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第23話 魔女の家



次の日の朝。

外はまだ吹雪いていて、私たちは持ってきた食料を食べながら天気が落ち着くのを待っていた。


「ミラ、体調はどうだ?」

「うん。やっぱり魔力が吸い取られている感覚がある……もう簡単な魔法も使えないわ」


私は手のひらを開き、ほんの少しでも魔力を込めようとしたが、何も起こらなかった。

まるで、私の魔力そのものがどこかへ流れてしまったみたいに。


「やっぱり、この街と魔女の家が関係しているのかもしれないな……」


ジルは考え込むように目を伏せた。


「……っ!」

「どうした?」


私は思わず肩を震わせた。

昨日の夢の記憶が、まるで現実のことのように鮮明に蘇る。


――夢の中で、黒いローブを纏い、ジルに刃を振り下ろそうとしていた自分を。


「なんでもない!虫がいてびっくりしちゃって!」


咄嗟に取り繕ったものの、ジルは疑わしそうに目を細めた。


「虫……? こんな吹雪いてる山中の小屋に?」

「冬でも出る虫がいるでしょ!たぶん!」

「ミラ……隠してることがあるのか?」


ジルの真剣なまなざしが突き刺さる。


「……ごめん」

「また謝ったな。それはどういう意味の謝罪なんだ?」

「……言えないの」


私は視線を逸らした。


ジルの表情が強張る。


「なぜ言えないんだ? まさか、男関係じゃないよな?」

「違うよ! ジルに嫌われたくないから、言えないの……」


ジルの顔が一瞬で安心したようなものに変わった。


「……男関係じゃないならいい。でもな、俺は絶対にミラを嫌ったりしない。それだけは覚えておいてくれ」


――私が、ジルを殺す夢を見ていたとしても?


喉の奥が詰まる。

言葉にすれば、現実になってしまいそうで怖かった。


私はとっくに、ジルに執着しているのだ。


「ミラ、少し雪が落ち着いたぞ。今のうちに進むか」

「そうだね」


私たちは魔女の家を目指し、再び歩き始めた。


山を登り切り、山頂の小屋で一晩を過ごすと、今度は反対側を下りていく。

登りよりも下りのほうが早いとはいえ、休憩を取る場所もなく、ひたすら吹雪の中を進んだ。


ようやく、夕日が山の端に沈みかける頃――


「……あれか?」


ジルが指さした先に、ポツンと建つ一軒の家があった。


古びた石造りの家。

けれど、どこか威圧感がある。


何よりも奇妙だったのは――


「この家のまわりだけ、雪が積もってない……?」


私たちは顔を見合わせた。

この谷間の街では、常に雪が降り積もっているというのに、魔女の家の屋根も庭も、雪のかけらひとつ見当たらなかった。


「……誰もいないみたいだな」


ジルが扉を押してみるが、ビクともしない。

鍵がかかっているような音もしないのに、扉は微動だにしなかった。


「なんだこれ、まるで結界みたいだな」

「もしかして、魔法で閉じられてるとか……?」


ジルは少し考え、手のひらから魔術陣を展開させ魔力を集めると、火魔術を放った。

扉を燃やして、水魔術で消せば中に入れると考えたのだろう。


しかし――


「跳ね返された!?」


魔術は扉に触れることなく、弾かれ、空へと霧散した。


「どうするか……」


考えるジルを横目に、私は何気なく扉に手をかけた。


カチャッ


「え?」


次の瞬間、あっさりと扉が開いた。


ジルと目を合わせる。


「……ミラが鍵だったんだな」

「……そうみたい」


私たちはゆっくりと、魔女の家の中へ足を踏み入れた。


「埃……ないわね」


古びた建物なのに、どこもかしこも綺麗に整えられている。


「まるで、誰かが住んでるみたいだな……」


ジルも慎重に周囲を見渡した。


そのとき。


「これは……?」


ジルが机の上に置かれた一冊の手帳を見つけた。

表紙には何の装飾もない。


パラパラとページをめくる。


「魔女のことが書いてあるぞ」


私はジルの隣に寄り、手帳を覗き込んだ。



────────────────



――私はこれから、魂を複数に分ける魔法を使う。

魂一つ一つに神から与えられた役割を振り、天へと飛ばす。

私の肉体は滅びるだろう。

五つの魔女の魂の欠片とそこに込めた役割を記録しておく。


生命の魔女、天候の魔女、時の魔女、死の魔女、願いの魔女。


生命の魔女は、あらゆるものに命を与えるだろう。この力は何にでも生命を宿させる。たとえ魔物や人形などであっても。


天候の魔女は、気まぐれに天候を操るだろう。献上物があれば機嫌もかわり、希望を叶えるだろう。


時の魔女は、平等であろう。時を戻りも進みもできる。手助けした場合、その生命の記憶を消すだろう。


死の魔女は、生き物から魂を抜く。全ての寿命は、生まれた瞬間に運命づけられるだろう。一度決めた寿命は死の魔女本人は変えられぬ。


願いの魔女は、どんな願いも叶える。ただし、矛盾が生じた場合は、より強い願いが優先される。それがどれだけ憎しみや邪悪な願いでも。


基本この力は意識的にも無意識でも働くもの。

無意識の状態では機嫌や気持ちの浮き沈みなどでその力の強弱は変わる。

神はこの力を一人で意識的に操っていたらしいが、私一人にはこの力を神のように使いこなす事はできなかった。


それぞれの力は一度使ってしまえば、なかなか元に戻すことは難しい。

だが、自分以外の他の魔女の力で運命は変わる。

五つに別れようと、五人は私一人である。



──────────────


「……あの伝承、本当に事実だったのね」


ジルが手帳を閉じ、静かに息を吐く。


「学園長は、ミラが魔女ではないかと予測していたが……この手帳の内容だけでは断言できないな」


「……でも、『死の魔女』……」


私は先ほどの手帳の一節を思い出し、声に出した。


──"全ての寿命は、生まれた瞬間に運命づけられる。

 一度決めた寿命は、死の魔女本人には変えられぬ。"──


「……私の死の運命は、もう決まってしまっているのかも……」

「そんなことを言うな……!」


ジルの声が震えていた。

気づけば、彼の手が私の腕を強く掴んでいる。


「ごめんね……」

「……死の魔女本人には変えられない、だけだ。

 自分以外の魔女の力で、運命は変えられる……そう書いてある。まだ希望はある」


──希望。

でも、それを見つけることができなかったら?


バタンッ──!!


突然、扉が勢いよく閉まった。


「っ!?」


私たちは反射的に振り向いた。

外では相変わらず雪が静かに降り続いている。

けれど、この家の中だけは、異質な空気に包まれていた。


そして、その瞬間──


「来ていたか」


頭の中に直接響くような、女の声がした。


「誰だ!?」


ジルが即座に剣に手をかけ、警戒する。


「まあ、落ち着け」


次の瞬間、家全体がガタガタと震え始めた。

まるで大地そのものが呻くように。


そして、私たちの目の前に眩い光が集まる。

その光の中から、やがて半透明の、美しくも神秘的な大きな女性の姿が浮かび上がった。


「……魔女?」


思わず息を呑む。


すると、彼女は微笑しながら、静かに言った。


「ふふ……そうだな。

 私は生命の魔女、ライナ。


 お前たちを、待っていた」




読んで頂きありがとうございます(ᴗ͈ˬᴗ͈)

楽しんでいただけたら評価、ブクマなどなど反応いただけたら嬉しいです• ·̫ •


次回は今日21時頃更新予定

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