模擬試験
「うーん……二人とも同じところで間違えてるなぁ……」
次の模擬試験が近づく中、私が作った小テストの問題を採点していた。
二人とも正答率が高くほぼ満点だが、一ヵ所だけ同じ間違いをしている。
それが繰り下がりのある三桁の引き算。
これは1年生の範囲ではないんだけど、二人が「もっと知りたい!」とやる気満々だから既に授業でやったもの。
せっかくだからと入れてみたけど、ちょっと難しかったかな。
ちなみに問題は「162-96」と繰り下がりが2個あるもの。
私の世界でも2年生の範囲だったはずだから、間違えてもしょうがない。
でも、早くできるようになっておけば自信にもつながるし……。
とりあえず、明日の授業で教えてあげよう。
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「――ということで、こうすればいいんですね」
「なるほど、わたくしたちはそういう風に間違えてたんですのね」
「むずかしいよぉ……」
やはり繰り下がりが二つあると難しいよね。
じゃあこれならどうかな?
「ちなみに他の考え方もできるんですよ。サリア王女、162-100はいくらですか?」
「んーと……62!」
「正解です。でも、これだとちょっと多めに引いてしまってますよね?」
「うん」
こういう風に繰り下がりがなければ解くのは早い。
でもこれだと4多く引いてしまっている。
「ではルナーリア王女、いくつ多く引いてしまっていますか?」
「100から96を引けばいいんですよね……4ですわ」
「ということは、162-100の結果である62に4を足せば……」
「「あーっ!」」
二人が同時に驚きの声をあげる。
そうそう、勉強ってこうやって気づいた時が嬉しいんだよね。
計算式的には162-(100-4)を展開して162-100+4なんだけど……まだ負の数は教えてないからあえてここでは言わないことにする。
「なるほど、これなら繰り下がりがなくて楽ですわ……」
「すごいすごーい!」
二人とも目を輝かせながら私の方を見る。
難しいと思ってた問題でも、見方を変えれば簡単になるんだよね。
「あらあら、賑やかだと思って覗いてみたら……もうこんな先の問題までやってるのね」
二人の大声が外まで響いていたのか、王妃様が入室してくる。
そして難しい問題をやっている二人を見て驚いているようだ。
「模擬試験の後半はちょっと意地悪でね、先の問題を出してくることもあるみたいだけど、これなら安心ね」
「だいじょうぶーっ!」
「今度こそ1位を取ってみせますわ!」
「ふふふ、二人ともやる気満々ね」
新しい解き方を知って自信がついたのか、二人とも勢いがすごい。
もしかしたら二人で1位と2位を取っちゃうかも。
「ねーねーメイおねえちゃん、もし1位を取れたらご褒美くれる?」
「あら、それはわたくしも気になりますわね」
「あらあら、メイさんは大人気ね。じゃあ1日デートとかどうかしら?」
「えっ」
突然の王妃様の提案。
何が起きたのか脳が理解しないでいると。
「……! サリアさん、わたくし負けませんわよ!」
「サリアだって!」
すぐに火花を散らす二人。
あの……私まだイエスと言ってないんだけど……?
