第12話 前世の告白
最低、最低、最低!!!
勝手にキスしてくるなんて……
しかも、あんな……!
舌を入れようとするなんて!!!
転生してこの身体になってから、キスはこれが初めてだったのに!!
前世ですら、いきなりキスなんてあり得なかった!
雰囲気があって、恋人関係にあればまだしも……
「ミラリス嬢、悪いが戻ってもらえるか?」
私を探しに来た殿下が、申し訳なさそうな顔で私を連れ戻しにやってきた。
「はぁ……はい」
ため息をつきながら、私は渋々ジルのいた部屋に戻った。
「さっきは夢と混濁していたんだ……悪かった」
ジルは、まるで本当に反省しているかのように謝っているが、顔はどうしてもニヤケてしまっていて、それがまた腹立たしい。
「本当に反省してるの!?」
私がさらに怒ると、ジルは苦笑いを浮かべながら言った。
「怒っている姿も可愛いな……」
その言葉に、私はさらにムカつく気持ちが増す。
「本気で反省してるなら、そんなこと言わないで!」
言い終わる前に、殿下がジルの頭を叩いた。
「お前はほんとに……反省しろ!」
ジルには全然響いていないみたいだったけど、殿下は話題を本題に戻した。
「ジル、お前、怪我や瘴気の影響はどうなったんだ? 一応、ミラリス嬢と一緒に確認しようかと思ってな。」
「いや、本当にもうなんともないんだ。火傷も消えたし、瘴気の影響もない。」
「他に怪我はなかったか?」
「なんともないぞ、見るか?」
そう言ってジルは、布団を勢いよく捲り上げた。
「おまえっ、ばか! ミラリス嬢の前だぞ!」
ジルはさっきまで大きな火傷を負っていたので、もちろん服は上にも下にも身につけていなかった。
それを殿下が急いで隠す。
「大丈夫です……何も見ておりません。」
「絶対見えただろ、ミラリス嬢……本当に強いな。普通の令嬢だったら卒倒しているぞ。」
だって私は人生二回目、男性器を見たことがない訳じゃない。
さっきジルにキスされた時は驚きはしたけど、前世を合わせればキスもセックスも未経験ではなかった。
そりゃあ、蝶よ花よと育てられてるこの世界の貴族令嬢が見たら卒倒してしまうだろうけど……
「ミラ、悪いね」
ジルはそう言って、なぜか作ったような笑顔を私に向けた。
「ジルが元気になったのならそれは良かったわ、でももう私は帰るわ……あまり眠れていないの。」
「また転移魔法で帰るのか?」
「転移魔法?」
「ああ、ミラリス嬢が行きの馬車の中で俺と転移魔法でここまで移動してきたんだ」
「そんな魔法まで使えたのか……まさか馬車の中で二人きりだったってことはないよな?」
「俺の護衛もいたさ、置いてきたけどな」
ジルは少し歯切れが悪そうにしながらも、安心した表情を見せた。
どれほど私のことが好きなんだろうか。
あんな風に顔を赤くして、気にするなんて……
「で?どうするんだ? ミラリス嬢」
「魔力が減る感じはありませんが、転移魔法は単純に疲れるので私は馬車で帰ります。」
「君をここまで呼んでしまったのは、僕だ。良ければ王城に泊まって行ってくれ、学園の制服や荷物が必要なら使いのものに取りに行かせよう」
確かにここからまた馬車で数十分揺られて帰っても、転移魔法を使って帰ったとしても、どっちにしても疲れてしまう。
泊まらせてもらえるのならとてもありがたい。
「では、お言葉に甘えて今日は泊まらせて頂きます」
「わかった、では部屋を手配させよう。少しここで待っていてくれ」
この部屋はジルの瘴気で立ち入ることを禁止されていたから、近くに使用人や護衛や付き人はおらず、殿下は一度部屋を出ていった。
そして、私とジルは二人きりになった。
少し沈黙が続いたが、その沈黙を破ったのはジルだった。
「キス……いやだったか?」
私は思わず視線を逸らす。どうしてもあの瞬間が頭から離れない。
「え、ああ……別にもういいよ。寝ぼけてたんでしょ?」
「本当に?」
