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ダブルテイル・ブラックウルフ  作者: 甘味感
2章 黎明前夜
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 犯人の動機と目的が仮ではあるが、判明してくると、自然と犯人の輪郭が浮き彫りになり始めた。


「人核転写の仮面とやらを求めている? それとも持っている存在? いや、持っているだけならば隠しておけばいい」


「そうですね。わざわざ邪魔などしなくとも、むしろ邪魔などせずにひっそりと気配を消していた方が利口です。ですので私たち教会より早く手に入れたいというほうが納得できますね」


 魔道具を早く手に入れたいという目的の方が理解できると、フレドリックが言うと、アリュエルが反対意見を出した。


「隠しておけない、もしくは逃げられない都合があるんじゃないでしょうか?」


「逃げられない都合? 例えばなんだ? 怪我してるとか? それなら襲う理由としてはちょっと怪しいよな~」


 そうやって意見を言い合って頭を捻っていると、ダブルは始まりのことの発端を理解していないことに気づいた。


「そもそもなんで、空想拡張現実世界(ジャンクエデン)に仮面が流れてきたんだ? 誰が欲しがった?」


「分かりません。なんというか奪われたというよりは、不自然に消失したといった方が正しいのですよ。まるで内部からの手引きがあったような……。まぁそちらは調査中ですので自ずと判明してくると思いますが」


「まぁどちらにせよ。仮面を欲しがった人物はいる。そしてその人物が今回の化物と同じであるなら、なぜ隠れない? アリュエル君の言った通りに隠れられない、もしくは逃げられない理由があるのなら、それは誰だ?」


 ダブルは言葉を続けていくごとに、1人の人物が思い浮かんだ。


「1人だけですね。それに、その人物であれば教会の保有する魔道具を痕跡も残さず盗みとれるだけの力を持っていてもおかしくありません」


 権力には多大なる富が附随する。富とは力そのものだ。


 ダブルは考えていくごとに不都合な真理が噛み合っていく感覚を覚えた。


 さながら悪魔を作り上げるがごとく、ダブルの頭のなかで様々な部品が集まって、否定しようと思えば思うほどに恐ろしい影が伸びていく。


「いや、ただの憶測だ。仮面があるのなら、別の都市へ移送すればいい。そしてほとぼりが冷めた後で戻す方が安全だ」


 ダブルは何とか噛み合わない不都合を見つけ、その影を払った。しかしそれでも、その可能性はダブルの思考の片隅に依然として居座り続けた。


「同感ですね」


 同じく明言を避けていたフレドリックも頷いたが、それは敵対したくないからなのか、それとも今は確証がないからなのは、ダブルには分からなかった。


 アリュエルは俯いて表情を見せることはなかった。


「は? なんか皆分かってるけど、誰?」


 アカツキはバカだった。


「いいや気にすることはない。ただのこじつけだった」


「整合性をとる達人になってたのか?」


 ダブルは素直に頷いた。


 興味なさげな返事をしたアカツキは、唐突に、ダブルとアカツキの原点に立ち返った。


「つかさ、化物が仮面を持っている奴だとして、それが俺らの追いかけてる奴と繋がるのか? 俺にはピンとこねーけど」


 ダブルは考え出した瞬間に、奇しくもそれが繋がることに気づいた。


(殺人鬼と化物を別とするなら、それが成り立つ。成り立ってしまう)


「同一人物ではないのかもしれない」


「なんでそう思うんだ?」


「彼女を襲う理由が化物にはない」


 化物が仮面を持っているとするならば、殺人鬼はそれを奪おうとしている存在なのではないか。そして化物の所属がダブルの思考の片隅に残り続ける人物であるならば、殺人鬼がレリーズを襲った理由に納得がいく。


