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元・転生メイドと幼女姫

「──それでは、誓いの口付けを……」


 あれから一ヶ月が経ち、ウェディングドレスも完成して今は結婚式の真っ最中だ。

 自国内の多くの貴族や他国の王族なども招かれ、かなり大規模なことになっている。

 女の子同士ということ、私が庶民であることなど、多くの事由から奇異の目で見る人も多かったのだけど。

 陛下や王妃様、他の多くの人たちの尽力もあって、問題なく式は進行している。


「それでは失礼します、サリア」

「うん、メイ……ありがと」


 私はしゃがみこむと、純白のウェディングドレスを纏ったサリアを、お姫様抱っこの形で抱き抱える。

 そして抱えられたサリアはこちらに向き直り、両手で抱きしめるように私の頭を引き寄せ──。


「んっ……」


 多くの人々に見守られる中、私たちは唇を重ねる。

 普通ならここで唇を離して終わりなんだけど……。


 サリアは私の唇を離さない。私もサリアの唇を離さない。


 ……というのも、この世界の言い伝えで『誓いの口付けの際に、口付けをしている時間が長ければ長いほど幸せになれる』というものがあるのだ。

 ちなみに最長は3分ぐらいらしい。

 これを聞いたサリアは『いちばん! いちばんになりたい!』と言い出し、今日までに何回も何回も練習と唇を重ねてきた。


 お互いの息遣いが分かる距離で、お互いの顔を間近で見ながら。

 サリアに会ってから今までの事を思い出しながら、唇を重ね続ける。






 そして、本当に3分……いや、体感だと5分以上の永い口付けを行い、唇を離すと、会場から大歓声が沸き上がる。

 今まで奇異の目で私たちを見ていた人たちからも、だ。


「お疲れ様、二人とも」

「これだけのものを見せたんだ、みんなも二人を認めるだろう」


 どうも、この誓いの口付けの時間は『神に祝福される時間』という言い伝えもあり、長ければ長いほど、神に愛された二人であると言われている。

 つまり、歴代最長記録になった私たちは……。


 ……もしかしたら、私をこの世界に転生させてくれた神様の計らいもあったんだろうか……?


 そんなこんなで、私とサリアは神様だけでなく、多くの人からも祝福されることになり、無事に結婚式を終えることができた。

 これで姫とメイドという関係は終わり、対等な関係としてサリアと一緒に生きていくことになったのだった。



 ……ちなみに私のブーケトスは、見事にルナーリア王女がキャッチすることになった。

 魔法の練習を重ねて「燃えない炎」を使えるようになり、それを使って身長差を克服したのだが……努力というか執念というか……本当にすごい。

 もし『ブーケトスを受け取った女性が次の花嫁になる』というのが現実になると、次はルナーリア王女が結婚することになるのだろうか。

 受け取った瞬間に「絶対におねえさまと結婚しますわ!」って言って興奮してたけど……どうなることやら。




**********




「お疲れ様、二人とも。冷たい飲み物を持ってきたわ」

「あ、ありがとうございます……挨拶周りだけで凄く疲れました……」

「早くお風呂に入ってねたーい……」


 今後のためということもあり、王妃様に連れられて貴族の人たちへの挨拶もしていたんだけど、数が数なだけに滅茶苦茶疲れ果ててしまった。

 王妃様から渡された冷たい飲み物で喉を潤わせて、なんとか一息をつくことができた。


「あらあら、早く寝たいだなんて……。メイさん、初夜は優しくしてあげてね?」

「いやいやいやいや、さすがに成人までは手は出しませんよ!?」

「うふふ、冗談よ」


 王妃様の冗談はどこまで冗談か分からなくなる時があるので勘弁して欲しい。


「ねーねー、しょやってなーにー?」


 ほらサリアが食いついてきた!


「ふふ、それはサリアが成人した時に分かるわ」

「そうなのー? ざんねーん」


 よ、よかった……疲れているということもあるんだろうけど、詳しくは聞かれなかった……。


「あ、おねえさま! ブーケありがとうございます! これでわたくしもおねえさまの妻に……」

「……ルナーリア王女、話が飛躍し過ぎてますよ?」

「ふふ、ルナちゃんが興奮するのも分かるけど、今日の主役はこの二人だから、グイグイくるのはルナちゃんの結婚式の時にね」

「そ、そうですわね……失礼しました。で、ですがその……最後のはわたくしとおねえさまの結婚も許して頂けると取ってよろしいのでしょうか……?」


 ルナーリア王女が頬を染めながら私の方を見る。

 なんか私不在で話が進んでるんですけど!


