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放火魔ライターの告発  作者: さば缶
第3章 本当の炎を追う者たち
8/15

捏造のプロと真実追及のプロ

 翌日、真琴は思いきって玲奈へ連絡を入れ、都内の喫茶店で顔を合わせることにした。

昼下がりの店内は静かで、二人はテーブルに向かい合う。

「体調は……大丈夫ですか」

声をかける玲奈は、前に会ったときよりも控えめに見える。

「眠れなくて、まだ頭がぼんやりしてます」

真琴は嘘をつかずに答える。

玲奈が注がれた紅茶を一口飲み、視線を下に向けながら口を開いた。

「神谷先生に、何か無理やりされましたか」

その問いに頷こうとして、真琴の喉が詰まりそうになる。

自分が本当に“被害者”だと言葉で認めるのは初めてだ。

「……あの人に、暴力を振るわれました。

詳しくは……ごめん、まだ言いたくない」

それだけ言うと、玲奈は深く息をついて、声を落とすように話を続ける。


 「実は、少し前から神谷先生について怪しい噂を聞いてたんです。

複数の女性から“あの人に関わらないほうがいい”と助言されて。

でも、みんな口を閉ざすんですよね。

大作家を敵に回したら、業界じゃ生きていけないって」

真琴は自分の肩に入った力を少し抜き、玲奈の言葉に耳を傾ける。

「私が書いてきた捏造記事と違って、今回ばかりは本当の被害なんです。

でも、誰も信じてくれないかもって思うと……」

そう言うと、玲奈は強く首を振った。

「諦めないでください。

あなたは“放火魔ライター”かもしれないけど、それで本当の痛みがかき消されるわけじゃない」

玲奈の瞳は真琴を真っ直ぐ見ている。

その熱意にほだされながらも、真琴はまだ不安を隠せないでいた。


 「ねえ、相沢さん。

私が何を言っても、“どうせ作り話だろ”って言われる気がする。

そんなの、自業自得だけど……」

言いながら俯く真琴に、玲奈は手帳を開いてペンを走らせる。

「この業界、証拠がないと動かない人が多いのは確かです。

でも、あなたの体に残った傷とか、もしそれを証明できる何かがあれば、無視できないはず」

真琴は自分の腕にできた紫色の痣をそっと撫でる。

残念ながら、これがあの暴行によるものだと示すには相当苦労しそうだ。

神谷の立場を考えれば、いくらでも嘘をでっち上げる手があるだろう。

思わず小さく息を吐いてうつむくと、玲奈がもう一度力強い声で言う。

「一人じゃどうにもならなくても、私が協力します。

むしろ、私も真琴さんの力がほしいです。

あの人の“闇”を突き止めたいんです」

真琴はその言葉に少し戸惑いながらも、自然に視線を上げる。


 「私の力って……捏造記事を書く能力のこと」

皮肉めいた問いに、玲奈は首を横に振って笑った。

「捏造の手法はあくまでも手法です。

今度はそれを逆手に取って、神谷先生が隠してる真実を暴きましょう。

嘘と真実を見分けるアンテナを、あなたほど持ってる人はいないと思うんです」

真琴は意外そうに目を瞬かせる。

今まで誰にも言われたことのない評価だった。

「そっか……私、他人の嘘を見抜くのは得意かもしれない。

自分が散々、嘘を作ってきたから」

思わず自嘲気味に口元を歪めるが、玲奈は真剣な眼差しで頷く。

「そう。

だからこそ、神谷先生が何を隠しているか、一緒に探ってみませんか」

真琴は黙っていたが、心の奥には小さな炎が揺れ始めている。

このまま泣き寝入りして、自分だけが傷ついて終わるのは嫌だ。

かつては数々の虚構を作り上げてきた自分だけれど、本物の不正に対してはどう向き合えばいいのか。

真琴は拳を握りしめ、玲奈に静かに向き直った。

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