表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダブルテイル・ブラックウルフ  作者: 甘味感
2章 黎明前夜
42/54

13

 エルドリアにとって、生きることとは苦痛そのものであった。


 自意識の目覚めと共に迫害を受けた。黒蛇という出自が、ギーツの迫害と重なったのだ。ギーツは持ち前の強さで傭兵として生きていく道や、種族間での協調で生きることが出来た。


 しかしエルドリアは天涯孤独の黒蛇だった。


 くそったれなスラムでさえ居場所がない。


 それ故に生きることは苦痛だった。ただ、それでもエルドリアが生きていたのは、たまたま魔法を持っていたことと、初めから底辺として生きていたから幸せを知らないがために、不幸せで苦しまずに済んでいたからだ。


 地獄しか知らないから、幸せを知らず。それが常態化している。それだけだ。


 黒という迫害は、ギーツという種族に端を発する。しかしエルドリアは特にギーツを恨んだことなどなかった。


 悪いのは自分をぶん殴ってくるカスだ。という考え方とギーツ自体との遭遇機会が多かったことにも起因する。


 彼らはエルドリアを見つけると、食料や金を申し訳なさそうにして譲る。エルドリアに向けて、悪いと謝りながら食べ物を渡すのだ。


 スラムで殴ってくる奴よりは好感を持てる。


 だからこそエルドリアは一周回ってギーツが嫌いではなかった。その代わりにそれ以外の全てを嫌いになっていった。


 生きる上で盗みなど数えきれないほど繰り返してきた。そしてそんな暮らしの中で、当たり前のように殺人による成功体験を得てしまった。


 魔法を持っていたことが大いに役に立ったのだ。火を起こすだけ、という魔道具でも出来るような些細な魔法だが、しかしエルドリアはその魔法で人を殺すに十分な魔力量を持っていた。


 自分が強いと理解してからは、生きる苦労は減った。ムカつく奴は殺して、コソコソした盗みは強盗に変わった。


 無敵だと錯覚していると、当たり前のように治安維持を行う衛兵に殺されかけた。


 それを止めたのがフレドリックだった。


 そしてそこからエルドリアの人生は大きく変わった。


 一生関わることがないと思っていた教会に連行され、訳の分からない勉強をさせられ、寝づらいことこの上ないフカフカのベッドに転がされる。


 言葉遣いも矯正された。だが、食事が出る。殴ってくるようなムカつく奴がいない。その2点だけで、エルドリアはそこから離れるつもりは無くなった。


 そして次第にフレドリックの仕事を手伝うようになっていった。


 喧嘩を仕掛けたらいけないとフレドリックからは強く言い含められ、その代わりに、内心で唾を吐き、それを表に出さない方法を教わった。


 キンキラキンのフレドリックを初めて尊敬した。


 ただ、素直に従うのは癪に触ったので、フレドリックにはたまに逆らった。そして1度だけ本気で喧嘩を売った。するとフレドリックは怒るでもなく、ウンザリした顔で疲れたという態度を示した。


 それは、内心で唾を吐くことを覚えたばかりのエルドリアに、非常に強く作用した。


 炎をぶつけたら、黄金の大蛇をぶつけられた。


 目が覚めたら2日経っていた。


 喧嘩をして勝てないんだと分かった。


 それはそれとして、素直に従うのは癪に触ったので、口で逆らうことを覚えた。そうやって言葉で喧嘩し始めると、フレドリックはエルドリアの無知を笑うような、バカをバカにするような聞いたこともない上品なお言葉とやらで、遠回しにボロカスにしてきた。


 相手が喋っている言葉が理解できないと、喧嘩の土俵に立つことは出来ないと分かった。普通にムカついた。


 イライラして辞書を投げつけてやったら、ベッドの上で目が覚めた。2日経っていた。


 そしてある時、フレドリックの仕事に付いて回る中で気付いた。フレドリックは普通に言葉で相手を攻撃していて、相手も同じように喧嘩を売ってきていると。


 コイツら笑顔で喧嘩してやがる!


