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第25話 死の魔女




「お前は死ぬ。17歳の秋にな」

「……誰……!?」


目の前に立つのは、さっきまで会っていた生命の魔女とは明らかに異なる存在だった。

魔女の家の中、紫色の髪をした大きな女が、薄闇の中に堂々と立っている。

彼女の目は深い夜の色をしていて、その視線は冷たく、すべてを見透かしているようだった。


私は咄嗟にあたりを見渡す。

「ジルは……!?」


あの彼の姿がどこにも見当たらない。


「ここは夢だ。現実ではない」


魔女は悠然と答えた。その声はどこか心地よい響きを持っていたが、それが逆に不気味だった。


「お前がここに留まってくれて助かった……私は死の魔女、アダラ」


死の魔女……!?

その名前に、背筋が冷たくなる。


「アダラ……貴女が私にあの不気味な夢を見せているの?」

「ああ?」


アダラは少し目を細め、私を値踏みするように眺めた。


「なんのことだい? 私がお前の夢に干渉できるのは、お前がこの家で眠ったからだ」

「え……?」


「それまでは、お前の見る夢なんぞ知ったことではないよ」


彼女の言葉に、私は混乱する。

――それなら、あの夢は誰が見せているの?


私がジルを殺す夢。

ずっと繰り返し見続けてきた、あの悪夢。

死の魔女が見せているものじゃないの?


「私が死ぬって言ったけど……まだ運命が変えられるかもしれないじゃない」

「変えられたら困る」


アダラは私の言葉を即座に否定した。


「お前はすでに『願いの魔女』の力で、死ぬはずだった多くの生命を生き長らえさせているんだ」

「……私が、願いの魔女の力で?」

「そうだ。五年前のことを思い出せ」


五年前――。

確かに、その頃、大きな病が流行っていた。

貴族も平民も関係なく、多くの人々が命を落としたはずだった。

でも……


「お前が願いの魔女の力を使ったせいで、本来死ぬはずだった人間が死なずに済んでいる」


アダラは淡々と告げる。


「その歪みを取り戻さなければならない。だから、お前には死んでもらう」

「取り戻すって……なぜ? どうやって……?」


私が恐る恐る問いかけると、アダラは小さくため息をついた。


「魂の数は予め決まっているんだ。それが、今生きている数が多すぎる」

「……!」

「お前が死ねば、バランスは元に戻る。お前の死を引き金に、病で死ぬはずだった者たちは皆、本来の運命に戻るのさ」

「そ、そんな……!」

「だが、病だけでは足りないかもしれないな。ならば、大災害でも起こることになるだろう」


まるで天気の話でもするかのような口調だった。

私が絶望しているのを見ても、アダラの表情は微動だにしない。


「そんなの……おかしい……!」

「おかしい? そんなものは関係ない」


アダラは静かに、しかしはっきりと言い放った。


「運命とはそういうものだ。お前がその流れを変えてしまったのなら、お前が責任を取るのは当然だろう?」


冷酷なまでに理不尽な言葉。

けれど、その声音には一片の迷いもなかった。


「お前は、遅かれ早かれ死ぬ運命だった」


アダラの瞳が、深く、深く私を見つめる。


「だから、17歳の秋に死ぬ。それが定めだ」


その瞬間、全身が凍りついたように動けなくなった。


「全て丸く収める方法はないの?」


私は震える声で問いかけた。


アダラは一瞬、面白そうに目を細め、そして冷たく笑う。


「お前の都合でか?」


その言葉には嘲るような響きがあった。

だけど、その後、アダラは少し考え込むように沈黙した。


そして、ゆっくりと言葉を継ぐ。


「……まあ、魔力の強い生贄を捧げれば。少し生命が多くても、魔力量のバランスは取れるな」

「魔力の強い、生贄……?」

「そうだな……例えば、お前の”大事な人間”のアイツとかな」


大事な人間。


その言葉に、私は悪夢の中で聞いたあの声を思い出した。


シンゾウ ダイジ サズケロ ニンゲン


あれは……


“大事”な “人間” の “心臓” を “授けろ”


……だとしたら?


アダラが言っていることと、あの夢の内容が恐ろしいほどに辻褄が合う。


私が死を免れる代わりに、“大事な人間”の心臓を差し出す。


「……ジル……?」


唇から零れたその名は、まるで呪いのように重く響いた。


「まあ、お前が死ぬことになるだろうな。あの男の寿命はまだまだ先だ。また他の魔女の力が働きかけない限りはお前とお前が救ってしまった間違った生命が死ぬだけだ」


そう呆れた顔をして言った。


──私が死んだらガルガンで死ぬはずだった人々が皆死ぬ……

それを助けたいなら、魔女に協力してもらってジルを生贄に捧げるしかない……?


私は絶望した。


「はっ、精々悩め。私は自分の役割を果たせたらそれでいい」


そう言ってアダラが風に紛れるように姿を消したあと、私は目を覚ました。



読んで頂きありがとうございます(ᴗ͈ˬᴗ͈)

楽しんでいただけたら評価、ブクマなどなど反応いただけたら嬉しいです• ·̫ •


次回は明日の18時30分頃更新予定

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