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二人でお風呂

「メイおねえちゃーん! 見て見てー!」


 サリア王女は今日も魔法訓練所でとても楽しそうに魔法を使っている。

 私が呼ばれて見てみると、拳ぐらいの大きさの水球が空中に浮かんでいた。


「もうすっかり水魔法が使えるようになりましたね、これもメイさんのおかげです」

「私としては王女様が元々素質があったからだと思いますよ」


 というのも、陛下は火魔法、王妃様は水魔法の使い手で、その二人のこどもなら魔法適性が高くてもなんらおかしくない。

 長男、長女、次女もみんな魔法適性を持ってるし。


「それでも私たちの子の中でも、あの絵のおかげで最も早く魔法を習得できたんですもの。それに、メイさんが来てからはずっと笑顔で……そこも私たちにとって嬉しいのです」


 私が来る前の王女様はどんな感じだったのか知らないけど、そんなに笑顔を見せなかったのかな?

 今の王女様を見てるととても想像ができないのだけど。


「あとは好き嫌いなくしっかり色々食べてくれればいいのですが……あの子は野菜が嫌いでして」

「あー……確かに私も小さい頃は好き嫌いが激しかったですね」


 こどもは好き嫌いがはっきりしていて、それは食べ物でも同様だ。

 前世の私はお肉が好きで、野菜はあんまり食べなかったなあ。

 今世では平民の中でも下の方だしそんなことを言ってられず、野菜もガンガン食べるようになり、その美味しさを知った。


「ママー? メイおねえちゃんと何をお話してるの?」

「ふふ、あなたの事を話してたの。最近よく笑うようになったなって」

「メイおねえちゃんのおかげー!」

「そうね、お勉強も楽しくなったもんね。メイさんに感謝しなきゃ」

「おねえちゃんありがとー!」


 サリア王女は感謝の意を伝えようとして、椅子に座っている私に抱きつき、胸に顔を埋める。

 私はそっと背中に手を回し、落ちないようにしっかり支える。


「あらあら、まるで恋人同士みたい。パパが見たら嫉妬しちゃうわよ」

「いいもーん、サリアはメイが大好きだもん」


 私はよろしくないのですが!

 陛下に嫉妬されたら国外追放とか言い渡されてもおかしくないし!

 ……でも、この無邪気なサリア王女を見ていると、素直な好意を向けられるのは悪くないなと思ってしまう。


「ねえママ、わたしママが使ってた魔法使ってみたいの。あのうぉーたー……さいくろん? っていうの」

「あらあら、憧れるのはいいけどあなたの身体で使うと命に関わるからまだダメよ。使う魔力が多すぎて、あなただと重大な魔力枯渇に陥って、最悪死んでしまうもの……そうなったらみんなが悲しむわ」