ジルはわざとらしく、私の手を引いて自分の方に引き寄せた。
「いや、だって……」
「いいのか? 普通、女性は貞操とか気にするだろ」
「そんな、キスで貞操がどうとか、大袈裟よ」
私はジルから目を逸らして答える。
別に前世で散々キスをしたことがあることが後ろめたいことではないはず……
でも、バレないはずなのに、ジルはそれを見透かしているように思える。
ジルが少しだけ真剣な顔になった。
「初めてではないのか?」
「……初めてだよ」
「嘘、ついてないよな?」
「本当よ、ミラリス・カルバンのキスはさっきが初めてよ」
嘘はついていない。実際、この身体でキスをしたのは初めてなんだから。
「そうか……」
ジルは納得したように頷いた。
私は少し安心して胸を撫で下ろすが、その瞬間、予想外のことが起きた。
ベッドに倒れ込んで、目の前に天井を背景に裸のジルが私を押し倒してきた。片手で私の腕を抑えつけている。
「ちょっ!なにするの?」
「ミラ、俺に嘘ついてるな?」
「嘘はついてない!本当にこの身体でキスしたことがないの!」
「この身体でって、まるで別の身体を持っていたみたいに言うね。」
私は焦って言い返すが、ジルの目が鋭く私を見つめている。
どうしても信じてもらえないのか……。
不安で心が少し沈んでしまった。
「信じて貰えないと思う……」
私は小さな声で答えると、ジルは私の手をそっと離した。
「信じるから、話してくれ」
ジルは真剣な眼差しでそう言った。
私は少し戸惑いながらも、前世の記憶があることを伝えることに決めた。
でも、ここが小説の中で、私が17歳の秋に処刑されるかもしれないということは話さなかった。混乱させたくなかったから。
「前世……では、前世ではキスしたことがあるの」
「そういうことになるね」
ジルが頷くと、私は少しほっとする。
「他の男と親密な関係になったことも?」
「……ある」
その瞬間、ジルは大きなため息をつきながら、目を閉じた。
「悔しいな……前世だろうが何だろうが、君の全ては俺だけのものにしたかった」
その言葉に、私は胸が苦しくなるのを感じた。
どうしてこんなにジルの言葉が心に響くのだろう。
「信じてくれるの?」
「俺がミラを信じないわけないだろ」
ジルは優しく答えて、私を見つめる。その目は真剣で、私はその温かさに心が落ち着いていくのを感じた。
「ジル……ありがとう」
その瞬間、ジルが私の視界を覆った。
天井が見えるはずなのに、またジルが上から迫ってくる。
「ジ、ジル……?」
「やっぱり、ミラが他の男とキスしたことがあるなんて耐えられない……前世を忘れさせるくらいに上書きしたい」
ジルの顔が近づいてきて、私は慌てて言葉を返す。
「は……いや、私たちまだ出会って間もないし……」
「出会って5年経っているぞ?」
「いやいや、空白の5年もあるから……」
ジルの力に抵抗することができない。
片手で私の両腕を抑えつけられて、身動きが取れない。
「俺は5年もミラのことを想っていたんだ。俺に空白なんてなかった」
ジルが顔を近づけてきて、私はドキドキしながらその目を見返した。
その瞬間、突然、ドアが開いて声が聞こえた。
「待たせた、遅くなっ……お前、何やってるんだ!」
そこにはアラン殿下が立っていた。
私に馬乗りになっていたジルを力強く引き剥がしてくれた。
「アラン、本当にお前はタイミングが悪いな」
「お前、貴族令嬢を襲っておいて……少しは反省しろ!ミラリス嬢、大丈夫か?」
「アラン殿下……助かりました。私、ドキドキし過ぎて心臓が止まりそうでした。」
「は……?」
私は恥ずかしさで顔を覆ってしまった。
アラン殿下は少し呆れた表情をしていたけれど、それでも私を心配してくれた。
「ん?これ、俺が邪魔をしただけになってないか……?」
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