?赤い夕陽の影が狐の影を作ってるし。あれ?」
篠が僕にしがみついた、だって影が浮き上がってきたのだもの。
黒い狐の影は立体になって、色が赤い色に変わっていった。
目の前には赤い狐が一匹座っていた。
「うわ!」
僕も篠に抱き付いた、チャンスかもしれない、って僕は何考えてんだ。
赤い狐は僕らを見ていた
「コワガラナクテモイイヨ」
「え?」
「そう私はココノキツネってコトニナルよ。」
言葉が、狐言葉みたいになったり、人の話し方になったりしてる。
「あの伝説の女の人に化けた奴?」
「化けたヤツハナイヨネえ、ワタシはこれでもメス狐、人ナラうら若キ女性ヨ。」
「ご、ごめんなさい。」
「ワタシと米吉ハネ、本当は実らない恋びとドウシダッタノヨ」
「恋人?」
「ソウあの頃はミブンガ違うと一緒にナレナかったの。それで米吉と私は榎木でこっそりアッテタノよ。結バレナイ恋ダッタノ。でも怪シマレルカラ、米吉ハココヘ人ガ来ナイヨウニ、石に狐の影ガ出ルヨウニ細工ヲシタノヨ。」
「そうかあ、昔は今みたいにあたりに何もないから、もっと影がはっきり映ったんだ!」
「そこから狐伝説が生まれたんだ。」
「ソウ、そしてしのの子孫ハ、篠田家となっタノヨ。」
「私のご先祖様ってわけかあ。」
「ソシテ徹サン、アナタハ米吉ノ子孫二ナルノヨ。」
「ぼくがあ?」
「ソウ、貴方ノオ母様のオジイサマの名字。」
「米本!」
「ワタシハネ、いつか私たちの子孫がワタシタチのような悲しい思いをシナイデスムヨウニなればとネガッテイタノ。でもやっとその願いガカナイソウヨ。」
えっ、篠と僕は顔を見合わせた。僕らの顔は茜色、夕日に照らされているからじゃない。
高校を卒業すると、僕らは同じ大学に進学した。一緒に民俗学を学ぶためにだ。そして大学を出た年、僕らは祠の前たっていた。僕と篠の薬指には結婚指輪がついていた。
心もち石板は赤く輝いた。
内容はロマンチックショート、のような感じです。




