第14話 悪夢と寝言
「また……?」
最近、同じ夢ばかりを見る。
真っ暗闇の中、小さな光に向かって走る夢——。
どれだけ走っても、その光には届かない。
そして、暗闇の中、何度も何度も囁かれる声。
「イブツ オマエハ」
「シヌ カラダ ドッチ」
「ココロ カ ウンメイ ゼッタイ」
耳を塞いでも無駄だった。
まるで、頭の中に直接響くような、冷たく歪んだ声——。
「シンゾウ ダイジ」
「サズケロ ニンゲン」
その時、闇の中に黒いローブを纏った人物が現れた。
男か女かもわからない。
そして、その人物の足元には——
大きなベッドで眠るジルの姿があった。
「ジル……?」
ローブの人物がゆっくりと手を上げる。
その手には、鋭く光る刃。
——ダメ!!
叫ぼうとした瞬間、
「ジルベール・エルヴァン ヲ」
闇が深く沈み込んで、視界が掻き消えた——。
◇◇◇
「────ジルっ!!!」
飛び起きると、まだ外は真っ暗だった。
胸が大きく上下し、心臓がうるさいほど鳴っている。
「……また、同じ夢」
最近、毎晩のように見る、あの夢。
今日もまた、ジルが殺されかけていた。
——何なの、あの夢……。
胸を押さえながら、嫌な予感が全身を駆け巡る。
しかも、夢の中のジルとローブの人物の距離は、日に日に縮まってきている。
毎日毎日、助けようと走るのに、私は全く前に進めない。
そして、刃がジルの心臓を貫く瞬間、飛び起きる——。
これはただの悪夢じゃない。
本能が、そう訴えていた。
◇◇◇
「──ラ? ミラ?」
「え……あ、ごめん。なんの話だっけ?」
「なんのって、今ここに来て話しかけてたんだよ」
「あ、そっか……ごめんね」
睡眠不足で、頭が働かない。
学園でも、ぼーっとすることが増えていた。
でも、眠りたくない。
寝れば、またあの夢を見る。
「寝れていないのか?」
ジルが心配そうに覗き込む。
「うん……最近、夢見が悪くて」
「どんな夢だ?」
——貴方が殺される夢です。
そんなこと、言えるわけがない。
「ん〜……それが、あんまり覚えてなくて……」
適当に誤魔化したが、ジルはじっと私を見つめる。
見透かされている気がした。
「肩貸してやるから、少し寝てくれ」
「いや、いいよ」
「なんなら、膝枕でもしようか?」
普段なら軽くツッコむところなのに、今はそんな余裕すらない。
「寝たら、また嫌な夢を見るかもしれないから……寝たくないの……!」
思わず顔を背ける。
「なら、目を瞑るだけでもいい。少し休め……な?」
そう言って、ジルは私の頭を優しく引き寄せた。
抵抗する気力もなく、私は静かに目を閉じた——。
◇◇◇
最近のミラは、明らかに様子がおかしい。
話しかけても上の空、声をかけなければ壁にぶつかりそうになることすらある。
夢見が悪いのは確からしいが、その内容を聞いても、彼女は誤魔化すばかりだった。
相当、話したくないことなのだろう。
俺の目の前で、授業が終わったことにも気づかず、教科書を広げたまま座っているミラ。
セシルやマリルが声をかけても、気づかないくらい眠気にやられているのがわかる。
これは、どうにかして休ませないと——。
いつもの調子で冗談を交えて提案したが、彼女は顔を背け、子供みたいに拗ねてしまった。
本来なら可愛いと思うところだが、さすがに今日ばかりは心配が勝つ。
「目を瞑るだけでいいから」と、少し強引に俺の膝の上へ彼女の頭を乗せた。
最初はためらっていたミラも、すぐに小さな寝息を立て始める。
「相当……キツかったんだな」
そっと髪を掬い、目の下の隈を指でなぞる。
その時——。
「ジルベール・エルヴァン、お前に伝える」
ミラの口が、不意に動いた。
だが、彼女の意識は眠ったままだ。
「……ミラ?」
「ミラリス・カルバンは、この世界にとって異物……」
不快な感覚が背を這う。
「心か身体、17歳になればどちらかが死ぬ」
「知りたければ、最北——キンリーの魔女の家へ行け」
「あとは、ミラリス・カルバンに聞くといい」
それだけを告げると、ミラは再び静かに眠った。
——これは、夢なんかじゃない。
「異物」「17歳」「どちらかが死ぬ」
嫌な言葉ばかりが、頭の中を駆け巡る。
ミラが必死に隠していた夢の内容——
まさか、こんなことだったのか。
俺は、彼女の頬にかかる髪をそっと払うと、そっと囁いた。
「ミラ……俺は、お前を死なせない」
たとえ、この世界が、お前を拒んだとしても——。
読んで頂きありがとうございます(ᴗ͈ˬᴗ͈)
楽しんでいただけたら評価、ブクマなどなど反応いただけたら嬉しいです• ·̫ •
次回は明日7時頃に投稿予定です




