告白
「――実は私、転生者なんです」
サリアの家族が集まる朝食の時間に、私はそう告白した。
この先、転生者であることがバレた際に、後から皆に不利益をもたらさないように。
「……ああ、何となく予想はしていた」
「……えっ?」
予想外の答えに、陛下の前なのに変な声が出てしまう。
「メイさん、私たちがサリアの教師を依頼する人の身辺調査を行わないと思ったかしら?」
「いえ……この事は両親にも話していなかったので……」
「ふふ、『昏倒した時を境に急に賢くなった』と、周りの人が証言していましたよ」
急に、かあ。
私は本来のメイのそれまで……7才までの記憶も持ち合わせていた。
だから、転生後も元のメイのように振る舞い、両親に心配をかけないようにしたのだけど。
……その後、『両親を助けるために独学で勉強を始めた』という形で、この世界でも使える算術……いわゆる算数や数学の勉強をしたことにして、教師を始めたのだ。
バレないようにしてたつもりだったんだけどね……。
「まあ、俺としてはメイが異世界人だろうが何だろうが、サリアとの関係を切るつもりはない」
「ええ、メイさんはメイさんです。サリアのことを想って行動してくれる方ですもの」
「あ、ありがとうございます……」
本当のことを話したら拒絶される覚悟までしてきたのに。
それなのに暖かく迎えてくれる陛下たちに、思わず泣きだしそうになってしまう。
「……ねーねー、お話むずかしくてサリアわかんない……てんせーしゃ、ってなにー?」
私たちの話を黙って聞いていたサリアが口を開く。
そうだよね、確かに難しいかも。
「ええと……すごく遠くから来た人のことです」
「そうなの? どのくらい遠いの?」
「そうですね……夜空に星が見えますよね。あれのどれか一つぐらい遠いです」
「すごーい!」
その話を聞いて、サリアの目が夜空に輝く星のようにキラキラする。
「メイ、そんな遠いところからサリアに会いに来てくれたんだ! すごーいっ!」
サリアの言葉にハッとする。
異世界に転生する際、何も説明されずに放り出されてしまい、私が持っているスキルや魔法も何か分からなかった。
なんで神様はそんなことをしたんだろうと思ってたけど……。
もしかしたら、サリアに出逢うためだったのかもしれない。
他人に魔力を譲渡できる魔法……それともスキル? や、痛みをなくす魔法を持っていると知っていたら、私は教師を始めてなかったと思う。
もしそうだったらサリアと知り合えていなかっただろうし、今こんな幸せになっていなかっただろう。
もちろん王女であるサリアと一緒だから、攫われるという危険なこともあったけど……それでもその事件が無ければサリアと結ばれることはなかったはず。
「メイ? なんで泣いてるの?」
「えっ……?」
サリアに指摘されて初めて、涙が頬を伝っていることに気付いた。
「……いえ、転生者だったから、こうやってサリアと会えたんだなって改めて思うと……嬉しくなっちゃって」
「うん、サリアも嬉しい!」
「……さ、メイさん。懸念は解決できたかしら?」
「はい、ありがとうございます……」
こうして、私が抱えていた問題……と思っていたものはあっけなく解決したのだった。
**********
「うぉーたーあろー!」
サリアの放った水の矢は、綺麗に的のど真ん中に命中した。
最近のサリアの魔法の上達には目を見張るものがある。
「うぅ……まさかサリアさんに抜かされるとは思いませんでしたわ……」
「えへへー」
「一度大きな魔法を使ったからか、魔法への慣れが一気に進んだ感じでしょうか……」
ソシファさんが言う大きな魔法とは、あの事件の時に使ったウォーターサイクロンのことだろう。
ちなみにソシファさんは事件の時に強力な睡眠系の道具で眠らされて、数日間目を覚まさなかった。
目を覚ました後も、後遺症なのか数日身体がうまく動かせなかったようだが、今は調子を取り戻しているみたいで一安心だ。
……実はソシファさんが寝ている間に、こっそりと体調の良くなるおまじないをしたんだけど……もしかしてそれが効いたりしたのだろうか?
だとしたら、前世でおまじないだと教えられたものがこの世界では魔法として使えるのかも?
「では、わたくしも大きな魔法を使えば……」
「ダメですよルナーリア王女。サリアみたいに倒れてしまいますから」
「でも、もしわたくしが倒れたらサリアさんみたいに口移しで……」
「……しませんからね?」
結婚前だというのに、ルナーリア王女とまでキスをして、そういう関係になったらまずいし。
……いや、陛下や王妃様はルナーリア王女のこういう発言に『別に構わないぞ』みたいなスタンスなんだけど……流石に現代日本に生きた私からしたらちょっと……ね。
「サリア、メイさん、ちょっとお時間いいかしら?」
そんな会話をしていると、王妃様から声がかかる。
いったい何だろう?
「スィーズ様、わたくしもご一緒してよろしいでしょうか?」
「ええ、ルナちゃんも見ておくと今後のためになると思うわ」
ルナーリア王女の今後のためになる……なんだろう?
私たちは王妃様に案内され、とある部屋に入った。
そしてそこには……。
「うわーっ、きれいー!」
「凄いですわ……」
驚き声を上げる二人に対して、私は驚きのあまりに言葉が出なくなってしまった。
「ふふ、どう? サリアとメイさんのためのウェディングドレス……の試作品よ。二人とも、ここから更にこうして欲しいなどの要望はあるかしら?」
「きれいでかわいい! サリアこれ着たい!」
確かにサリアの着るウェディングドレスは、サリアの無垢な心のように真っ白く、ところどころにフリルをあしらってかわいさも忘れていない。
小さな花を模したアクセサリーやリボンも要所要所に配置されていて、更にかわいさを引き立てている。
「おねえさまのは、大人っぽい雰囲気ですわね……ああ、これを着たおねえさまにお姫様抱っこされたいですわ……」
「あー、ずるいー! サリアも抱っこー!」
一方、私のドレスは少し青みがかった落ち着いた雰囲気で、花のアクセサリーはワンポイントでコンパクトにまとまっている。
これを着てサリアと並んだら対照的な印象になるのかな。
……抱っこの話はスルーしておこう。
「問題ないようならこのまま仕上げてもらうわね。最終的にどうなるかは当日を楽しみにしていてもらえると嬉しいわ」
「本来なら私が自分でお金を出して用意すべきなのですが……よろしいのでしょうか?」
実際、サリアはまだ働いていない……というか勉強の途中だけど、私は働いているし貯金もある程度ある。
ここまでしてもらうのは気が引けてしまう。
「いいのよ、サリアの命を助けてくれたんだもの。これでもまだ返しきれないぐらいよ」
「……分かりました。ウェディングドレス、ありがたく受け取らせて頂きます」
「さ、それじゃ一度試着してみましょ。それを画家に描いてもらうの!」
「えっ、このことはまだ今のところは秘密では……?」
「ちょうどさっき各国に手紙を出したところよ。大丈夫大丈夫」
……本当に大丈夫かなあと思いながらも、私もウェディングドレスを着たサリアが見たいので反論はしないことにする。
「おねえさま。わたくし、絶対におねえさまからのブーケを受け取ります! そしてゆくゆくはおねえさまと……ふふふ……」
へー、この世界にもブーケとかそういうのあるんだ。
転生者は極稀にいるみたいだし、その人たちが伝えたのかも。
……あれ? この『花嫁が投げたブーケを受け取った者は次の花嫁になる』って、ある意味おまじないだよね?
……ま、いっか。気にしないでおこう。
こうして、着々と結婚に向けての準備が進んでいくのだった。