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1話:勇者召喚、そして残酷な現実。

 重たい空気感の中、気にもせずに椅子に座る男はミカに向けて話を始めた。


「勇者よ、この国のためにその力を振るうが良い」

「王様、ここは順序が違いますぞ…」彼はふっくらした椅子に座る男に向かって確かに【王様】と口にした。


「わしもまだ、名乗ってなかったな。

 ルスタフ三世である。」

 

 彼はこの【アストラ大陸】を統べる王様アストラ王国の国王『ルスタフ三世』という偉い人だった。

 

「この世界は魔王の勢力が増し、今では人間界の一部を支配されてしまっておる。

 そこで、別の世界から勇者を召喚した。この世界を救ってはくれぬか?」

 

 しかし、ミカはとてつもなく違和感を感じ取りながら王様の言葉に耳を傾けていた。

 

 その時、国王の隣に控えていたローブ姿の一人が、無表情に一歩前に出た。彼は、アストラ王国宮廷魔導士長、ゲイルはミカの前に立つ。


「その……疑う訳ではないが、勇者としての素養を俺のスキル『鑑定』で調べさせてはもらえないだろうか?」

(確かに自分スキルを知っておく必要はありそうね…魔王みたいなボス相手は怖いからチートスキルはありがたい!)

「では、お願いします!」

「よし、早速やってみるぞ!スキル──鑑定!」


 彼の掌が淡い光を放ち、それがミカの身体を包み込む。ひんやりとした、しかしどこか威圧感のあるモノが全身を駆け巡る感覚に、ミカは思わず身震いした。


 数秒後、鑑定のスキルの発動が終わり、ゲイルは眉をひそめ、低い声で王に告げた。

 

「……陛下。ご報告致します!この者には一切の魔力回路が確認できません。ゆえに、いかなるスキルも有しておりません。残念ながら、勇者としての素質は皆無でございます!」

 

 その言葉は、その場にいた全ての人々に重い空気をもたらすと、ミカはただ、彼らの下卑(げび)た眼差しに耐えきれずに下を向いていた。

 

 国王の顔が、見る見るうちに不機嫌に歪んだ。そうして彼はミカを断罪するかのように罵倒した。

 

「勇者がスキルなしだと!? 馬鹿な! これほどの魔力を消費して召喚したのだぞ!?」

 

 国王の怒声が、広間にこだまする。ミカは、彼の剣幕に圧倒され、ただルナを抱きしめることしかできなかった。ルナはミカの腕の中で小さく震えている。

 

「使えない勇者など、我が王国には不要だ!」

 

国王は苛立たしげに玉座を叩いた。

 

「魔導士長! この娘を元の世界へ戻すことはできるのか!?」

 

その問いに、ゲイルは沈痛な面持ちで首を振った。

 

「不可能でございます、陛下。異界からの召喚は、一度行えば帰還の術はございません。古の儀式書にも、その記述は明確にございます」

「なにぃっ!?」

 

 国王の怒りは頂点に達した。ミカの心臓は、けたたましく鳴り響く。

 

(元の世界に、戻れない? )

 あのアパートの部屋に、ルナと二人で過ごした日常に、もう二度と帰れない?

 

 絶望が、ミカの全身を支配した。足元から冷たい水が這い上がってくるような感覚に襲われ、膝から力が抜ける。

 

「……くっ、使い物にならぬ召喚者め! 国費を無駄にしたばかりか、この国に縛り付けるとは!」

 

国王は吐き捨てるように言い放った。


「即刻、この国から追放せよ!」と一喝する国王を宥めるようにして魔導士長のゲイルは言った。

「国王…ミカ殿に召喚時に何かしらの褒美を渡さなければ女神セラフィナス様より神罰が降ります」


 その言葉に王ルスタフ三世は血の気が引いたかのようにスーッと玉座に座った。

 

「よいか! この女には、せいぜい一月ほど暮らせる程度の謝礼金(報酬)と、最低限の生活ができる収納袋(ストレージバック)を与え、今すぐに城から追放せよ! 」

「えっ、ちょ、ちょっと待って…私はこの世界を知らないんですけど!?」

「知るかっ!お前は魔獣の群れの中に捨てられないだけありがたく思うのだな……連れてゆけっ!」


 号令は兵士に告げられ、複数人の屈強そうな男たちに囲まれたミカは半強制的に連行された。

 

 王様のあの言葉が、ミカにとっての決定打だった。勇者として呼ばれたはずが、スキルがないというだけで、見知らぬ異世界で捨てられる。ミカの視界は、絶望と悔しさで歪んだ涙で滲んでいった。ルナが、ミカの腕の中でそっと顔を擦り寄せてくる。

 

「っ……ルナ……」

 

 ミカは、震える手でルナを抱きしめた。頼れるのは、もうこの小さな黒猫しかいなかった。


 

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