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ダブルテイル・ブラックウルフ  作者: 甘味感
2章 黎明前夜
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 アリュエルの事情説明により、晴れて公認ストーカーになれたダブルたちは、ひたすらに教会関係者と保安官をつけ回していた。


「おかしいな…俺は空想拡張現実世界(ジャンクエデン)を楽しむために来たはずでは? なぜこんな面白くもないストーカー行為をしている?」


 アカツキが突然我に返った。尾行を始めた時は楽しそうにしていたのに、今は元気がない。


 それもそのはずだ。朝から始まった尾行は、気付けば昼を超えて夜が訪れ、そしてこれまでなんの進展も無かったからだ。


「つーかさ、教会はどんな魔道具を探してるわけ? こんな血眼になってウロウロしてさ。不審者にもほどがあるぞ」


 自分たちの方がよっぽど不審者に近いとダブルは思った。


「私にも分かりません。ただ、とても危険なものらしいですよ」


「危険なものならちゃんと管理しとけよな~」


 不機嫌に、八つ当たり気味にアカツキは露骨に疲れた態度をとった。


「煩いぞアカツキ。あなたはなにもしていないだろう。歩いているのは私たちだ。気力を削ぐようなことを口にするな」


「はーー? じゃあ黙ってろってか?」


「そこまでは言っていないだろう」


 なにも変わらないものを、ただひたすらに眺め続けるのは流石にダブルでも堪える。


 無言の圧力が場を支配しており、雰囲気は最悪だった。


「ん? おや? ダブルさん? こんな所で出会うとは奇遇ですね」


 聞き覚えのある声音がダブルを呼んだ。いったい誰だと振り返った先にいたのは、目にまぶしい金色の男だった。


「貴方は……そうだな。エルドリアさん。帽子は忘れてしまったのか?」


「あ、金ピカ!」


 アカツキがなにも考えていないらしき言葉を吐き出した。


「…そちらの方は?」


 しかしエルドリアはまさか剣が喋ったとは思わなかったらしく、ダブルの隣にいたアリュエルへ少しばかり眉をひそめた。


「防罪庁の2級特別監視官アリュエルです。初めましてエルドリアさん」


「ええ、初めまして…?」


 声が違うことに違和感を覚えたらしく、エルドリアは空返事を返した。


「あぁ。すまないエルドリアさん。先ほどの失礼は、コイツだ」


 ダブルは流石に、無礼を働いたことを知らない振り出来ず、アカツキの存在をエルドリアへ伝えた。

 

