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第16話 公爵家への誘い





暑さが本格的に感じられるようになり、汗ばむ季節がやってきた。

あの日から、私は悪夢を見なくなった。


「ミラリス様ー!火魔術をあの的まで届くようにするコツ教えてくださいー!」


セシルが少し落ち込んだ様子で私に教えを乞う。


魔術実技が始まり、今は火魔術の実技中だ。魔術は魔法とは使い方が異なるが、空中に魔術陣を描いて詠唱することで、魔力量測定不能の私でも問題なく魔術を使えた。


「ちゃんと、的に当てるイメージを持って、身体中に流れている魔力を陣に注ぎ込むよう意識してみて」

「はい!」


セシルは私の言う通りにしてみる。すると、さっきまで近くの地面にすぐ落ちてしまっていた火の玉は、弱々しくも的に向かって飛んで行き、見事に的をかすめた。


「やった!的に当たった!ありがとうございます、ミラリス様!」


元気よく跳ね上がって喜ぶセシルを見て、教えたことでこんなにも喜んでくれるなんてと思うと、なんだかとても嬉しい気持ちになる。


思わず顔が緩んだ。


「ミラリス様の微笑みが美し過ぎて、男子生徒たちが見とれていますよ……」


マリルが耳元で囁くので、周りを見渡す。


──バシャッ


大きな水音が響き、上から大量の水が降り注ぎ、多くの男子生徒たちが全身水浸しになった。


「な、何!?」


驚いて水が降ってきた方を見上げると、そこには大きな魔術陣が展開されていた。


「ミラリス様!あれ!」


セシルが指を指した先を見ると、遠くの方で2年生たちが水魔術の実技を行っているのが見える。その中にジルがいて、険しい表情でこちらを見ているのがわかった。


この膨大な魔力を使って作られた魔術陣、そして2年生が行っている水魔術の実技……どう見てもジルがやったものだと予測できた。


「嫉妬ですね……」

「本当に愛されているんですね」


セシルとマリルが、私を横目にニヤニヤと顔を見合わせている。


「ほら!二人とも、もっと練習しないと!実技試験が待ってますよー」


私は焦って、二人の背中を押しながら誤魔化す。


そして、見ていない隙に、濡れてしまった男子生徒たちが乾くようにと、心の中で強く「乾いて欲しい」と思い描きながら風魔法を使った。瞬く間に、男子生徒たちの服や髪が乾いていく。


「わ!なんだ!?」

「急に乾いた!?」


生徒たちが驚く様子を横目に、ジルがいる方向に目をやると、さっきよりもさらに険しい顔をしているのが見えた。


一瞬にして私を見ていた男子たちだけに魔術を向け、全身を水浸しにするなんて、なんて無駄な魔力の使い方……。

それに、あの位置から正確に見えるなんて、ジルの目は良すぎるわ




──あの日以来、結局キンリーの魔女の家に行くことは保留になっている。


ジルに学園を休ませるわけにはいかないし、私一人で行くのも許してくれないだろう。


お兄様に頼んでみたい気持ちもあるけれど、今や彼はここ、王立魔術卒業をして父と一緒にいる時間がほとんどで、父が私のわがままで息子と数週間も離れるなんてあり得ない。


ほぼ100パーセント無理だけれど、頼んでみるのもありなのか……?


ジルは焦っているようで、毎日私に返事を催促してくる。


「迷っている」と伝えると、「あまり時間がないから早めに決めて欲しい」と言われる度に、私はますます気が進まなくなる。


まだ一年と少しもあると先延ばしにしている私に対して、ジルはもう一年と少ししかないと思っているようだ。


──仕方ないじゃない。そう思っていないと、私は心が耐えられず、普通の生活を普通の顔で送ることができない。本当は、知るのが怖いのだ。


知ってしまったら、取り返しのつかないことが起こりそうな気がしてならない。



……どうか、気のせいであってほしい。



◇◇◇



「ミラリス様、さようなら」

「またあした!」


セシルとマリルは私に挨拶をして教室を出ていく。


「ミラ」


そして、いつものように優しい声でジルが私の名前を呼んだ。


「いつも迎えに来てくれてありがとう」

「俺が好きでやっている事だから」


学園の敷地を抜けるまでのたった10分程度。

私にとってはとても大切な時間になりつつある。


最初はまるで気にしていなかった、横を並ぶジルとの距離感。触れそうになる肩が凄く切ない。


──ジルに恋愛感情を抱いてはダメ。


わかっているのに、近くにいればいるほど気持ちは積もっていく。


私を見るこのサファイアの様な綺麗な瞳も、夏の生暖かい風に靡く夜空色の髪も、首元に滲む汗……


「今日、他の男に魔法を使っただろ……やめてくれ嫉妬で気が狂いそうになる」


そして、相変わらずの重い愛。


全てが愛おしくて見えてしまう……


──すき、ジル……



その言葉が口から出そうになった瞬間、私は慌ててそれを飲み込んだ。


「ジル!ミラちゃん!」


背後から元気な声が響き、私はその声に反応して振り返った。


「はぁ……俺の至福の時間を邪魔するな、リアラ」


後ろから私たちを呼ぶ声はリアラ様のものだった。


「リアラ様、お久しぶりでございます」

「リアでいいわ、それに言葉も柔らかくして!堅苦しいのは嫌いなの」


「では、リア……様今日は私にもなにか用事で?」

「いやぁ、忙しかった用事も一段落ついて、無事実技授業にも間に合ってよかったってところで、ミラちゃんと仲良くしたいと思ってさ!」


「あのなぁ……」


ジルは呆れた顔でリア様を見る。


「ミラちゃん!これから公爵家へ来ない?私の話相手になって!」

「こ、公爵家ですか!?」

「お、それはいいな」


思わぬリア様の提案に思わず驚きの声が漏れたが、その声はジルと重なった。


珍しく意見が一致した姉弟は、私を他所にどんどん話を進めていく。


そして、カルバン家の御者にジルが何かを伝えていると、カルバン家の馬車はどこかへ消えていった。


「さ、行きましょ!」


ジルとリア様は私の両脇を歩き、まるで逃がさないと言わんばかりにエルヴァン家の馬車に誘導していった。


そして今は公爵家へ向かう馬車の中。


「先に俺がミラと一緒にいたんだ、独り占めするなよ!俺より長くミラとの時間を取るな!」

「あら、私のおかげでミラちゃんを公爵家まで呼べていることを忘れないでちょうだい。でないと最後の数分しかやらないわよ」


二人は大人気なく私の目の前で姉弟喧嘩をしている。


──公爵家に行く心の準備できてないのに……




読んで頂きありがとうございます(ᴗ͈ˬᴗ͈)

楽しんでいただけたら評価、ブクマなどなど反応いただけたら嬉しいです• ·̫ •


次回は明日の朝6時頃更新予定です。

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