「私とヴィルトは問題ないと思ってるから、後はメイさんとサリア次第よ」


 と、王妃様がこちらをちらりと見る。

 いいのかな、王妃様がそんな簡単に許可出しちゃって。


「おねえちゃん、どういうこと?」

「ええと……ルナーリア王女も私たちみたいに結婚して、一緒に暮らしたいということね」

「サリアはいーよ! サリアもルナちゃんのこと好き!」


 ああ、完全に外堀が埋まった……。

 しかしルナーリア王女のご両親はいいのだろうか、元とはいえ普通の町娘に大事な娘が嫁ぐなんて。


「ルナーリア王女、ご両親には許可は頂いていますか?」

「ええ、もちろんですわ! 『お前の好きなように生きなさい』と言われてますわ」


 な、なるほど……これは断った方が両国間の印象が悪くなるよね絶対に。


「……分かりました。ですが、さすがに結婚式を挙げてすぐに、というわけにはいきませんので……」

「本当ですの!? では、来年でも再来年でも……わたくし、お待ちしておりますわ! それではこのことをお父様たちにご報告に上がりますわ!」


 ルナーリア王女はそう言い残すと、興奮した様子で走り去っていった。



「……今、嵐のような子がいたんだが……」


 少し遅れて陛下がこちらにやってくる。

 おそらくルナーリア王女のことだろうけど。


「あら、あなた。実は──」

「……なるほど、そういうことか。しかしメイも大変だな、こどもに大人気で」

「私としては普通に生活しているつもりなのですが……」


 いったい何なんだろう。サリアと会う前はそんなこともなかったのに。

 神様のいたずらだろうか? ……まさかね。


「まあいい。今日は疲れただろうし、しばらくはサリアと共に休暇を楽しむといい」

「よろしいのですか?」

「ああ。慣れない挨拶周りで精神的にも疲れているだろう? 今日のために無理をして作法も学んだわけだし、肉体的にも疲れているはずだ」

「分かりました。お言葉に甘えさせて頂きます」


 作法については王妃様主体で進められたので、陛下には作法の勉強の話はしていないはずなんだけど……ちゃんとそういう所もチェックしてるんだ。

 普段の政務も忙しいはずなのに……それに、今日の結婚式に出す料理のためにダンジョンにも潜っていたのに……どんな体力してるんだろう。


 ちなみに出された料理はドラゴンステーキ。陛下は今日のためだけにダンジョン最下層付近までドラゴンの討伐に行っていたのだ。


「……さて、二人とも。私たちは結婚の際にこどもたちに聞いていることがあるの。あなたたちは今後、どうなりたいのかしら?」


 抱負、ってことなのかな。

 私は……と考えていたら、サリアが先に口を開く。


「サリア、おねえちゃんになりたい!」


 サリアのその言葉に顔を見合わせる陛下と王妃様。

 いや、たぶん言葉通りの意味ではないと思うんだけど。


「ええと……教師になりたい、ということ?」


 私はサリアに問いかける。

 ここで言う『おねえちゃん』は、姉になりたいではなく『メイおねえちゃん』になりたいということだろうと解釈した。


「うん!」


 よかった、合ってた。


「サリアね、おねえちゃんのおかげでいろいろできるようになったの。だから、今度はサリアが誰かに同じようにしてあげたいの」

「……素晴らしいわサリア。あなたは『できない』ことを知っているから、きっといい教師になれるわ」


 そう、サリアは勉強ができない子だった。

 だからこそ、できないという苦しみが分かるし、他人の目線にも立てる人になれるだろう。


 それにしても『わたしみたいになりたい』かあ。

 こうやって、私の行動で誰かに影響を与えられたんだって分かると、凄く感慨深い。

 ……ちょっと泣きそうになってきちゃった。


「……あっ、あの……すみません」


 感慨にひたっていると、突然小さな女の子から声をかけられる。

 確かさっき挨拶周りに行った時に見たような……。

 両親の後ろに隠れてた、気の弱そうな子だったはず。


「め、メイ様は教師とお伺いしたのですが……その、わ……わたしもメイ様に教えて頂くことは可能でしょうか……?」

「あなたは確か……リーン侯爵のところの……。メイさん、この子はサリアよりも1つ小さい子だから、ちょうどいいのではないかしら?」


 話を聞くと、この子は家庭教師を雇ってはいるものの思うように成績が上がらず、サリアの噂を聞いて私に興味を持ってくれたそうだ。

 気の弱い子なのに勇気を出して声をかけてくれたんだもの、応えてあげなきゃ。


「分かりました、私とサリアの二人での授業になりますが、よろしいでしょうか?」

「……はっ、はい……! よろしくお願いします、メイ先生!」


 どうやら、結婚してもまだまだ私の教師としての生活は続いていくみたい。

 実際に他にできることはそれほどないだろうし、サリアみたいにいい影響を与えられるのならこれからもずっと続けていきたいなと、そう思うのだった。

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