「えーアカツキです。さっきはすみません。つい、反射的に口にでました。ごめんなさい」


「あぁ。絵画の時にも喋っていましたか?」


 アカツキが肯定すると、エルドリアは納得がいったような態度をとった。


「あの時のダブルさん以外の声は、誰のものだったのか、少し疑問だったのですよ。まさか剣が喋っていたとは思いませんでした」


「驚かないのか?」


「驚きましたが、空想拡張現実世界(ジャンクエデン)にいたお陰で感覚がマヒしているようです」


 ダブルは強く納得し、その意見に同調した。


「確かに、ここにいると常識が歪んでしまうな」


 朗らかな笑い声が場を満たした。


「それで、ダブルさんは防罪庁の2級特別監視官と一緒になにをしているのですか?」


「いや、ちょっとした調査の手伝いだ。大したことではない」


 ダブルは部外者に事件のことを告げるわけにはいかないとして、真実を隠した。


「そうですか。事件というと、今、空想拡張現実世界(ジャンクエデン)で枯れ木の化物が現れたという話を聞いていたりしますか?」


「信じているのか?」


「信じるしかありませんでした。私の部下がそれに襲われましたから」


「部下…?」


 ダブルが首をかしげると、エルドリアは畏まった自己紹介を始めた。


「あぁ改めまして、私は五柱神教(ピラーズ)の高位神官。未来運送部の部長。黄金のコードネームを拝命しているフレドリック・ゴールドです」


 驚きよりも、笑いがダブルを突き動かした。


「はは、大物だな。それで? フレドリックさんはいったいなんの用でこの空想拡張現実世界(ジャンクエデン)に?」


「そうですね。危険なものを回収しに来たのですよ。ついでに、とあるトーナメントで優勝していこうかと」


「そうか、あなたの部下とは、今あそこにいる人か?」


 ダブルが指を差した先を見て、フレドリックは頷いた。


「どうにも私たち教会を快く思っていない化物がいるようでして、私も部下をこれ以上傷つけれらるのを黙って見ていられないので、ここらで1つ化物退治をしようかと」


「目的は同じようだ。アリュエル君。フレドリックさんと一緒に行動しても良いか?」


 アリュエルは状況についてこれない様子だったが、こくこくと首を縦に振った。


「ところで、エルドリアというのは偽名か?」


「いいえ、私の本名ですよ。フレドリックというのはこの体、黄金のコードネームを名乗る者の名前です。立場上の名前だと思っていてください」


「どちらで呼べばいい?」


「お好きにどうぞ」


 ダブルたちが仲間を1人加えると、尾行していた2人組が動き始めた。


 特に慌てることもなく、ダブルたちは彼らの少し後ろを堂々と歩いてついていく。


「フレドリックさんは戦えるのか?」


「ええ。見ての通りに希少種族ですので、魔法を使えますよ」


「実戦経験はあるのか?」


「不敬にも教会に刃を向ける者はいるのです。それに、仮に死んだとしてもこの空想拡張現実世界(ジャンクエデン)ではホテルのベッドに転送されるだけです。お気になさらず」


「まぁそうだな」


 なにかあれば出来る限り守ろうとダブルが考えていると、アカツキが疑問を口にした。


「教会が失くした魔道具ってそんなにヤバいものなのか?」


「そうですね。人間のコピー機とでも言えばいいでしょうか。人格の上書きをしてしまう。そんな魔道具です」


「なにそれ、コピー人間を作る魔道具? ドッペルゲンガーってやつか?」


「人格の上書きをされた人物はどうなる?」


「上書きした人物に塗り潰されて消えます。人を殺しているのと変わりありませんね」


「元に戻す方法はあんの?」


 アカツキがそう聞くと、フレドリックは少しの警戒を見せた。


「…やけに詳しく聞きますね?」


「いや、ただの好奇心だよ。犠牲者とはいるのか?」


 フレドリックは少しだけ目をつむりそれからゆっくり目蓋を開けてから言った。


「いますよ。むしろ望んでそれを使うものがいるから、その魔道具は危険なものなのです。それがもたらす災いを祝福だと勘違いし、偽りの光に身を投じる。気付いたときはもう後戻りすることが出来なくなっている……。もうこれ以上誰かが道を踏み外さないようにしなくてはなりません」


 そう熱弁したフレドリックの声音は、強い意思を宿していながらも、なぜか淡く儚いような気配を放っているとダブルは感じた。


「その魔道具の名前はなんだ」


「人核転写の仮面です。名前の通りに仮面の形をしています。見つけたら決して被らないように。そして私に連絡してください」


「あぁ。約束しよう」


 フレドリックとダブルの話に、アカツキが興味津々といった様子で入り込んだ。


「上書きって体まで変わったりすんの?」


「いいえ。外見や体まで上書きするわけではなりませんよ。あくまで意識だけです」


「ふーん。ギリギリ人助けに使えそうだな? 体が病気とかで、もう死ぬしかねぇってぐらい弱っている人とか、余命宣告受けたけどそれでも生きたいって思っている人の意識を健康的な人に被せるとか」


