第1話「別れがあっても再会は来る」
東京25区の一つ埋土区、大田区から海に向かって作られた埋立地であり、ここはその風螺という街。
埋土区は以外にも大きくて、豊島区くらいの大きさはある。
発展レベルはさすが都会。
駅に来ただけで、広くて、人が多くて、眩暈がしそうだ。
どうにかして東改札口に辿り着き、駅を出る。
待ち合わせの公園までは徒歩5分らしい、それくらいなら迷うこともないだろう。
街並みを見渡し、見惚れながら歩く。高いビルが並び立ち、外国人も多くいる。
観光客に在日外国人ひいては不法滞在者、あり方は様々だが、日本人はそれを少し怖がったりもする。
歓喜・恐怖・悲傷、一目見ただけで、この街にあふれる感情が読み取れた。
人を惹きつけるものが、この街にはある。
「隼人!」
数時間ぶりに呼ばれた俺の名前。
この街でその名前を知っているのは、一人しかいない。
「ひさしぶりだな、春樹」
「ひっさしぶりだなぁ!てか、ずいぶんでかくなったじゃねぇか!」
「まあ、180は超えたな」
「おま、俺より2cmもでかくなりやがって」
久しぶりの再会に、お互い少し緊張しているのか、話している内容が本当にどうでもいいことばかりだった。公園のベンチに座り、お互いの近況を聞くまで少しだけ時間がかかった。
「隼人はこの2年間、どうだった?って、ここに来ちまった時点で、いい人生を送れたとは思えないけどな」
「まあ、そうだな」
風螺、埋立地ではあるが、発展している。
しかし、住んでいるのは社会的地位の低いものや、社会に出てこれないようなヤバい奴ばかり。
商業や観光で発展しているからこそ成り立っているだけの、ゴミの掃きだめとも呼ばれるらしい。
「この2年は、今まで通りやってきたつもりだよ」
「今まで通りやってきたら、高校を中退、親からは絶縁されて、
親友の俺がいるこの街へ単身やってきたと―――――お前って、そんなへまするような奴だったか?」
春樹がいた頃はうまくやっていた、うまくいっていた。
露呈することもなかったし、絶縁なんて考えたこともなかった。
だけど、人生何があるか分からないものだ。
「お前はどうだったんだよ、春樹?」
「俺は・・・・今まで通りってわけには、いかなかったよ。
ほら?2年前の俺って、結構荒れてただろ?」
荒れてた、なんて簡単な言葉ですませるあたり、春樹も変わっている。
春樹は2年前、喧嘩上等が好きな言葉だった男だ。
肩がぶつかれば喧嘩をし、気に入らない奴がいれば喧嘩をし、ナイフを向けられたときは半殺しにした。
狂犬という言葉が最も似合う男だった。
「でも、あの精神でこの街に来たら、ボコボコにされちまってよ」
「おまえが?」
「ああ。自慢じゃないが、喧嘩の腕には自信があったんだけどな。
この街で一番つええ人に喧嘩売っちまって、ボコボコにされた。
カラーマフィアに拉致られてボコられたこともあったよ。
まあ、そんなこんなな2年を歩んだら、ある程度落ち着いたものさ」
「そうか、お前も、いろいろあったんだな。
ていうか、拉致られたのか?」
「ああ。カラーマフィアはヤバいぜ、関わんないほうがいい」
「俺も少しは調べたよ。暴行・強姦・窃盗、いろいろ犯罪にも手を付けてるヤバい奴らって」
カラーマフィアは風螺にしか存在しないが、その危険度は本物のマフィアにも劣らないという噂を聞いたこともある。
「ちょっと歩きながら話そうぜ」
そう言われて、俺たちはベンチから立ち上がった。
この知識でしか知らない風螺の街を、自身の目で確かめながら俺たちは話を続ける。
「カラーマフィアってのはさ、元はカラーギャングを母体として組織化された犯罪集団なんだ。
ただの不良少年たちの集まりだったカラーギャングは、犯罪を起こしても、そこまで大きなものじゃなかった。
でも、12年前に、カラーギャングに裏社会の大人たちが近づいたらしいんだ。
その大人たちの手によって、カラーギャングは本格的に犯罪組織化されていった。
今では、殺人・密輸密売・拉致監禁、数えきれないほどの重犯罪を犯しているって噂だ。
まあ、噂と言ってもほぼ事実みたいなものだけどな」
やってることは本物とたいして変わらないじゃないか?
「なんで捕まらないんだ?」
「捕まえられないのさ。跡はつかないし、あいつらもやたらめったら殺しや暴行をするわけじゃない。
ある意味、不要な犯罪を防ぐ抑止力にすらなっている」
「抑止力って、カラーマフィアがつけあがるだけなんじゃないか?」
「ああ、普通ならそうなる。でも、この街には、
カラーマフィアの抑止力となるカラーマフィアが存在するんだぜ」
カラーマフィアの抑止力が、カラーマフィア?
「頭の上にクエッションマークがついてるぜ。
まあいいや、教えてやるよ!
この街には、3つのカラーマフィアが存在する。
風螺最大のカラーマフィア、ブラックフォッリア。
風螺一凶暴なカラーマフィア、レッドブラッド。
この2つのカラーマフィアは対立しているから、基本的に縄張りが分かれている。
そして3つ目、風螺の守護者、ブランプリテットーレ」
「風螺の、守護者?」
「そ!たった12人の少数精鋭のカラーマフィアなのに、
他2つの組織と拮抗する力を持つカラーマフィアだ。
なにより、このカラーマフィアの特徴はな、政府公認ってところなんだ!」
政府公認のカラーマフィア?
