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ダブルテイル・ブラックウルフ  作者: 甘味感
1章 迷い狼
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 彼女らを観察しつつ、略奪したならず者の財産を自分の魔動車に乗せていると、後ろから声をかけられた。


「もう1台見つかりましたが…どうしますか?」


 振り替える必要もない。


「どう…とは?」


「失礼しました。このまま直ぐに出発するのですか?」


「いや、今日はここで一泊しよう。夜は冷える。それに私は眠い。中央棟以外で眠れそうな場所を探しておけ」


 了解の言葉が聞こえると、直ぐに後ろから気配が遠退いて行く。


 それから一晩明けた。


 助け出した数は8。ダブルテイルを含めれば9人になる。


 ダブルテイルが朝焼けを身に浴びているとジークとクォーラがやってきた。そしてクォーラが話しかける。


「なんとか魔動車が2台あって助かりましたね」


「そうだな。それではここでお別れだ。ならず者どもが使っていた地図と奴らが貯めていた資金をやる。8人で話し合って今後を決めろ」


 ダブルテイルは足元の麻袋を足で小突く。


「ありがとうございます」


 ジークとクォーラが頭を下げる。この麻袋が今まで2人がダブルテイルに対して小間使いのように従っていた理由だ。


「あぁ。そうだ。私に助けられたなどと口にするなよ」


「なぜ、でしょうか?」


「私の名前に関係があるということだ」


「…お訊ねしてもよろしいですか?」


「ダブルテイルだ」


 クォーラは分からないという顔を浮かべ、ジークは驚くような顔をしなかった。


「薄々勘づいていました。ギーツでその髪型をしていて、その上で名前を明かさない。なぜ、今になって名を教えてくださったのでしょうか?」


 どうやら傭兵ダブルテイルを知っているような雰囲気だった。


「ダブルテイルという存在は好き好んで人を殺す。それが人助けなど…笑い話にもならない。そしてそれは私の傭兵稼業に悪影響を及ぼす。まぁなんだ。名前を知っているのならば話は早い」


 ダブルテイルは2人に向き直ってから改めて言葉を続けた。


「『傭兵ダブルテイルはならず者のアジトから捕らえられていた11人を助け出し、遊びながら3人ほど苦しめて殺した。私たちは命からがら逃げることが出来た』これを徹底して他の奴らにも共有しろ」


 予め考えていたシナリオを押し付けると、クォーラが首をかしげた。


「どうしてあなたはそんなことを?」


「勘違いするな。私は好き好んで人を殺す。そして助けてくれた人が必ずしも善人とは限らない。それだけのことだ」


「でも、あなたは私達に食べるものと生きていくための資金を与えてくれます。そこまでする理由はなんなのですか?」


「あなた達にあまり関心がないからだ。殺す価値が低い。興味がない。しかしそれは今の話だ。未来でたまたま再開した時、食指が動くかもしれない。その時のためにあなた方は生かす」


 そこで一度言葉を区切って、それから剣の柄に手を置いてから忠告をする。


「もう一度言うが、助けてくれた人が必ずしも善人とは限らない。私はただの人殺しだ。出来る限り満足できる殺しがしたいだけの殺し屋だ」


 クォーラが一歩後ろへ下がった。


「分かってくれたようだな。それでは私は先に行く。他の6名にはどう説明しようと構わないが、もし私の傭兵稼業に害が出るようなら殺す」


 それを言い捨ててダブルテイルは2人に背を向けた。


 それから自分の魔動車に乗り込むと、直ぐにアカツキがダブルテイルに向けて恐る恐るといった雰囲気で喋り始めた。


「もしかしてダブルって殺人に興奮とか覚えてたりする?」


 魔動車の窓は閉まっており、声が漏れる心配などない。


 ダブルテイルは昨日自らが殺した男のように乾いた笑いを吐いた。


「ハッ。私は好き好んで人を殺すが、殺人を好き好んでなどいない。私にとって人殺しはただの手段だ」


「なにが目的なんだよ」


「そうだなぁ…金かな」


「金ってこえぇな」


 魔動車に魔力をつぎ込む。そしていつもと同じようにペダルに足をかけて軽く奥へ押し込むと、窓の外の景色が進んでいく。


 しばらくしてダブルテイルは無言の重苦しい車内の空気を破り、初めて自分から話を振った。


「ところで、あなたはどうする?」


 基本的にアカツキがアレコレと聞いてくるので、話す機会がなかったのだ。


「どうとは?」


「これからどうしたいか。だ」


「どうもこうも…俺剣だし…どうしようもなくない? 自由に動けないし」


「やりたいことはないのか?」


「やりたいことー? 女遊び? 冗談冗談だって! そんな目で俺をみるなよ! 怖いって!」


 ダブルテイルは魔剣がこんなにも俗物的な物だったと落胆するも、しかしこの魔剣は自分のことを人間だと言っていたことを思い出す。


「あなたはその…前世? とやらでは遊び人だったのか?」


「いや、ただのロクデナシだよ。本当にしょーもないロクデナシだ」


 アカツキの言葉のトーンが下に落ちていく。


 きっと触れられたくないことなのだろうと判断して、ダブルテイルは話題を変えることにした。


「話を戻すが、あなたはなにかしたいことはないのか?」


「あー…したいこと以前に何も知らないからなぁ…この世界のこと。今の俺って生まれたて赤子ベイビーって感じだし? したいことなんて正直パッと思い浮かばないし、そもそも今の俺になにが出来るのかも分からん」


「あぁ。そうか…なら…そうだな…具体例を提示しよう。まず1つ目は飾られる。どっかの貴族の屋敷で丁寧に展示される。2つ目、どこかの研究機関で持て囃される。そして最後の3つ目、剣としての本分を果たす。これぐらいか? 悪いが喋るという前代未聞の魔剣など初めて手にしてな、私にはこれぐらいしか考え付かない」


 ダブルテイルはそう話していて、なぜ自分はこんな熱心に剣と話しているのだろうかと疑問を感じた。


「いやぁ全然助かるね。それで…その、例を上げて貰って悪いんだけどさ、話を聞いている内に1つ思い付いたんだ。ダブルが上げた例とは関係がないんだがいいか?」


「なんの許可を取っている? 私はあなたの選択が聞きたいのだが?」


「あぁ。ありがとな。俺さ、この世界のこと知りたいわ。いろんなものを見てみたい」


 アカツキのその言葉を聞いたとき、ダブルテイルは心の内で浮かんでいた疑問が氷解したことを感じ取った。


「そうか…なら私とくるか?」


 なんの苦痛もなく話せることが楽で良かったのだ。


「よろしく。まずは…そうだな何の話をしようか」

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