 魔力枯渇による死。

 疲れが出たり意識を失うだけでなく、そんな危険性もあるんだな魔法って……。


「サリアもメイやママと会えなくなるのはやだー……我慢する……」

「そうそう、慌てず順番にやっていきましょうね。魔法をどんどん使っていけば、魔力も比例してどんどん上がっていくから」

「はーいっ」


 そう応えると、サリア王女はまた基礎練習に打ち込み始めた。




 そして、今日の魔法訓練の終わりに、マジックポーションで魔力を最大まで回復させ、成果を披露することに。


「それじゃあ……えいっ!」


 サリア王女が手を掲げて集中すると、上空にサリア王女ぐらいの大きさの球体の水の塊が出現する。

 すごい……何日か前までは指先ぐらいの大きさが精一杯だったのに……。

 改めて成長の早さを実感する。


「凄いわサリア、魔力もだいぶ増えてきたようね」

「えへへー……」


 とその時、小さな虫がサリア王女の周りを飛び回っているのに気づいた。

 そして、その虫がサリア王女の顔の周りを飛び始め……。


「は……はくしゅんっ……!」


 サリア王女がくしゃみをすると同時に、上空の水球がバランスを失って落下を始める。


「危ないっ!」


 私は咄嗟に駆け出し、水球からサリア王女を守るように抱き寄せる。


 直後、ばしゃん、と音を立てて水球は地面に落下し、その反動で飛び散った大量の水が、私の背中を濡らす。

 サリア王女は……何とか濡れずに済んだようだ。


「メイさん、大丈夫かしら?」

「ええ、ちょっと冷たかったですけど、王女様は無事です」

「メイおねえちゃん……ごめんなさい。それからありがとう……」

「いえ、私はサリア王女のメイドですから。危ないものから守るのは当然です」


 ……とは言っても冷たいものは冷たい。

 濡れた服を着替えて大衆浴場で暖まりたいな……。


「ごめんなさいねメイさん。すぐにお風呂を用意するわ」

「お風呂……ですか?」


 この世界では大衆浴場での入浴が一般的で、個人の家にお風呂を持つのは貴族などのお金がある上位階級の人たちだけだ。

 そして、お風呂を使うのはそういう人たちだけなわけで……。


「い、いえ、大衆浴場に行けば大丈夫ですので……」

「ダメですよ、風邪をひいてしまいます。そうなったらサリアが悲しみますし……用意ならすぐできますし、入ってください」

「サリアも一緒に入っていい……?」


 王妃様に隠れながら私の方を見るサリア王女。

 おそらく自分のせいで私がずぶぬれになった責任を感じているのだろう。

 ……しかし、王族の人と一緒にお風呂はいろいろとまずい気がする。


「メイさん、私からもよろしいかしら? おそらくサリアは自分のできること……あなたと一緒に入って身体を洗ったりして、自分のしたことを償いたいのだと思うわ」

「ごめんなさい……」


 んー……私もサリア王女の暗い表情なんて見たくないし……それじゃ、お願いしようかな?


「王族の方と平民が一緒に入っても大丈夫なようでしたら、お願いしたいと思います」

「ええ、大丈夫よ。もし異論を唱えるような人がいたら……」


 王妃様はそう言いながら、手のひらから魔法で水を出す。表情もいつもの柔和な顔と違ってちょっと怖い……。

 でも、これ以上ない後ろ盾ではあるとも言える……のかなあ。


「わ、分かりました。分かりましたから魔法を納めてください」

「ええ、それではすぐに用意してきます」


 しかし、どうやってお風呂を入れるんだろう?

 水魔法の水って氷にもできるし、お湯にもできるのかな?