でもやる気は漲っているようで……王妃様、お二人の扱いがお上手で……。
そんな二人のやる気を削がないよう、私は何も言わないことにした。
そして、模擬試験の日を迎え――。
**********
「やったーっ! 1位! 1位だよメイおねえちゃん!」
「サリアさんが1位ということはわたくしは……あ、あれ……? わたくしも1位……?」
結果発表の日、果たしてどちらが上だったのか。
それを確かめにいくと、なんと同着で二人とも1位だった。
つまりこれは……。
「二人とも満点だった……ってことなのかな。もしくは同じところを間違えたか……」
以前、繰り下がりのある引き算で同じところを間違えてたし、もしかしたらと思っていたんだけど。
実際に答案が返却され、点数を確認してみるとなんと二人とも満点だった。
更に最後の問題は1年生では習わない範囲……つまり私が二人に先に教えてた範囲。しかも繰り下がりの2つあるあの問題。
きっと二人は「これ授業でやったところだ!」と思ってたことだろう。
「ねーねーメイおねえちゃん、サリアにご褒美くれる?」
「ま、満点ですから! わ、わたくしにも……」
……普通はやらない範囲まで勉強して、しかもそれのおかげで満点を取ったのだ。
そんな二人の頑張りに応えないわけにはいかない。
「もちろんです、約束通り休みの日にお出かけしましょう」
「「やったーっ!」」
満点を取ったことより、デートの方が喜んでいるような……。ま、いっか。
「……あっ、つ、つい喜び過ぎて……はしたない所をお見せしましたわ」
テンションが上がり過ぎてしまったのか、普段では見せないような大声と仕草を見せてしまったのが恥ずかしいのか、ルナーリア王女は顔を赤くして俯いてしまった。
まだ7才なんだし、背伸びしなくてもいいと思うんだけどな。
「ふふ、いいんですよ。……では王妃様たちがお待ちですし、報告に戻りましょう」
「そ、そうですわね」
「えへへー、おねえちゃんとデートー♪」
まだほんのり顔が赤いルナーリア王女と、デートが決まって満面の笑みを浮かべるサリア王女。
どちらもかわいらしいなと思いながら、私たちは会場を後にした。
**********
「さ、それではこのお店で好きな物を買いましょう」
「はーい!」
「アクセサリー……自分で選んで買うなんて初めてですわ……」
ということでデート……という名のショッピングに来た私たち。
サリア王女には王妃様が、ルナーリア王女には影の人がそれぞれお小遣いを渡してくれた。
最初は日本円で10万円ぐらいを渡されたんだけど、流石に小さい子がそんなに持ってたら変な人に狙われそうと思ったので、5千円にしてもらった。
そしてなぜか私ももらっちゃったんだけど……どうしよう。
「あれもキレー……これもキレー……」
「わ、わたくしはメイおねえさまとお揃いのものが……」
色々と目移りしているサリア王女と、私と同じものを買おうとしているルナーリア王女。
予算が5千円だから買えるものは限られてるんだけど、それでも結構な種類の中から選べるようだ。
「あ、この青い指輪がキレー……」
「あら、確かにこれは綺麗ですわね……」
二人の目に留まったのは青い宝石のようなものがはめ込まれた小さな指輪。
確かにアクアマリンのような綺麗な青色をしている。
「ほほう、お目が高い。これはただ綺麗なだけでなく、近くに同じものを身に着けている者がいると共鳴する不思議な指輪なんだよ」
「共鳴……ですか?」
「ああ、試しにつけてみてごらん。それで少し離れて、相手のことを思い浮かべるんだ」
「私やってみたーい!」
「で、ではわたくしも……」
二人はそれぞれ指輪を指にはめて、店の端っこに移動する。
そして相手のことを思い浮かべると……。
キィン、と指輪から空気を震わせるような音が放たれた。
「ほう、結構な魔力を持っているようだね。これは魔力が強ければ強いほど、共鳴する距離が長くなるんだよ」
「今まで共鳴した中で一番遠い距離はどのぐらいなんですか?」
「そうだな……だいたいこの町の端から端までぐらいだったかな」
この町の端から端……おおよそ10キロはあったと思うけど……。
それにしても面白い効果の指輪だなと思う。
「ねーねー、メイおねえちゃん、これ欲しい!」
「わたくしもですわ。でも……お高いのでしょうか……?」
「そうだな……そこのお姉ちゃんも含めて3人で1500ゴールドでどうだい?」
「あ、それなら丁度支払えますね。それでは……」
私とサリア王女とルナーリア王女、それぞれが持たされた500ゴールドを店主に手渡す。
「確かに。ちょっと指のサイズに合わせるから待ってもらっても大丈夫かな?」
「えっ、サイズ合わせまで入れてこのお値段なんですか?」
「ああ、ちょうどその3つで完売だし、あんなに楽しそうに使ってもらえるんならこっちとしても嬉しいんだよ」
「ありがとうございます。それではご厚意に甘えさせて頂きます」
こうして、3人お揃いの指輪が手に入ったんだけど……。
「えへへー、ママ、これメイおねえちゃんとお揃いの指輪なの!」
「あらあら、それじゃ薬指につけなきゃ……」
王妃様! それはちょっとまずい意味の位置ですから! なんで勧めてるんですか!?
……などと言うことなどは到底できず、黙るしかない私なのだった。
ちなみに、陛下がサリア王女の薬指の指輪を見て卒倒してしまったのは、それから少し後に聞いたお話。