最後の模擬試験
「メイ、いってきます!」
「いいお知らせができるようにがんばりますわ!」
月日は流れ、今日は最後の模擬試験の日。
この結果によって学園でのクラス分けが決まるんだけど……前回、前々回と二人とも優秀な成績だったので個人的には大丈夫だろうと思っている。
でも、少しだけ二人が緊張しているような雰囲気はある。
そこで……。
「はい、それではこれを二人に渡しておきますね」
「メイ、これなーに?」
「これは私が作ったお守りです。二人がいつも通りの実力を発揮できますように、という想いを籠めていますので、力になってくれるはずですよ」
私が以前いた世界でも、お守りに頼ったことは多い。
ちょっとしたおまじないで、ほんの気休めではあるんだろうけど、あるとなしとじゃ違う気がするしね。
……ん? おまじない……?
そういえば私、「痛いの痛いの飛んでけ」とか、おまじないをするとそれが現実になったことがあるけど……もしかしてこれでも……?
ま、まあいっか。結局はテストの場合は実力がなければ意味のないものだし、大丈夫でしょ。
「えへへ、ありがとー!」
「これをメイおねえさまだと思って、一生大事にしますわ……」
ルナーリア王女、ちょっとそれは愛が重い気がするけど……。
「きっと一位を取ってみませす! そして、メイおねえさまとの結婚式を……」
ルナーリア王女が両手を頬に当てて、顔を赤く染める。
そう、ルナーリア王女との結婚も正式に決定したのだ。
サリアと結婚してから半年ぐらいだから早い気もするけど、ルナーリア王女が私の結婚式で見せた魔法が話題になり、縁談が増えてきたからそれらを一掃するためでもある。
……なんか、私が幼女趣味だと思われかねないけど……いや、もう既に思われてるかもしれないけど……。
それでも、ルナーリア王女が困っているなら力になってあげたいし、ルナーリア王女が私のことを想ってくれているのは実感している。さっきのお守りの件のように。
「それでは二人とも、試験開始時間が近づいてきていますので、そろそろ……」
「ねーメイ、ちょっとしゃがんでー?」
「こう……ですか? …………んっ」
私がその場にしゃがみ込むと、サリアが唇を重ねてくる。
突然のことに、心臓がトクンと跳ねてしまう。
「えへへー、行ってきますのちゅー!」
「う、羨ましいですわ! ……わたくしも早くおねえさまと結婚して、毎日してもらわないと……」
私が返す言葉を失っていると、二人は学園の方に駆け出していった。
……もう、いっつも驚かせてくれるんだから……でも、サリアのそんなところが好き……。
しばらくの間、サリアの感触が残る唇を指で触れながら、私は二人を見送ったのだった。
**********
「さて、二人の試験が終わるまで勉強しましょうか、アーティちゃん」
「は、はい! よろしくお願いします」
私は二人の見送りを終えると、お城に戻ってアーティちゃんの勉強を手伝う事にした。
今日は試験日当日なので、町の方での教師活動はお休みだからだ。
そちらの生徒たちもいい成績が残せるといいな。
「と言っても、アーティちゃんは優秀だし、もう1年生の範囲で教えられるところはないかなあ」
「で、ではお二人みたいに先の勉強でも……」
「それじゃ、まずは二年生の基礎になる九九からやっていきましょうか」
それにしてもアーティちゃんは本当に飲み込みが早い。
まだ教え始めて間もないのに、二年生の範囲まで始めてしまうなんて。
それに、他の人に説明するのも得意だし、アーティちゃんはいい教師になれるかもしれない。
「それにしてもアーティちゃんは頑張り屋だね。何か目標があるの?」
「え、えっと……」
アーティちゃんが教科書で顔を隠す。
こういう時は恥ずかしがっていることの合図なんだけど……。
「あ、もちろん言いづらかったら言わなくてもいいから」
「じ、実はわたし、メイ先生が憧れでして……」
「私が?」
「は、はい。それで、メイ先生みたいな先生になりたくて……」
なるほど、だから人に説明する力も付けてきてるんだ。
それにしても私に憧れて、かあ。
サリアもだけど、誰かの目標になれるっていうのは凄く嬉しい事だなと思う。
「今度作られる学校も、教師の人数が圧倒的に足りなくなるだろうし……もしアーティちゃんさえよければだけど、そこで教師になってみない? もちろん、まずは学園に通ってから、だけど」
「も、もちろんです! 先生の力になれるなら、それ以上に嬉しいことはないですから……」
「ありがとう、それじゃ期待してるね」
私はそう言ってアーティちゃんの頭を撫でる。
「きゅう……」
「あ、アーティちゃん!?」
すると突然顔を真っ赤にして脱力してしまう。
「せ、先生に撫でられちゃったぁ……しあわせ……」
……もしかして、私ってスキンシップ過剰なんだろうか……。
サリアがグイグイ来る子だから、意外と私もサリアに影響されているのかもしれない、そう思うのだった。
**********
「ただいまー!」
「おねえさま、今帰りましたわ」
アーティちゃんの勉強の合間に、王妃様……お義母様の手作りクッキーで休憩をしていると、二人が帰ってきた。
にこやかな表情をしているのを見るに、きっといい感じに試験を終えることができたのが伺える。
「お疲れ様、どうでしたか?」
だからこそ聞いてあげないとね。
たぶん言いたくてうずうずしてそうだし。
「かんたんだったー!」
「おねえさまのおかげでスラスラ解けましたわ! でも、最後の辺の問題が最近おねえさまに教えてもらったところでして……」
最近教えた……ってことは、もしかして三年生の内容まで出ちゃったのかな?
元いた世界でも、小学校とか中学校でも先の内容が出るぐらいの受験戦争あったけど、こちらでもそこは変わらないんだ……。
「ではあとは結果が出るまでゆっくりしましょう。久々に一緒に買い物とか……」
「いきたーい!」
「あ、あの……わたしもいいですか?」
「もちろんですわ! そうだ、アーティさんにもお揃いの指輪とかどうでしょう?」
確かにそれもいいかも。前は三人分で売り切れだったけど、再入荷してるかもしれないし。
「えっと……で、でもお二人の試験のご褒美ならわたしは……」
「サリアもアーティちゃんとお揃いにしたい!」
「わたくしもですわ。おねえさまもですよね?」
「うん、私もアーティちゃんにも一緒の指輪持っていて欲しいな」
「あ、ありがとうございます……」
ちょっと目が潤んできているアーティちゃん。
このままだと泣き出しかねないので、着替えてからみんなで行こうと提案する。
そしてサリアとルナーリア王女が着替えるのを待ち、みんな(とこっそり護衛のソシファさん)でお出かけすることに。
結果、再入荷されていた指輪をアーティちゃんにプレゼントし、サリアとルナーリア王女にはネックレスを購入。
みんな喜んでくれているので、見ているこちらも幸せな気持ちになれたのだった。
後日、試験結果が発表され、なんとサリアとルナーリア王女が満点での同着一位。
しかも、他の子たちをぶっちぎってのトップになったため、まさかの飛び級での入学になった。
確かに魔法の実技もソシファさんやお義母様の手ほどきを受けてるし、それも妥当かもしれない。
同年代の子たちと友達になれないのは残念だろうけど……二人とも結果に喜んでるしまあいいのかな……?
 




