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メイは魔法使い?

「うぉーたーあろー!」

「フレイムアロー!」


 サリア王女の放ったウォーターアロー……水を矢の形状にして撃ち出す魔法は、その場で失速して地面に落ちて水たまりになる。

 一方、ルナーリア王女の放ったフレイムアローはちょっとだけ進んで同じく地面に落ちる。


「惜しいですね、矢の形を作るのは完璧なのですが……」

「ええ、最初はみんな飛ばせないものよ。むしろ、あの年齢で矢の形状を作り出せるのは凄いことだと思うわ」


 ソシファ宮廷魔術師長と王妃様が私の横で会話をしている。

 どうやら、矢の形をイメージして魔素を変化させ、その形に留めておくのもかなり難しいらしい。

 ちなみにサリア王女は同じ水属性の魔法を使うソシファさんのアイスアローを真似しようとしたが、水を氷に変えるのにもかなりの修練を要するため、氷の矢を作れるのはまだまだ先になるそうだ。


 二人とも矢が飛ばないのは、物を飛ばすイメージができてないからなのかな……?

 ……そうだ!


「王妃様、少々お耳をお貸しください」

「あら、また何か面白いことを思いついたのかしら?」

「ええ、実はですね…………」


 私が思いつきを伝えると、王妃様は私の方を見てにっこりと笑う。


「なるほど、では次の魔法訓練の時に準備しておきましょう。そして、今日はもう一つの方の……」

「ええ、一度試してみましょう」

「それなら……サリア、ルナちゃん、ちょっと休憩しましょう?」


 王妃様が二人を呼ぶと、二人同時に『はーい』と元気よく返事をする。

 これだけ元気があるなら魔力切れは起こしてなさそうなので安心だ。


「私はクッキーを準備してくるから、その間はメイさんが遊んでくれるそうよ」

「メイおねえちゃんが!? やったー!」

「メイおねえさまと……ちょっとドキドキします」


 ……ルナーリア王女は何を想像しているんだろう。

 まあそれはさておき。


「ではこちらに紙があります。今日はこれを使って紙飛行機を折っていきましょう」

「「カミヒコーキ?」」


 あっ。

 そういえばこの世界には飛行機はないんだった。

 使う言葉を選ばないと、私が転生者だってバレちゃうかもしれないから気をつけないと。


「ええと、『紙』で作った、『飛行』する、『奇』妙な物体……を略して紙ヒコーキです」

「聞いたことがありませんわね……サリアさんは?」

「ううん、サリアも初めて! 気になる気になるー!」

「分かりました、それでは始めていきましょう。まずはこの紙をこうして……」


 二人が乗り気になったところで紙を渡し、折り方をゆっくりと説明しながらお手本を折っていく。

 二人の進捗を随時確認しながら、一つ一つゆっくりと折り進めて……。


「はい、これで完成です」

「……なんだろ、これ?」

「ううん……見た事ないものですわ。これで何をするのですか?」

「それはですね……ちょっと見ててくださいね」


 私は二人とは反対方向に向き、紙飛行機を手に取り、そっと投げた。

 すると……。


「ふわぁ……飛んでる!」

「ど、どうなっているんですの!? こんな変な形のものが……空中をすいーっと飛んでいきますわ!」


 二人は驚きを隠せず、飛んで行った飛行機の方をじーっと見ている。

 そして、紙飛行機が地面に落ちると、駆け寄ってそれを拾い上げる。


「普通の紙……ですわね?」

「うん……」


 二人は紙飛行機を裏にしたり表にしたり。

 更に色々な角度から見ては首を傾げる。


「ねえねえメイおねえちゃん、これ、もしかして魔法なの?」

「いえ、魔法ではないですよ。試しにお二人も作ったものを投げてみてください」

「もしかして……わたくしたちでもできるんですの?」

「やりたいやりたい! ルナちゃん、一緒にやろー!」


 サリア王女はそう言うと、自分で作った紙飛行機を持ち、力いっぱい投げた。

 その飛行機は少しだけ飛ぶと、すぐに地面に落ちた。


「投げ方にもコツがあるんですよ、勢いよく投げすぎるとあまり飛ばないこともあります」

「では……こんな感じですか?」


 ルナーリア王女は肩の力を抜いてゆっくりと投げると、サリア王女よりも遠くに飛ばすことができた。


「ふふん、わたくしの方が上手なようですわね」

「むー……サリアも! サリアももっとやるー!」


 二人とも自分の投げた紙飛行機を拾うと、横に並んで一斉に投げる。

 すると、今度はサリア王女の方がよく飛んだみたいだ。


「やったー! 今度はサリアの勝ちー!」

「く、悔しいですわ……もう一回、次は勝ちますわよ!」


 ……その後、王妃様の焼いたクッキーが来るまで、二人は紙飛行機を飛ばし続けた……。


「……あの、メイさん。私もやり方を教えて頂いてもよろしいですか?」

「あっはい、大丈夫ですよ」


 まさかソシファさんまでやりたいと言ってくるなんて。