それは・・・・・マフィアじゃないんじゃないか?
「ブランプリテットーレはな、この街をカラーマフィアから守るために設立されたカラーマフィアなんだ。だから、銃を持つことも許されてるし、カラーマフィアの犯罪を止めるためなら、構成員に限り殺人も許されてる」
「随分と大盤振る舞いじゃないか?人殺しまでОKなんて」
「それだけ、カラーマフィアが危険ってことだよ」
カラーマフィアが危険なのは理解した。
でも、この街にこれだけ多くの人がいると、そんなに危ない街とは信じられない。
「この街はさ、魅力的なんだよ。
どんなに闇を抱えている人間も、この街の抱える闇の前に立ったら、呑み込まれる。
自分の闇なんて、ちっぽけなものだって思えてきちまう。
だから俺らは、この街に居続けるんだ。たとえこの街が、いくら危険でもさ」
「この街の闇、か」
俺も、その闇にのみ込まれる一人なのだろうか。それとも、もう既に……
「隼人?暗い顔してるぜ?」
「ああ、ごめん。この街のこと、もっと教えてくれよ」
「もちろん!カラーマフィアについては、今軽く説明しただろ?
今から話すことは、カラーマフィアに関係するこの街で最も覚えていなきゃいけない話だ」
「一番大事な話?」
「そ!風螺は風螺駅を中心に東西南北に分けられてるのは知ってるよな?」
「ああ、珍しく駅を中心として東西南北がどこも同じくらいの面積なんだよな」
「そう。そしてこの街では、東西南北で違う街と言ってもいい。
しつこいが、これから話すことは絶対に忘れないって約束してくれよ」
「わかったよ、約束する」
春樹がそこまで忠告するのだ、
俺がこの街を生きていくうえでそれほどに大事なことなのだろう。
「風螺は東西南北で拠点としてる人たちが違うんだ。
東風螺をブラックブフォッリアが、西風螺をレッドブラッドが拠点としてる」
「東西をカラーマフィアが拠点にしてるってことは、
縄張りで危ないから東風螺と西風螺には近づくなって話か?」
「それは違うぜ!別に近づいても遊んでてもいいけど、
問題を起こせば面倒ごとになる可能性が高いってくらいだ。
カラーマフィアは基本的に一般人には手を出さないしな」
「じゃあ、なんでこの話を?」
「まあまあ、話はまだ終わってないぜ。
なにも拠点にされているのは東西だけじゃないってことだ」
つまり、北と南もカラーマフィアが拠点にしているのか?
さっきのブランプリテットーレってのか?でも、それなら一つ足りないが……
「北風螺は獅子心王、レオン・ドラゴンハートって人が治めてる。
まあ、本名かは知らないけどな」
「獅子心王?なんだその、中二病みたいな。それに治めてるって?」
「昔のイギリスの王様の異名らしいぜ。
レオンさんが偉く騎士に憧れてて、そう名乗っているらしい。
それと、レオンさんはカラーマフィアじゃない。
政府公認の組織でもないし、犯罪に手を染めている組織でもない。
ていうか、レオンさんはどこにも所属していない」
「一匹狼なのか?」
「そういう訳じゃないんだけど、あの人もよく気に入った奴を仲間に勧誘したりするんだが、いつも断られてるだけだ。
レオンさんに会えばわかるけど、あの人の下に就こうって気には、どうにもならなくてな」
「悪人なのか?」
「良い人さ、けど危険だ。
レオンさんは騎士に憧れてるって言ったろ?
その行き過ぎた思想で、あの人は生きてる。
だから、北風螺でもめ事が起これば、犯罪が起これば、レオンさんが飛んでくる。
飛んできて……悪人を殺す。
警察でも止められないから、悪人しか殺さないなら危険度はないとしていつの間にか、見過ごされるようになった。
まあつまり、北は安全だけど、もめ事一つ起こしただけで殺されるから危ないって話だ。
そして最後に南風螺。
あそこは拠点としている人も、治めている人もいないから無法地帯になってる。
一番危険だから、南には近づかないほうがいいぜ」
「話をまとめると、どこもかしこも危ないって話だな」
「そゆこと!」
東西にカラーマフィア、北に異常者、南は無法地帯か……
「うまくやっていける気がしないな」
「だぁーいじょうぶだって!俺とお前で、この街を生き抜こうぜ!」
「俺はまず職探しだけどな」
春樹は高校を中退して働いているらしいが、俺は現状無職。
アパートを契約するまでは、春樹の家に泊めてもらうしかないんだから、職探しは早急に行わないと。
「それなんだけどさ、俺の働いている焼き肉屋で一緒に働かないか?」
「いいのかよ?仕事のあっせんまでしてもらって」
「いいんだよ!俺ら親友だろ?それに、店長には許可もらったしさ!」
相変わらず下準備のいいやつだ。
今回は好意にあずかるとしよう。
「じゃあ、お願いするよ」
「よっしゃ!それじゃあ、今日は帰るか!もう夜だしよ!」
「だな!」
夜の街に輝く光。街は活気にあふれ、恐怖を思わせ、人を惹きつける。
俺のこれから……俺の抱えた闇が、この街に溶け込むまで、そう時間がかからないことを願う。




