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より親密に

「ううん……あ、あれ……?」


 今日も朝の陽射しで目が覚める。

 そして違和感があることに気付いた。


 そう、毎朝恒例のサリアのキスでの目覚めでなく、普通に目覚めたことだ。

 それに気付いてからしばらくしても、サリアからのキスはない。

 もしかして、まだ寝ているんだろうか……?


「あ……」


 横を見ると、まだ寝息を立てているサリアが目に入った。

 そういえば、昨日は魔法の練習をいつも以上にがんばってたっけ。

 だからまだおねむなのかもしれない。

 でも、朝ごはんもあるからそろそろ起こさないと……。


「サリア、起きて」


 私はサリアの身体をゆすり、目覚めを促す。

 だが、サリアの目はまだ開かない。……というか、もしかして狸寝入り……?


「もう、お寝坊さんなんだから……」


 わざとサリアの耳に入るように声を出して、そっと顔を近づける。


「サリア、まだ起きないなら……」


 唇が触れる距離まで顔を近づけ、再びサリアの名前を呼んでみる。

 それでもやはり起きる素振りを見せない。

 こうなったら……強硬手段しかないよね。


「んっ……」


 私はサリアの唇に自分の唇を重ねる。

 いつもサリアがしてくれる、いわゆる「おはようのちゅー」をこちらからしてあげれば、きっと起きるだろう。


 でも、それだけじゃ面白くないし……と、いつもしているキスよりも触れ合っている時間を長めにする。

 ちょっと息苦しくなっちゃうかもしれないけど……サリアが悪いんだからね?


「んー……」


 サリアの目が少しずつ開く。

 ようやく起きてくれた、と一安心して唇を離すと……。


「んっ!?」


 急にサリアががばっと起き上がり、私に唇を重ねてくる。

 突然の出来事にバランスを失い、サリアに押し倒される形でキスをされてしまう。


 しばらく唇を重ねた後、サリアの方から顔を離し、小悪魔のような微笑みを浮かべる。


「お、起きてたの……?」

「えへへー……おねえちゃん、驚いた?」

「う、うん……すっごく……」


 まだ突然重ねられたサリアの唇の感触が残っている私の唇を、そっと指で触れる。

 うぅ……お寝坊さんを起こすつもりだったのに、逆にしっかり目を覚まさせられちゃった。

 ほんと、小さい子の積極性には敵わないや。


「ほ、ほら、そろそろ朝ごはんだから着替えないと……」


 慌てている心を見透かされたくないから、私はサリアに着替えを促す。


「うん!」

「今日は全部自分でできるかな?」

「が、がんばるもん!」


 そう、サリアはまだまだ自分でボタンを留めるのが苦手。

 貴族の着る服は装飾も多いし、基本的にはメイドが着つけをするのだけど。

 サリアはおねえさんになりたいのか、最近色々なことを自分でやりたいと言い出したのだ。



 ……結局、いくつかできないことがあり、私が手伝うことになったのだけど、それでも以前よりも上手になってきている。

 この調子ならすぐにできるようになるかも。


「それじゃ、朝ごはんに行こう?」

「うんっ!」


 こうしてまた一日が始まるのだった。




**********




「け、結婚ですか!?」

「ええ、もう二人の仲ならいいかと思ってね」


 朝ごはんの最中、とんでもないことを王妃様が言い始めた。

 私とサリアの結婚を考えている、と。


「で、ですが……まだサリア王女は成人の儀を行っていませんし……」

「あら、成人でなくても結婚はできるのよ。確かに成人後に結婚する人ばかりなのだけど」


 し、知らなかった……。

 でもいいのかな……サリアはまだ7才なんだけど。諸国からの反発とか……。


「それに早く相手を決めることが重要でもあるのよ。ね、あなた」

「うむ……最近、サリアが学業でも魔法でも優秀な事を耳にした貴族が多くてな……縁談が多く舞い込んできているのだ」


 政略結婚ってやつかな……。この国の王女様ってだけじゃなく、優秀なサリアと婚姻を結べば今後いろいろ有利だと思っているんだろう。


「そのような輩を黙らせたくてな。早ければ早い方がいいだろう」

「それは……婚約ではダメなんです?」

「ええ、もし婚約発表であれば反対をする者も多いでしょう? サリアは成人前で、メイは同性なのだから」


 確かに婚約でなくて結婚なら、周りの反対意見もシャットアウトできるし……完全になくなるわけではないと思うけど、それでも婚約から結婚までの間に来る量に比べたら減るだろう。


「まあ、反対意見が出ようものなら俺がねじ伏せるが……」

「……俺、ですか?」

「む……すまない、素が出ていたようだ」

「ごめんなさいねメイさん。この人、威厳を出したいからって普段は口調を変えてるんだけど、気が昂ると素が出ちゃうの」


 なるほど、サリアと私がさらわれた時も「俺」って言ってたけど、そういうことだったんだ。


「素の陛下も素敵だと思いますよ。あの時、とても頼もしかったですから」

「そ、そうか……そう言ってもらえるとありがたい」

「ヴィルト、メイさんも家族になるんですもの。メイさんの前でも素を出してもいいと思うわ」

「……ではそうしようか。いやー、あの喋り方だと息苦しくてな」


 急にフランクな喋り方になる陛下。

 でもさっぱりとした印象で、元々は冒険者だというのがよく分かる。


「さて、話を戻すか。サリアとメイの結婚のことだが……」

「サリアはメイさんと結婚したい?」

「うんっ! ぜったい、ぜーったいおねえちゃんのお嫁さんになるの!」

「……ということだから、あとはメイさんの意志次第よ」


 私次第、か。

 そんなの、もう決まっている。


「私もサリア……王女と結婚したいと思っています。いつも笑顔で、元気を分けてくださる……大切な人ですから」

「……だって。よかったわね、サリア」

「えへへぇ……」


 以前、ずっとサリア王女の傍にいると宣言したんだもの。

 その形がメイドでも、夫婦でも変わりはない。

 ……いや、この場合は同性だから婦婦というか婦々というか……まあいいや。


「それなら早く結婚用のドレスを仕立てないとな」

「ええ、メイさんも王族に名を連ねることになるから、作法の勉強も必要になるから……忙しくなりそうね」

「が、がんばります」

「おねえちゃん、一緒にがんばろー!」


 そっか、サリアもまだまだこれから学ぶことが多いんだ。

 一人だと不安だったけど、サリアと一緒なら何でもがんばろうと思える。

 ……これも、サリアを好きになったから、なのかな。


「そうね、これから先ずっと隣で一緒に、がんばっていこうね、サリア」

「うんっ! おねえちゃんと一緒ならサリアすっごくがんばれるもん!」

「それなら……」

「?」


 サリアがクエスチョンマークを顔に浮かべている。

 そんなちょっと困った顔もかわいい。


「……サリアも私の事、『おねえちゃん』じゃなくて、名前で呼んで欲しいな」

「わかったの! メイおねえちゃ……じゃなくて、メイ……」


 ずっとおねえちゃんと呼んでたからか、呼び捨てまでには時間がかかりそうだけど。

 結婚してもおねえちゃん呼びだと、周りの人に不思議がられそうだし、がんばってもらわなきゃ。


「あらあら、それならメイさんには私をお義母さんって呼んでもらわなきゃ」

「ああ、それなら俺もお義父さんだな」

「が、がんばります」


 ……ちょっと墓穴を掘ったような気もするけど。

 今まで以上に親密になれた、そんな気持ちになった朝の始まりだった。

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