 そっか、この世界と向こうの世界では娯楽が違うから珍しいんだろうな。


 私が折り方を教えるとすぐに完成させ、二人に混じって紙飛行機を飛ばし始めた。


「ふーむ……この形状でどうやって飛んでいるのでしょうか……折り方も変えてみましょうか……」


 どうやらソシファさんも紙飛行機に夢中なようだ。

 そういえばブランコやすべり台、鉄棒といった遊具はこの世界にないし、その辺を作ったら人気になるのだろうかと思うのだった。




**********




「クッキーできましたよー……って、皆で何をしているのかしら?」

「紙ヒコーキ!」

「すごいですわ! こんな形のものが飛ぶのですわ!」

「す、すみません……興味深かったのでついつい私まで……」


 三者三様の反応だ。

 この反応に王妃様も興味がわいたらしく、クッキーをみんなで食べている時に折り方をたずねられた。

 クッキーを食べ終わるとすぐに紙飛行機を折り始め、試しに飛ばし始める。


「なるほど……これはみんなが夢中になるのも分かりますね。誰でもできるのに……まるで魔法のようです」


 王妃様は飛ばした紙飛行機を拾うと、それをまた飛ばし始めた。

 釣られて他の三人も飛ばし始め、飛距離を競い合う事に。



 そしてしばらくしてから本題を切り出す。


「サリア王女、ルナーリア王女、紙飛行機の飛ばし方は分かりましたか?」

「うん!」

「もちろんですわ!」


 よし、これなら大丈夫そう。


「では、今度は魔法で紙飛行機の形状を作って飛ばしてみましょう。何回も飛ばされてるので、イメージしやすいはずです」


 以前、魔法はイメージが大事だと聞いた。

 それならこうやってイメージをしやすいように、経験をすれば……。


「サリア、やってみる!」

「わたくしも!」


 二人はそれぞれ思い思いの形の飛行機を魔力で作り出し、投げる動作でそれを飛ばし……。


「で、できたーっ!」

「すごいですわ! メイおねえさまのおかげですわ!」


 矢の形状で飛ばないのは、たぶん二人とも弓を扱ったことがないから。

 それなら飛ばした経験のある形なら、飛ばすイメージができるのではないかと考えたのだ。

 特に、夢中になってやったものなら。


「あらあら、まさかこんなに早くできるようになるなんて……メイさんはやはり教えるのが上手ですね」

「いえ、たまたまです。それに本番はアローですからね」

「ええ、こども用の弓と矢を作ってもらえるように手配したので、明日からはそれを使いましょう」


 そう、アロー系の魔法も実際に弓を使ってイメージしやすくなれば飛ばせるのでは、と考えたのだ。

 実際の結果が分かるのは明日だけど、今から私も楽しみだ。


 そして、その後も二人は練習を重ね、紙飛行機の形状の魔法は完璧に飛ばせるようになった。


「おねえちゃーん! サリアできるようになったよー! やったー……ひゃっ!?」


 サリア王女が嬉しさを爆発させてこちらに駆け寄ってくる途中、躓いて転んでしまう。

 慌てて駆け寄って抱き起こすと、少し膝をすりむいてしまったようだ。更に服も土で汚れてしまう。


「ポーションを持ってくるわね!」

「私は着替えの服を持ってきます」


 王妃様とソシファさんはそれぞれポーションと服を取りに駆け出した。


「ふぇぇん……」

「大丈夫ですか、サリア王女……?」

「痛いよぉ……」


 見ると、少し血が出始めている。

 おそらくジンジンとした痛みが膝に出始めているだろう。


「……では痛くなくなるおまじないをかけますね」

「おまじない……?」

「そうです、それではいきますよ」


 私はサリア王女の膝に手をかざす。


「いたいのいたいの……とんでけー」


 そして、呪文と同時にかざした手を空へと移動させる。

 こどもに親がよくやるおまじないだけど……うう、ちょっと恥ずかしい。


「……すごーい! 今の何ー!?」

「魔法!? 魔法ですの!?」


 しかしおまじないは成功で、二人は興味津々だ。

 サリア王女に至っては痛みを忘れてしまうほどに。


「サリア、早くポーションを……って、あら……?」

「お着替えです! って……あれ……?」


 サリア王女を心配して急いで帰ってきた王妃様とソシファさんは目を点にした。

 だって、痛くて泣いていると思ってたサリア王女が笑ってるんだもの。


「あのねあのね、メイおねえちゃんが痛いの取ってくれたの!」

「魔法使いみたいですわ!」


 そのサリア王女の発言で、私が回復魔法を使えると勘違いされてしまい、いたいのいたいのとんでけの内容を、恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら王妃様たちに伝えることになるのだが。


 ……まあ、ポーションが到着するまでサリア王女の痛みが和らいだならそれでいいかな。そう思うのだった。

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