 ダブルが自分の内側で成り立った考えの明言を避けていると、フレドリックが首をかしげた。


「彼女…?」


「ん? あぁ言ってなかったなぁ。友達ってのはレリーズのことだよ。この空想拡張現実世界(ジャンクエデン)の貴族様。レリーズ・ヴェル・ヤトメイズ。知らない?」


 やってしまったとダブルは頭を抱えた。


 部外者に貴族が襲われたことを知らせるのはリスクがある。そのためにダブルはなんとか明言を避けていたというのに、アカツキはその努力を台無しにした。


「アリュエル君。すまない」


「いえ、仕方ないですよ。仕方ない。仲間が増えたと思いましょう」


 少しだけダブルは気持ちが救われた。


「クルーズさんの妹さんですか? 彼女が襲われた?」


 ダブルはもう隠し通すことは不可能だと諦め、全てを自白した。


「なるほど。そんな事件があったのですか…災難でしたね」


「隠していたことはすまなかった。貴族が襲われたという事件はあまり広まって良いものではないからな」


「それもそうですね。口外しないことを約束しましょう」


 フレドリックへ感謝の言葉を向けた後、ダブルはアカツキを叩いた。


「ご、ごめん。本当にごめん」


「しっかり反省しろ」


 ダブルはタメ息を溢してから、息を吸うと共に気を取り直し、半ば無理やり勢いに任せて結論を出した。


「同一人物にせよ、違うにせよ、そもそも人間ですらなかろうとも、探して捕まえれば全て分かることだ」


「そうですね。彼らには悪いですが、餌になって貰いましょう」


 ダブルたちの前を歩く2人組へ視線を向けたフレドリックは、何食わぬ顔顔で畜生発言をし、アリュエルがそれに反発した。


「ちゃんと守りますよ!」


「安心して下さい分かっています。見捨てるつもりなどありません。仲間ですからね」


 フレドリックはなんとも胡散臭い笑顔を作った。




 ◇




 ダブルたちが意志を固め、化物の正体に迫ろうと意気込んでいると、眼前の2人組は関係者しか立ち入れない区画に入り込んだ。


「ここ入っていいのかぁ?」


「大丈夫ですよ。私には許可を出す権限がありますから」


 アリュエルはそう言うと、虚空から指輪を2つ取り出した。


「な、なにそれ!」


「権限です。ダブルさん。フレドリックさん。どうぞ」


「権限って物理的な形してんのかよ! つか、どこから取り出した!?」


「え? 空間からちょいと引っ張ってきましたけど…?」


 当たり前の常識を言うようにアリュエルはその荒唐無稽を言ってのけた。


「普通そんなことは…出来ないよなダブル?」


「ここが空想拡張現実世界(ジャンクエデン)という特殊な場所だからだろう。保安官にはある程度の権限が与えられているらしいな」


「なんとも無茶苦茶な力ですね。ヤトメイズの魔法というものは」


 フレドリックが半ば呆れたような声を上げた。


「え? 他の貴族様はこんなことは出来ないんですか?」


「無理だ」「無理ですね」


 ダブルとフレドリックが同時に否定した。


「そもそも、魔法の範囲をここまで広げて、それを維持し続けるなど他で聞いたことはありません。その上で死の無効化などを全ての人に適応させるなど不可能です。なんらかの魔道具による補助を受けているはずですね」