 内心で唾を吐く方法を知っていたから、我慢するのだと思っていたが、フレドリックは普通に殴り返していた。エルドリアは新しい喧嘩の方法を手に入れた。


 早速エルドリアはフレドリックに喧嘩を売った。相手が嫌がることを、遠回しに突きつけることは最高だった。


 気付いたらベッドの上にいた。2日経っていた。結局は暴力かよ、と呆れた。その翌日。日付がまた1つズレていた。喧嘩を売った覚えも負けた覚えもない。


 首をかしげていると、フレドリックの様子がおかしいことに気付いた。


 なにがあったのか聞いてみると、喧嘩して負けんだと説明してきた。そんな筈はないと確信していたが、フレドリックは答えてくれなかった。


 また、日付が飛んだ。なにがあったのか問いただそうとして、フレドリックからボロボロのキャスケット帽を渡された。


 正直、あんまりにもボロボロだったから受け取りたくなったが、フレドリックにとって心底大切な物らしいので何か意味があるのだと思って受け取った。


 なにがあったのか聞くことを忘れた。


 翌日。顔に何かが貼り付いている。


 鬱陶しいと感じてそれを剥がすと、目の前にはフレドリックと同格の深緑のコードネームを持つ女がいた。


「エスさん? なんで?」


 目の前にいるエスメラルダ・グリーンは痛切極まる表情をしていた。


 疑問で頭をいっぱいにしていると、エスメラルダは無言で手鏡を伏せて渡してきた。


 エルドリアはそれをひっくり返して目を疑った。そこにはフレドリックの顔が写り込んでいたからだ。焦って自分の頬を触ると鏡の中のフレドリックも同じように頬を触った。


 なにが起こっているのか理解できずに混乱していると、エスがゆっくり落ち着いた口調で安心させるように説明した。


 世界三大大病の1つ。永睡症。それを自分が発症し、目を覚まさなくなったこと、フレドリックが必死に治療法を探していたこと、そして結局は見つからず、エルドリアの身体は衰弱死したこと。


 浴びせられた情報量を、エルドリアはうまく処理できずに固まった。


 時間をかけてなんとかそれらを飲み込むと、エスメラルダはまた落ち着いた口調で説明を続けた。


 エルドリアの死が目前に迫り、フレドリックは人核転写の仮面でエルドリアの人格をコピーしたこと、そしてエルドリアを起こすことが出来ず、希望が潰えたのちに自ら仮面を被ることで今、エルドリアの意識があること。


 フレドリックは死んだこと。


「なんで! なんで止めなかった!」


 怒りに身を任せ、エルドリアはエスメラルダに怒鳴った。なぜならエスメラルダは、フレドリックの妻だったからだ。妻ならば止めるべきだと、エルドリアは吠えた。


「止めました。止めましたとも。しかし止めただけで辞めるほど、あの人は利口ではありませんでしたし、バカでも無かった」


 初めてエスメラルダの疲れ果てたという顔を見て、言葉に詰まった。


「はぁ…エルドリア。貴方はフレドリックの阿呆に生かされたのだから、自分の人生を生きなさい。良いですね?」


 そのまま立ち去ろうとするエスメラルダをエルドリアは呼び止めた。


「フレドリックは…どうなるんだ?」


「…死亡したとして処理しますよ。そして悪いけれど、フレドリックの身体を持っている貴方が教会に残るには不都合が多すぎる。エルドリア名義に地方への転勤を命じますから、それに従ってください」


「黄金のコードはどうなるんだ?」


「どうにもなりません。他のコードと同じく神が選定して下さることを待ちますよ」


 コードを渡してくれと言われたエルドリアは、懐から黄金色のカードを取り出した。


(…? なんで俺はここにあるって分かったんだ?)


