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メイドは魔法を使いたい

「ふああ……あっ、失礼しました!」


 私がサリア王女のメイドになった次の日。

 元々教師をしていたところへ馬車で向かう途中、大あくびをしてしまっていた。


「あらあら、サリアの相手でお疲れですね」

「い、いえ……そうではなくてですね……勉強で使うものを自作していたんです」

「ああ、そういえばサリアの家庭教師に渡していた……」

「はい、それです」


 私は昨日、サリア王女を寝かしつけると自室へと戻り、作業をしていた。

 ……さすがに初日から一緒に寝るなんて、とてもできはしないもん。

 作っていたのは昨日のクッキーの代わりに授業で使う、おやつの絵を描いた紙。

 私が小学生の時はおはじきとか使ってたけど、この世界にはないから自作せざるを得ないのだ。


「あれで楽しみながら勉強ができるといいのですが……」

「ふふ、勉強はつまらなくて退屈なものだとばかり思っていましたが、メイさんの手にかかれば楽しいものへと変わってしまうのですね」

「どんなものでも楽しみながらやった方が吸収も早いと思っているんです」


 実際に前の世界でも楽しめるものの方が覚えるのが比較的早く、テストの点数もよかった。

 私はテストの点数が上がるのが楽しくて勉強してたけど、それ以外にも楽しめるものがあるほどやはり理解度が高くなる。

 武将を題材にしたマンガのおかげで戦国時代のテストでは満点も取れたっけ。


 などと考えていると馬車はいつもの場所に到着し、私は王妃様にお礼を言ってみんなの待つ部屋へと向かったのだった。




**********




「サリア王女、ただいま帰りました」

「メイおねえちゃんだーっ!」


 私がサリア王女の勉強部屋に入って声をかけると、王女が一直線に私に向かってかけてくる。

 私は王女を受け止めると、家庭教師の人にたずねる。


「アレの成果はいかがでしたか?」

「ええ、おかげさまでサリア王女は楽しく勉強されていました。まさかこれほどまでに効果があるとは……」


 どうやら作戦は成功したみたいで、普段よりも集中し、かつ楽しみながら勉強ができたようだ。

 これなら私がいない間も安心かな。


「あのね、メイおねえちゃん」

「どうされました?」

「今日はね、魔法のお勉強もあるの! サリアが7才になったから教えてもらえるようになったの!」


 魔法。

 前の世界にいた時は憧れの対象だったけど、実際に存在する世界に転生したのだから私も使いたい!

