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放火魔ライターの告発  作者: さば缶
第4章 暗闇の中の火種
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迫りくる圧力

 夕方の光が差す喫茶店で、真琴は相沢玲奈の顔を見つめていた。

「神谷の弁護士ってどんな人なの」

小声で尋ねると、玲奈はスマートフォンに保存している資料を軽くめくった。

「かなり有名な法律事務所で、企業や芸能関係のトラブルを数多く処理してるみたいです。

正直、敵に回すには手強い。

私の編集長が『そんな相手に喧嘩を売るのか』って大声で言ってました」

玲奈は唇をかんだまま、真琴に目を向ける。

「真琴さんにとって、これはどれだけのリスクになるのか覚悟してるんですか」

真琴は視線をテーブルに落とし、短く息をついた。

「捏造記事の後ろ暗い過去を持つ私が、本当の被害を訴えても笑われるだけかもしれない。

それでも、今度こそ引くに引けないと思ってる」

自分の言葉がどこまで本心なのか、まだ確信はなかったが、今はそう信じるしかない。


 数日後、真琴の元に業界の複数の知り合いから警告のような連絡が届いた。

「神谷先生側が『名誉毀損で訴えるぞ』と強気の姿勢らしいよ。

真琴は黙ってたほうがいい」

そんなメールやメッセージが相次ぐと同時に、ネット上には「捏造ライターが今度は自分の被害をでっち上げてる」といった書き込みが現れる。

誰が書いているのか分からないが、まるで待っていましたとばかりに真琴を叩く書き込みが増えていき、プライベートの写真や過去の仕事先まで晒されていく。

「こわい……」

思わずつぶやいたとき、スマートフォンが振動する。

相手は玲奈だった。

「大丈夫ですか。

ネットを覗かないようにしてください。

私もいろいろ調べてみる」

そのメッセージを見ても、真琴の胸は重く沈むだけだった。


 さらに、過去に真琴が書いた捏造記事の被害者とされる芸能人や関係者が、今になって「こんなライターが告発しても信じられるわけがない」と名前を出さずともテレビ番組やSNSで言及を始める。

事務所の社長やマネージャーも「ライターとしては有能かもしれないが、そのぶん悪意のある文章を書かせたら彼女の右に出る人はいない」と皮肉めいたコメントを出した。

それを受けて一部の週刊誌は「捏造の過去を持つ女が今度は自分を“被害者”に仕立て上げている」と煽り気味に報道する。

神谷側の弁護士は正式にコメントを発表し、「名誉を大きく傷つけられたので法的措置を検討している」と言い放つ。

もはや真琴が動けば動くほど、自分自身の首を絞めてしまう。

「あれだけの権力を持つ人に逆らうなんて、やっぱり無謀だったんだ」

そう頭の中で否定的な声が渦巻くと、真琴の脳裏にはあの屋敷で感じた絶望が生々しく蘇る。


 夜になって、意を決してネットを開いた真琴は、自分への中傷コメントを目の当たりにした。

「いつも嘘を書いてる女が今度は自分がやられたと言い出してる」「どうせ売名だろう」といった文字が踊る。

スクロールするほど誹謗中傷の書き込みが増えていき、心臓が激しく脈打つ。

中には「こんな女は業界から消えてほしい」と書いている人もいる。

顔も知らない人々が、僅かな情報だけで自分を断罪しているのだ。

「こういうの、私も今までやってきたことだよね……」

過去の捏造記事で追い詰められた芸能人が同じ思いをしたのかもしれない。

自分が手を染めた行為が、今になって重くのしかかってくる。

それでも真琴は唇を噛んでモニターを閉じ、机に突っ伏した。

「……もう、どうすればいいの」

部屋の灯りを消す力さえ失っていくようで、長い夜がまた静かに通り過ぎていく。

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