 疑問に思っていると、エスがその疑問に答えを示した。


「え? 嘘でしょう? まだフレドリックを選び続けているというの?」


 エルドリアはその言葉を聞くことで、自分とそのカードが見えない糸で繋がれているという感覚がした。


「…俺が、俺がフレドリックの代わりをやる」


 フレドリックの代わりに黄金のコードネームを受け継ぎ、フレドリックとして振る舞うと、考えるよりも先に口に出していた。


 それからは、時間が経てば経つほどに、エルドリアは自分が何者なのか分からなくなっていった。


 フレドリックなら失敗しないはずだ。フレドリックならどうしただろうか? フレドリックなら………。


 いつからか、いや、初めからそうだった。


 エルドリアは自分がフレドリックを殺したのだという罪を自覚し、ひたすらに贖罪として、自分を黄金へ捧げてきた。


 ぼんやりと、生きることは苦痛だったことを思い出す。


 やはり人は失ってから気付くのだ。




 ◇




 交渉とは言えないものが決裂し、戦うことが決まったというのに、エルドリアとダブルの間には、今なお弛緩した空気が漂っていた。それは自然と夢から目覚めるような、清々しい朝を迎えた時に近い空気だった。


「少し待て」


 そうダブルは口にすると、ポケットからヘアゴムを取り出して髪の毛を結い始めた。


 明らかな隙だが、エルドリアはダブルを攻撃する気にはなれず、ただ律儀に準備が済むのを待っていた。


「終わりましたか?」


 頭にもう1つの尻尾を作ったダブルが、その尻尾の具合を確かめるように頭を振った。


「あぁ。気分は悪いが、調子は悪くない」


 妖しい雰囲気を纏いながらダブルが口を笑顔で歪める。するとそのタイミングで少し激しい突風が吹いた。


 虚空に黒が2つの尾を引く。


「ダブルテイル……貴女でしたか」


 誰にも聞こえないほど小さい独り言を溢して、エルドリアは納得する。


「さて、わざわざ私の話に付き合ってくれたのだ。先手は譲ろう。あなたが動き出すまで私はアカツキを抜剣しない。覚悟を決めるといい」


 そんなものは────


「とっくに終わらせた!」


 エルドリアは腕を振るって目の前に魔方陣を生み出す。そこから即座に太さ1メートルの大蛇が姿を現し、ダブルへ向かった。


 黄金色の半透明でフィルターをかけてみても、その黒は一切衰えない。


 完全なる不意打ちは、事前準備もなく打ち返された。


 エルドリアに驚きはない。彼女の身体能力を考慮すれば、この一手が当たるわけがないと分かっていたからだ。


 だからこそ、この不意打ちは布石でしない。切り札である黄金のコード。その力を引き出すための時間稼ぎ。出し惜しみはない。


 エルドリアは懐から黄金のカードを引っ張り出し、空へ掲げた。


 それは教会が保有する6つの神器。その内の1つ。終末のムゲン(氷の女神)に愛された者のみが使用することができる黄金のカード。その力は魔力の貯蓄。


終末のムゲン(氷の女神)よ。積み上げた黄金に意味を示せ!」


 貯蓄。それはただひたすらに積み上がっていく醜悪な塔。誰かから、何かから奪い続けねば形を保てない不安定な悪夢。


 かつて道具であったそれは、いつからか人の優秀さの指針に変わってしまい。物の価値を測るためのそれは、いつしか人に向けられた。そしてそれを終末だと、女神は言った。


 貯蓄していた魔力を解放する。魔法使い。しかも希少種族のククルカン(翼持つ蛇)。魔力量は並の人間より圧倒的に多い。それが2年間、1度も使用することなく貯めに貯めた魔力が今、氷の権能を具現する。


 極寒が周りに顕現すると、エルドリアは凍て刺す冷気の中心で思わず身震いした。


(寒い。あまりにも寒い。これが黄金のコード…)


