ルナーリア王女との結婚
「──それでは、誓いの口付けを」
学校を設立し、教育も軌道に乗ったところで、私はルナーリア王女との結婚式を挙げる事になった。
前回ほどではないが、やはり奇異の目で見る人もいる。
しかし、それでもルナーリア王女……いや、今日からはルナと呼んだ方がいいのかな……の今まで見た事もないような幸せな笑顔はそれらを吹き飛ばしてくれた。
ルナのご両親、きょうだいたちも祝福をしてくれているしね。
そんなみんなに見守られながら、私はサリアの時と同じようにルナをお姫様抱っこして、永いキスを交わした。
時間はサリアよりは短かったのだけど、それは後からルナが『第一夫人であるサリアよりも長くするのはダメかなと思いまして……』と教えてくれた。
……そこまで気が回るなんて、本当に年齢一桁の子とは思えないほど大人びている。
「わたくしは幸せ者です、おねえさま……」
「ふふ、それならこれからはもっと幸せにしてあげないとね、ルナ」
「──! それでは、わたくしもおねえさまではなく、メイとお呼びしないとですわね。まあ、サリアも二人きりの時は『おねえちゃん』と呼んで甘えているようですけど」
「……バレてたんだ。それなら、ルナも二人きりの時は……」
「ええ、おねえさまに甘えさせてくださいませ」
サリアとも一緒に暮らすことになるから、二人きりになる時間はなかなかないかもしれないけど……大人びてるとはいえまだ一桁の子だもん、たくさん甘えさせてあげたい。
もちろん、サリアもね。
「メイー、ルナちゃーん、おめでとー!」
「あら、ありがとうございます、サリアおねえさま」
「おねえさま? サリアが?」
「ええ、これからは家族ですもの。おねえさまと呼ばせてくださいませ」
「えへへぇ……サリアがおねえちゃん……」
末っ子だったサリアは、おねえちゃんと呼ばれるのに憧れがあったのかも。
ルナにおねえさまと呼ばれてご満悦のようす。
「……あ、そうだ。あのね、わたしからメイとルナちゃんにプレゼントがあるの!」
「プレゼント、ですの?」
「うん、もらってくれる?」
「もちろんですわ! ありがとうございます、サリアおねえさま」
「それじゃあね……いっくよー!」
サリアは目を閉じて集中する。
すると、サリアの手の周りに冷気が漂い始め、どんどんそれが増幅されていく。
そして、充分に溜まったそれを、一気に私たちの頭上へと解き放つ。
「わぁ……」
普段は大人びているルナが、こどものような驚きの声をあげる。
結婚式に参加していた人たちからも、感嘆の声が漏れているようだ。
「えへへー、これはね『だいやもんどだすと』? って言うんだって。メイが教えてくれたの!」
そう、サリアの使った魔法はダイヤモンドダスト。
魔力でとても細かい氷を作り出し、それを空に放つ魔法。
たくさんの氷の粒が空中に散布され、太陽の光をキラキラと反射させる。
元いた世界では一部の地域でしか見られないものだけど……とてもキレイだと覚えていたから、サリアにこっそり教えてあげていた。
そして秘密の特訓の末に身につけ、私たちの披露宴で初のお披露目となったのだ。
「まさかまた新しい魔法を……」
「このような幻想的な光景は見た事がない! こんな魔法を作れる彼女はいったい何者なんだ……」
「……ワシの娘も彼女に嫁がせたいものじゃ……」
……サリアが『私が教えた』と大声で嬉しそうに言ったせいか、ところどころで私の話題が挙がっているようだ。
まあ、最後の一文は聞かなかったことにしておこう。
その後、たくさんの人たちと交流しながら、ルナとの結婚式は無事終わったのだった。
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「挨拶周りは疲れましたけど、すごく幸せな時間でしたわ……おねえさま」
「お疲れ様、ルナ。でも、だからこそお風呂がいつも以上に気持ちいいのよね」
「確かにそうですわね。……この後の事もありますし、いつも以上に身体を綺麗にしておかないとですわ……」
ルナの目がなんとなくハートになってるのが見える。
この後……お風呂の後……ってことは、たぶんそういうことなんだろうけど。
「あ、あの……ルナ? ちょっと聞いて欲しい事があるんだけど」
「? なんでしょうか?」
「実は、まだサリアともそういうことをしてなくて……」
「ええっ、そうなんですの!?」
それもそのはず。
王女の妻でも、さすがに未成年に手は出したりしない。
そういう事はしかるべき年齢になってから、とルナに伝える。
「ま、まあ確かにわたくしとしても、おねえさまを犯罪者にはしたくありませんし……」
「分かってくれてよかった、ルナ」
「でも、ということは……」
手を口に当てて考え込むルナ。
何を考えているんだろう。内容的にはさっきの話の関連だと思うけど。
「そういう事の初めては3人で、ということになりますの?」
「ぶっ!?」
突然の提案に吹き出してしまった。
た、確かにそういうことになるかもしれないけど、一桁の子が言うようなことではないよ!?
「ま、まあ……その……その辺はサリアと相談しましょう?」
「分かりましたわ! それまでにおねえさまに見合う美人になってみせますわ!」
「ふふ、ルナはもう既にかわいくて、それでいて美人な子だと思ってるんだけど?」
「かわいくて美人……?」
ルナの顔が真っ赤になる。
かわいいと美人は相反するような要素かもしれないけど、実際にそうなんだからしょうがない。
「もう……おねえさまはそんなだから『幼女キラー』って言われてるんですのよ」
「ええ……なにそれ……?」
確かに当時7才のサリアと結婚したし、約一年後に結婚したルナも今は8才だけど当時は7才。
アーティちゃんに至っては出逢いは6才だし……確かにそうかもしれないけど、その異名はちょっと……どうなんだろう……。
「学校でいろんな子と交流してるのを見ると、ちょっと妬けてきますし」
「ま、まあそれは先生としての義務でもあるし……」
「……ええ、もちろん知っていますわ、おねえさまは皆を幸せにしたいと思ってるって。もしその子の幸せが『おねえさまと結婚する』ということなら、わたくしは何人娶ってもいいと思いますわ」
まさかのハーレム公認とか。
サリアもそうだけど、独占欲とかないのかな……?
「……ふぅ、そろそろ身体が火照ってきましたわね……」
「それじゃ、そろそろお風呂からあがって、明日のために寝ましょう」
「ええ、初夜ができないのが残念ですけど……そうしましょう」
……その8才とは思えない語彙、どこから来てるんだろう。
ルナは小説が好きだから、恋愛小説とかそういう所からなんだろうけど……この世界にはゾーニングとかも制定されてなさそうだしなあ。
まあ、元いた世界も少女マンガでは過激な描写もあったりしたけど……学校をやってる身としては、そういう知識をいつから教えるかなんかも悩みどころだ。
そんなことを考えながらも、その日はルナをぎゅっと抱きしめてあげながら眠りにつくのだった。