 アカツキの能天気な声に向けられた明確な怒気。それはほとんど殺気に近いもので、ダブルはそれをフレドリックから感じ取った。


「それは人助けとは言わない」


 ここまで沈黙を守っていたアリュエルも、その言い分に賛同してアカツキを咎めた。


「そうですよ。アカツキさんは肝心なことを忘れています。それで確かに人を助けたとしても、意識を上書きされる人は犠牲になりますよ」


「ま、そうだよな。ごめん。でももし、健康な人がその人を助けたいと自ら志願したらどう? 選択肢としては────」


「アカツキ。そこまでにしておけ」


 ダブルはアカツキの言葉を遮った。


「…俺はただ、そう言う選択があるって言いたかっただけだよ」


「それが許される行いだと思うのか?」


 ダブルの問いにアカツキは無言を返した。それは言葉よりも雄弁に答えを語っていた。


「少し、彼らから離れすぎた。念のために近付こう」


 前方にいる、現在追跡している2人組を指してダブルが言うと、アリュエルとフレドリックは頷いた。


「ところでダブルさんはなぜ化物を追いかけ回しているんですか?」


「目の前で殺人事件が起こったからだ。その犯人を捕まえようとしていた」


 驚いた顔でフレドリックがダブルの顔を見た。


「化物を見たのですか?」


「いや、化物とは別件の殺人事件だ。目の前で友人が襲われた。それは見間違えようもなく、確実に人だった」


「人ですか…化物の正体も人間なのかもしれませんね。パニックによる見間違い…しかしそうなると4人ともに、人ではなく化物と断言していることが気掛かりですが…」


「人だとするのなら、教会か防罪庁に恨みを持つ人物となるが、心当たりはあるか?」


 アリュエルとフレドリックの両方へ向けてダブルは質問した。


 しかし両方とも、心当たりが多すぎて分からない。という答えを返した。


「なぁダブル。片方を恨んでるなら、もう片方はただのトバっちりだよな。わざわざ両方一緒にいる時に襲うか?」


 アカツキの疑問に答えたのはフレドリックだった。


「そうなると犯人は教会を恨んでいることになりますね。現在私の部下は防罪庁の保安官と共に行動することになっていますので」


「そりゃなんで?」


「自分の家を勝手に調べられることが嫌なのでしょう。隠したいものは誰にでもありますから」


「タシカニ」


「ならば防罪庁はただのトバっちりだな」


 アリュエルが全く似合わない渋い顔をした。


「ですが、仮に恨んでいたとしてもこんな行動をしますか? ここは空想拡張現実世界(ジャンクエデン)ですよ。人を殺しても無意味どころか…ここに敵がいると教えるだけです」


「恨みというものは、時に想像だにしない行動を起こさせますよ」


 しみじみと、フレドリックは言葉に経験したもの特有の苦味を含ませていた。


「うわ~。一番アホだなって思ったの聞いていい?」


 完全な好奇心だと分かる、喜悦に富んだ言葉をアカツキが放った。


「そうですね。寄付をしたというのに、なんの見返りもないと暴れまわった人物はどうでしょうか? 教会の建物のガラスを壊して回ったのですが…なんの意味があったのかは今も分かりかねますね」


「子供より頭が悪そうだ…」


 フレドリックはおどけたように首をかしげた。


「話を戻すが、目的不明の敵がいるということは確定だ。問題はそれが何者かという点だが……情報が無さすぎて特定のしようがない」


「ん? いやダブル、情報ならあるぞ。人核転写の仮面」


 それがどうしたとダブルが口を開こうとした時、アリュエルが独り言を漏らした。


「その魔道具探しを妨害したい…?」


「なるほど…目的の予想がたったな」


「ガハハ。俺に感謝しな」


 どうせ何も考えずに適当言っただけだと分かっていたため、ダブルはお礼を言う相手を間違えなかった。


「アリュエル君、ありがとう」


「えっ!? いや、当然のことですよ。エリート保安官ですから」


 一瞬驚いた後で、喜色満面にアリュエルが言ってのけ、それを見たフレドリックは少し困惑気味に言った。


「君たちはいつもこんな調子なのか…?」


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