 エルドリアは圧倒的な冷気の中で命の終わりを感じた。


「面白い…。2つ目の魔法というよりは秘蔵の魔道具か?」


 どこか楽しげにダブルは笑っていた。


「ご推察の通りですよ。最も使用者である私もただでは済まないようですがね…」


 エルドリアは初めて使う力に恐れや迷いを感じなかった。それはさながら元々出来ていたことだと言うように、使い方が直感的に分かっていたからだ。


 冷気を固めて、氷の巨剣と氷の槍を作り上げる。それは人の背丈を優に越えていて、巨人がその手に収まるべき規格の物だった。


 もはやそれは斬って殺すという道具ではない。大質量で押し潰すという存在だ。


 中に浮かぶその2つを、エルドリアはダブルへ向けて放った。


「行け!」


 エルドリアの意思に従って、瞬く間に巨大な質量が空から切っ先を向けて射出される。エルドリアの視界は、その蒼白い銀に覆われてダブルを黙視できなくなった。


 音すら消え去るような冷たさの中で、銀色の小さな冷気たちが宙へと舞い散る様は、幻想的だった。


 大質量が激突したというのに、それが立てるべきはずの轟音はこの冷気にやられて凍ったらしい。


 シンと凍てつく極寒の世界を────


 砕く音が聞こえた─────。


 突如として出現した大きな一本の赤い光が、銀に染まった空と世界を砕く。


 銀が散った世界の中で、エルドリアは確かに見た。


 真っ黒な存在が、こちらを視認していることを。その存在が血が滴っていると感じるほどに赤い、特徴的な魔剣を構えていることを。


「ッ!」


 エルドリアは反射的に氷の盾を作り出した。その数は5枚。


 突っ込んできたダブルが一瞬にして3枚砕いた。


 エルドリアは盾を増やすかどうか考えたが、結局砕かれるのならば、盾では自分を守りきれないと判断した。


 作り出すものは氷の巨剣。1本では無意味、2本でも無駄。その答えから産み出された数は、6。


 それぞれを四方八方から、タイミングをズラして投下させる。それはあの赤色の魔力攻撃を警戒しての作戦。一撃で全てを破壊されないように計算したもの。


 だが、その黒は止まらない。小癪な作戦を嘲笑うかのごとき暴力。赤色の魔力が3回ほど連射され、全ての剣が形を失った。


 それとほぼ同時に1枚盾が砕け散った。


 エルドリアは最後の1枚の盾を挟んで、ダブルを目にした。


 おとぎ話の中からやってきた化物。人を殺すことしか知らぬような怪物が、一歩一歩着実に歩み寄ってくる。


 ダブルテイルの名前を騙る傭兵。初めてそれを聞いた時は、なんとも馬鹿馬鹿しいと笑っていた。だが、現実はどうだろうか?


 ────最後の盾が砕かれる。


「もう終わりか?」


 ダブルの間合いで、彼女の身体能力を前に何が出来るだろうか。


「…もう一度考え直しませんか?」


 瞬間。エルドリアは腹部に強烈な痛みが走り、軽快に地面を転がった。


 どうやらアカツキという魔剣は片刃らしいと、エルドリアはどうでも良いことを考えながら、俯せに倒れた状態からゆっくりと立ち上がる。その途中で目の前に剣が突きつけられた。


「…どうして? 限定的な万能(空想の果実)は貴女にとって大したものではないのでしょう?」


「そうだな。しかしその使い道が気にくわない」


「なぜでしょうか? 貴女とそこまで親密になった覚えはありませんし、敵対した記憶もありません。なにか気に触っていたというのでしたら、謝罪いたします」


「必要ない。謝ったところでなんの意味もない。あなたは謝るべき対象を間違えている」


「謝るべき対象を間違えている?」


「…人は1度本気で殴られなければ、間違いを認めることが出来ない」


 ダブルは剣を下げて話を続けた。


「私は、拾った娘を自分の手で殺めてしまったことがある。私はその時の過ちに苛まれ、どうすれば良いのか分からなくなっていた。どうすれば娘に許して貰えるのだろうかと。本当は許して貰うつもりはないのに、許しを貰おうとして自分を痛め付けていた。それが罰になるとおもっていた」