 そんなことを考えながら、ソシファさんが持ってきてくれたタオルで濡れた髪を拭きながらしばし待つのだった。




**********




「うわぁ……大きい……」


 案内された浴場はとても大きく、大衆浴場以上の面積があるように見える。

 ここに10分もかからずにお湯を張るなんて魔法みたい。いや、魔法かもしれないけど。


「それではごゆっくり。お風呂上りには冷たい飲み物を用意しておきますね」

「わーいっ!」


 冷たい飲み物かあ……この世界には冷蔵庫がないから、常温の飲み物ばかりだったけど……そっか、氷魔法で冷やせるんだ。

 そう考えると魔法って万能だなってなる。だからこそ自分が魔法適性がないのが悔やまれる。


「メイおねえちゃん、早く入ろっ」

「あ、お待ちください。まずは外で身体を洗ってから……」

「じゃあわたしがメイおねえちゃんの背中流すねっ。ママと一緒の時もやってて、上手って褒めてもらえるの!」


 なるほど、できることを褒めて伸ばすタイプなんだな王妃様は。

 だからサリア王女も王妃様のことが大好きなんだろうね。


「えへへー、ごーしごーしごーし……」


 サリア王女は擬音を言うタイプなんだ……かわいい。

 そして、普通の小さい子なら力いっぱいやってしまい痛くなりそうなものなんだけど、とても心地良いリズムと力加減で、すごくリラックスできる。

 王妃様が褒めるのも頷けるほどの上手さだ。


「凄いですね、本当にお上手で気持ちいいです」

「ホント!?」

「それじゃ今度は私がお返ししますね」

「はーいっ」


 そして今度は逆に私が背中を流す番。

 サリア王女が上手過ぎて、凄いプレッシャーがあるけど……。


 こどもの柔肌を傷つけないように、ゆっくりとタオルで擦る。

 すると気持ちいいのか「ふわぁ……」と声を出す王女様。

 どうやらこのぐらいの力加減がいいみたいだ。


「えへへー、メイおねえちゃんもじょうずー」

「誰かの身体を洗うのは初めてでしたけど……気に入って頂けたらよかったです」

「うんっ! 毎日一緒に入りたいぐらい!」


 毎日は流石にまずい! 王妃様と一緒にいられる時間だし、私としては家族の時間を大事にして欲しいという気持ちがある。


「でも、王妃様と一緒に入られないと、王妃様が寂しがってしまいますよ」

「あっ……じゃあ、じゃあ……3日に1回……それとも、メイおねえちゃんも一緒に入る?」


 おおっと。話が余計まずい方向に転がって行ってる。

 王妃様ならいいとおっしゃりそうだけど……流石に私の心労がまずいよ!


「ではこうしましょう。今後学園に入学されたらテストがたくさんあると思いますので……そこでいい点を取れたら……ではいかがでしょうか?」

「わかった! ぜったいにいい点を取ってメイおねえちゃんと一緒に入るもん!」


 よし、これなら勉強のやる気も出るし、一緒に入る回数も減らせるし……一石二鳥かも。


「それではそろそろ湯船に浸かりましょう」

「うん、ママが作ったお湯、すっごく気持ちいいんだよ」


 あっ、やっぱり王妃様の魔法なんだ。

 いろいろと応用ができて改めて羨ましいなあ……と思ってしまう。


 私たちは身体を洗い流すと、ゆっくりと足から入り、湯船に肩まで浸かる。

 ここで100まで数えて数字の復習もいいかな? なんて思ったり。

 でも、せっかくだからここでしかできない遊びも教えてあげようかな。


「王女様、これをご覧ください」

「タオル? ……わぁ、なんかブクブクしてる!」


 私はタオルに空気を含ませてクラゲのようにして湯船に沈め、それをぎゅっと握る。

 すると空気がタオルから漏れ出して泡になる。

 やはり初めて見るのか、凄く興味深そうにそれを注視している。


「ねえねえ、わたしにもできる?」

「ええ、もちろんですよ。やり方はですね……」


 私がやり方をレクチャーすると、サリア王女は時間を忘れてクラゲタオルでずーっと遊んでいた。

 次は水鉄砲も教えてあげようかな……?


「王女様、そろそろ身体も温まりましたので、お湯から上がりましょう?」

「うんっ、すごく楽しかった! 今度ママにも教えてあげるの!」


 こういう『好き』をどんどん他人に伝えられるのがサリア王女のいいところなんだろうな。

 ……などと考えていると、サリア王女が突然言い放つ。


「メイおねえちゃん、メイおねえちゃんはおむねおっきいけど、どうやったらおっきくなるの?」

「えっ!?」


 そういえば何だか私の方をチラチラ見てた気がしてたけど……。

 私は転生前はそれこそまな板と言ってもいいほどにまっ平らだったけど、転生してからはそれなりの大きさがある。

 この世界の平均よりも多分大きい……はず。だからこそ王女様も気になるのかな。いや、王妃様もすっごく大きいんだけど……そっちに聞いた方がいいかもしれないぐらいに。


 ここで冗談で『胸を揉んだら大きくなる』なんて迷信を話したら本気でやりそうだし、どう言ったものか……そうだ!


「ええと……食べ物が身体を作る、と聞いたことがありますね。だからいいものを食べれば大きくなるかもしれませんね」

「おねえちゃんはいつも何を食べてるの?」

「私は野菜とパンが中心ですね。お肉は値段が高くてあまり食べられなくて……」

「そっか……分かった! サリア、今度からお野菜も食べる!」




 こうして。

 家族の食事の中で野菜も食べるようになった王女様は、私の影響で食べるようになった、と言ったらしい。

 そのせいで勘違いされ、私が感謝されることになるのだが……。


 まさか、『野菜を食べたら胸が大きくなるかもしれないから』と言ったなんて、とてもじゃないけど言えないよ!?

 ……まあ、原因がなんであれ、嫌いなものも食べられるようになったのはいいこと……なのかな……?

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