 でも魔法を習うにはかなりのお金が必要で、更に誰もが使えるものではないらしい。

 もし高額な受講料を払って使えないとなったら……と思うと、生活費のこともあるしどうしても踏み切れなかった。


「私もご同席させて頂いてもよろしいでしょうか? 魔法に興味がありまして……」

「うんっ! メイおねえちゃんと一緒なの楽しみ!」


 横で聞いてたら私にも魔法が使えるようにならないかなと、楽しみになってきちゃった。

 でもその前に……。


「お勉強をしっかり終わらせてからにしましょうね」

「はーい、がんばるっ!」


 その後、時間がくるまで私は家庭教師の先生と2人の指導体制でサリア王女に算術を教えることになる。

 作ったものの効果は抜群らしく、途中で落書きをするなど家庭教師の先生を困らせることもなくなっていたのを実際に確認でき、作った努力は無駄にならなかったようだ。

 更にこの後に楽しみが控えていることもあり、集中して取り組んで今日の分を早く終わらせたいという意気込みまで感じられた。

 そして……。


「サリア、そろそろ魔法訓練場に行きましょう。今日は私と宮廷魔術師長の2人で指導するわ」

「ママ! はーいっ!」


 サリア王女は椅子から飛び降り、急いで王妃様の元へと駆け寄っていく。

 それほどまでに楽しみだったんだろうな。


「メイおねえちゃんも早く早くっ!」

「分かりました、それでは参りましょう」


 こうして私たちは魔法訓練場へと向かって行った。




**********




「ソシファ、今日は娘をよろしく頼むわね」

「お任せください。一日でも早く王女様が魔法を習得されるよう努めます」


 腰まで届くほど長い黒髪の持ち主であるこの人が、宮廷魔術師長のソシファさんだ。

 見た目からして歳はおそらく私と5つも違わないだろうに、そこまでのキャリアを積めるなんて相当優秀な人なんだろう。


「ママ、早く早くっ」


 サリア王女は魔法へのワクワクが我慢できないのか、その場でぴょんぴょん小さく飛んで早くやりたいことをアピールする。

 王女様とはいえまだ小さいこどもなんだなと分かり、かわいらしいなとほっこりしてしまう。


「サリア、これから扱う魔法は危険もあるものよ。ちゃんとソシファの言う事をしっかり聞いてあげてね」

「はーい」

「それじゃソシファ、早速属性の鑑定を行いましょう」

「分かりました。それでは王女、私の手を握ってください」

「こうー?」


 サリア王女はソシファさんの手をぎゅっと握り、ソシファさんは握られた手をもう片方の手で覆い、包み込む。


「それでは王女様、手に意識を集中させてください」

「ん……んー…………こう?」

「……なるほど、王女様の適正は水属性ですね」

「水……私と一緒ですね、サリア」

「ママと一緒? やったーっ!」


 どうやって属性を判別したのか皆目見当がつかないけど、どうやらサリア王女の属性は、母親であるスィーズ王妃と同じ水属性のようだ。

 魔法の属性も遺伝したりするのかな? 確か王子は陛下と同じ火属性だったはずだし。


「ね、ね、メイおねえちゃんもやってみて!」

「わ、私もですか? しかし私は受講料を払えるほどのお金を持ち合わせておりませんので……」

「費用は要らないから大丈夫よメイさん。それに、女性なら身を守れる手段が多いほど安心でしょう?」

「よ、よろしいのですか? それではお言葉に甘えさせて頂きます」


 まさか本当に私にも魔法を教えてもらえるなんて。

 内心すごく興奮してたけど、ここは冷静に振るわまなきゃ。

 私はサリア王女と同じようにソシファさんの手を取り、意識を集中する。


「……あら……?」


 ソシファさんの思いがけない反応にドキッとする。

 これってもしかして……。


「火、土、水、風……どの属性にも適正はないみたいですね……」


 そ、そんなぁ……。

 確かに誰でも使えるわけではないんだけど、まさか自分がそうだったなんて……。

 転生前が魔法とは縁のない世界だったのも関係するのかな。


「メイおねえちゃん、メイおねえちゃん、ちょっと座って?」

「えっと……こ、こうですか?」

「よしよし……」


 私がサリア王女の前にしゃがみ込むと、サリア王女はまだまだ小さなかわいらしい手で私の頭をゆっくりと撫でてくれる。

 もしかして慰めてくれてるのかな……?

 周りに王妃様や宮廷魔術師長がいると思うと凄く恥ずかしいのはあるけど、サリア王女が気を遣ってくれてるんだなと思うと嬉しい。


「ありがとうございます、おかげさまでもう大丈夫ですので、引き続き魔法の授業を続けてください」

「うん、メイおねえちゃんの分までがんばる!」


 やっぱりすごくいい子なんだな……私の分まで、かぁ。


「それでは魔法の使い方を説明致します。魔法はこの空気中に漂っている『魔素』というものを魔力で変質させて使います。例えば……」


 ソシファさんは手を前方に掲げると、50メートルほど離れている的に指を向ける。

 すると指先に小さな氷の矢が生成され、それが一直線に的に向かって放たれ、ど真ん中に突き刺さる。


「すごーいっ!」

「これは水魔法の応用で水を氷に変換し、矢の形にして撃ちだす『アイスアロー』というものです。弓が無くても遠距離攻撃ができるため、よく使われます」

「練習したらわたしもできるようになる?」

「はい、最初は魔素の変質を習得するまで時間はかかりますが、慣れればきっとすぐに同じことができるでしょう」

「よーし……!」


 すごくやる気なのがサリア王女の顔を見るだけで分かる。

 たぶん、部屋で勉強している時よりも数段やる気が漲っているだろう。

 初めての事って不安もあるけど、すごく楽しみだもんね。


「それでは初歩の初歩……水を作り出すところから始めましょう」

「はーいっ!」

「魔法にはイメージがとても重要です。まずは水を手のひらに出すイメージで……」


 と、その後ずっとサリア王女は水を出す訓練をしていたが、1時間ほど経ってもできないままだ。

 やっぱりイメージするのって難しいんだな……。


「うー……」


 すぐに自分にもできるようになると思っていたのか、サリア王女はとても悔しそうだ。


「ふえーん、メイおねえちゃーん……」


 サリア王女が私に駆け寄ってくる。

 あれ? どこか足元がおぼつかないような……。


「危ない!」

「ひゃっ」


 私は咄嗟にかがんでサリア王女を抱き止める。

 元気そのものだったサリア王女なのに、どうして突然……?


「サリア、魔力が枯渇してるのかもしれないわね。マジックポーションを飲みなさい」

「魔力枯渇……ですか?」

「ええ、魔力とは人の内にあるのだけど……魔法を使おうとするたびに消費され、それが枯渇すると疲れが出たり、酷いと意識を失ったりするの。ちょっとがんばり過ぎたわね、サリア」


 王妃様がサリア王女を抱き抱え、マジックポーションの瓶を口に付ける。

 王女がこくこくとそれを飲み、王妃様がもう大丈夫と地面に降ろすともう足取りはすっかり元通りだ。


「サリア、誰もが最初からうまく行くとは限らないわ。私でも習得までに一週間、ソシファでもそれ以上かかるぐらいなの」

「そうなの?」

「ええ、だから焦らずゆっくりと、ね? メイさんにも心配をかけたくないでしょう?」


 王妃様のその言葉にはっとし、サリア王女は私の方をじっと見る。


「メイおねえちゃん……ごめんなさい」

「いえ、失敗は誰にでもありますし、もし私も魔法が使えるとなったら大喜びで練習し過ぎて同じことになると思いますから……失敗を次に活かしましょう?」

「うんっ!」


 よかった、サリア王女に笑顔が戻ってくれた。

 やっぱりこどもは笑顔でいてくれるのが嬉しいな。


「それでは最後に……極めるとどうなるかを見せてあげましょう」


 極めると……って、王妃様が魔法を使うってことかな?

 王妃様が手を掲げて集中する。

 すると、手の周りに水が集まりだし……。


「ウォーターサイクロン!」


 そう唱えると、洪水ともいえるぐらいの水が渦を巻きながら的に向かって、新幹線のような速度で放たれる。

 それは的どころか後方の山まで抉り取るほどの威力だった。


「すごーい……これ、サリアも使えるようになる?!」

「ええ、自慢すべき私の娘ですもの。すぐに使えるようになるわ」


 そんな親子の会話をよそに、私はちょっと落ち込んでいた。


 こんなすごい魔法……私も使ってみたかったな……。

 転生したのにスキルとかの特典もないし……神様のいじわる……。


 そんなことを考えながらも、自分は自分のできることをやろう。

 サリア王女の魔法の練習も私ができる範囲でお手伝いして、早く魔法が使えるようになって笑顔になって欲しい、そう思うのだった。

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