 エルドリアは口を挟めずに、ただその話を聞いていた。その話が少しだけ自分と重なっているように感じていたからだ。


「だが、それは違ったんだ。違うと断言する奴がいた。私はソイツにぶん殴られて初めて、自分のやってきたことの無意味さを認めることが出来た。答えには初めから気付いていた。こんなことをしていても、娘は決して戻らないことを知っていた。それを認めたくなかった。私はソイツに殴られることで、罰を受けるフリをして罪からも、娘からも逃げていただけだと気づいたんだ」


「…だから私をぶん殴ったと?」


 ダブルはコクりと頷いた。


「罪を受け入れること、そうして初めて、罰を受け取る資格を得られる。私は娘を殺めたことを、娘が戻らないことを受け止めた」


 ダブルの言い分には確かに納得できるものがあった。しかし、エルドリアはダブルとは違う。まだやり直しが効く。そしてそもそもエルドリアは自分が生きていることが間違いだと認めている。


「しかし、私は生きていることが間違いなのですよ。この身体をフレドリックに返すこと。それが正しい贖罪になるはずなんです」


「そのために自分を消す…殺すと言うのだろう? 美しい自己犠牲だな。不愉快だ」


 落ち着いた言葉の中に、明確な嫌悪が混じった。


 エルドリアがなにも言い返せずにいると、ダブルは話を続けた。


「私があなたをぶん殴ったのは、自分に似ていたからという理由もあるが、なにより、私は生きていてほしい側にいるからというものが大きい」


「生きていてほしい側…?」


「生きていて欲しいと願う側だ。私は娘に生きていて欲しいと本気で思っている。だから私はあなたの味方ではなく、フレドリックという人物の味方になると決めた」


「不愉快な…自己犠牲だ」


「そうだな。これはどこまでも平行線だ。どちらが正しいと決めることが出来るのは、あなたとフレドリックさんだけだ」


「なるほど…つまりあなたは苦しんで生きていけと言っているのですね」


 エルドリアがそう口にすると、ダブルはこれ見よがしにタメ息を吐いた。


「あなたは話を聞いていたのか? 私は楽しんで生きろと言っている。生きることは苦しむことではない。そうやって逃げることをやめろ」


「ですが私は罪を───」


「あーー。馬鹿馬鹿しい。物分かりの悪い奴だ。本当に身も蓋もない正論をくれてやろう。罰を与える人間が、罪を背負った人間と同一人物であることほど、滑稽で無意味なことはない。人は自分に甘い生き物だ」


 正論だ。本当に、身も蓋もない正論。


「だったら俺は…どうしたら……」


「だから言っているだろう? 罰なんてものは死んだ後に下る。それまであなたは、フレドリックさんに生かされたのだから生きるべきだ。生かされた責任を果たせ」


 逃げ道を潰され、進んできた道を追い返され、振り返った先には自分がいた。


 黒蛇の子供が笑っている。満足げに、ムカつく顔して笑っている。


(逃げるな……そう言う意味か……。全く俺は自分のことが嫌いすぎるな)


 エルドリアは諦めたような笑みをダブルへ向けた。しかしそれは生きることへの失望ではない。明日を生きるための落胆だ。


 そんなエルドリアに、ダブルは満足げな笑みを返してくれた。


「安心しろ。人核転写の仮面は私が責任をもって探しだしてやる」


「謝礼は用意しますよ」


 赤色の剣が掲げられる。死なないと知っていても死ぬのは怖い。


 フレドリックはなにを思って死ぬことが出来たのだろうか。そんなことをエルドリアは考える。なぜなら全くもって自分は死ねそうになかったから。


(フレドリックのボケカス。覚えていろよ!)


 それでも啖呵を切った。勝てた試しがない父親へ向けて、もう一度喧嘩を売った。


 その瞬間に、エルドリアの腹部を黒い何かが貫通した。


「こ、これ、は?」


 エルドリアはそれに見覚えがあった。見間違えようもない。


 絵画の化物が地面から生えてきた。


 それを理解した瞬間にエルドリアの視界はブラックアウトした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