 フレドリックの話をダブルが続けた。


「魔法の力を他者でも使えるようにしてることも異常だ」


 アリュエルにはピンとこなかったらしく、小首をかしげた。


「私はこの都市から出たことがありませんし、空想拡張現実世界(ジャンクエデン)にいる時間が長いので、それがどれほど凄いのかよく分かりません」


「まぁ…空想拡張現実世界では当たり前なのだろうな」


 別にヤトメイズ家の魔法の素晴らしさを説きたいわけでもないため、ダブルはそそくさと話を切り上げた。


「俺は指輪必要ねーのかな?」


「アカツキさんは……要りますか?」


「要る!」


「必要ない。どうせ着ける場所もない」


「やだー!俺も権限欲しい!」


「なぜだ? どうせ返却するというのになぜ拘る?」


「権限って響きがいい。特別感あってゴキゲンになれるね」


 ダブルはタメ息を吐き出した。


「さっさと行こう。見失ってはこれまでの労力が全て水泡に帰する」


 ダブルたちは追跡している2人組みの後を追った。


 観光都市の立ち入り禁止区域は、都市の明るさと反比例して、そのほの暗さと不穏な気配を強めていた。


 キラキラと、どこを見ても照明だらけだった表とは異なり、明確に裏側と分かるほどに光源が少ない。少ないだけで汚れている印象はない。しかしダブルは先入観からか、化物の所在地として適切だと感じた。


「うぉー路地裏には化物が住んでいる。こんなキラキラ都市の路地裏なら、さぞ愉快なのがいるんだろうな」


「楽しそうだな」


「全然怖いね! いや、マジで怖い! 俺ホラー苦手なんだよ!」


「置いていくことはしないぞ」


 ダブルは冷たくそういい、路地裏の闇に足を踏み入れた。


 空気がガラリと変わる。ヒンヤリとした闇がダブルの頬を撫で、そのまま心の内側まで流れ込んでくるようだ。


「寒い…? なんで?」


 アリュエルが酷く困惑していた。


「どうかしましたか?」


空想拡張現実世界(ジャンクエデン)の中で寒いって感じるのは、初めてです」


 ここに根をおろすエリート保安官が、異常事態だと口にした事実がダブルたちの気を強く引き締めた。


「もう少しあの2人組に近づく方がいいな」


 誰も異存はなく、ダブルの言葉に従った。


 立ち入り禁止区域の裏路地は嫌に入り込んだ道だった。何度も何度も曲がりくねった道の先にあるのは、果てのない曲がり道。


「ここまで見通しが悪いのなら、化物側はさぞ襲いやすいのだろうな」


 ダブルがつい悪態をつくと、アリュエルが怯えたように言った。


「知りません…この道に、こんなに曲がり角はないです」


「ちょっ! 辞めてよな。道を間違えたとか───」


「そんな訳はないです!私はこの道をよく通るので間違えようがないです!」


 ダブルは何かが起こることを確信した。傭兵として殺しあいに身を投じていたからこそ分かる死の気配。ダブルは伸びてくるその魔の手を払えるように警戒を強めた。


 そして何度目か分からない右折をして、2人組が曲がり角に消える。


 その後を追ってダブルたちが曲がり角に差し当たり、右側に視線を向けた時。


 黒い木の枝が2人組を背後から貫いた。


 2人組は、何も口にすることはなく一瞬にしてダブルたちの目の前から消える。


 ダブルはすぐさま化物を観察し、その正体を即座に見破った。それは血の滴る黄金のリンゴを実らせた黒く枯れた樹木の化物。


「当たりだ! 行くぞ!」


 化物は人ではなく、正真正銘の化物だったが、敵であることには変わりがない。ダブルは疑問の全てを投げ捨てて、アカツキを鞘から引き抜いた。


 ダブルが速攻をしかけると、化物は2人組を貫いた木の枝をダブルに向けて振り回した。木には前後と言う概念がないため、振り替えることすら必要ないのだろう。ほとんどノータイムの反撃だった。


 しかしダブルそれを、まるで走り高跳びをするように綺麗な背面飛びで飛び越えた。そして空中で身を捻り、着地すると走った勢いは全く減衰していなかった。


「死ねっ!」


 十分どころか十二分な加速をもって振り抜かれた剣は、ダブルの技量をもって、勢いを殺すことなく樹木の化物の幹を捉えた。


「────ッ!」


 ダブルは驚愕し、目を見開く。その樹木はダブルの渾身の一撃をうけてなお、傷一つない。


 樹木の化物はお返しとばかりに、合計6本の木の枝で抱き込むようにダブルを襲った。


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