メイは魔法使い!
「ううん……」
窓から陽射しが差し込み、もう朝になったんだと実感させられる。
でも、慣れない魔力を大量に使ったせいか、まだ少しだるくて身体が起きたがらない。
あれからもう2日も経っているのに。
それでも目を少しずつ開けると、天井がうっすらと見える。
しかし次の瞬間、目の前に何かが入り込み、天井を隠す。
そして……。
「んんっ……!?」
私の唇に柔らかいものが触れる。
この感触、どこかで……。
……そうだ、この感触は……!
「さ、サリア王女!?」
「えへへー、おねえちゃんお寝坊さんだー」
急激に目が覚めて慌てて飛び起きると、そこにはサリア王女の姿があった。
……ということは、さっきの感触って……。
「ねーねー、サリアも魔法が使えた? 寝てる人にちゅーすると起こせる魔法!」
「は、はい……」
「えへへ……それじゃ、明日からも魔法、使ってあげるね!」
私はたぶん耳まで顔を真っ赤にしてサリア王女に答えた。
そりゃあ……キスされたら起きるに決まってるもん……。
それにしても明日からもかあ……これ、先に起きてたらサリア王女が悲しんでしまうだろうか?
それとも、その時は私がサリア王女に……?
などと考えていると、更に顔が紅潮していくような気がした。
「サリア、メイさん、起きているかしら?」
「あ、はい。どうぞお入りください」
私の顔は真っ赤なままだけど、流石に王妃様の入室を断るわけにもいかない。
ベッドから身体を起こし、王妃様の入室に備える。
「メイさん、調子はどうかしら?」
「ええ、まだ少し気だるい感じはありますが、大丈夫です」
「それなら、今日は少し実験に付き合ってもらえるかしら? メイさんの魔法についてなんですけど……」
「分かりました、私にできることなら」
私の魔法、それは『他者に魔力を分け与える』魔法。
この魔法のおかげでサリア王女を助けることができたのだ。
「そう言ってもらえると助かるわ。お昼ご飯の後に魔法訓練場に来てもらえる?」
「分かりました、それまではサリア王女の勉強を見ておきます」
「ええ、お願いするわ……あいたた……」
王妃様が腰を抑えながら痛みを訴える。
「どうされましたか?」
「いえ、この前の戦闘で張り切り過ぎちゃって……腰を痛めたみたいなの」
「ポーションで治療はできないんです?」
「ええ、怪我には効くのだけど、内部の痛みにはあまり効果がないの」
そっか、ポーションといえども万能ではないんだな。
腰痛は辛いだろうから何とかしてあげたいけど……。
「おねえちゃん、あれ使ってあげて?」
「あれ……ですか?」
「うん! いたいのいたいのとんでけ!」
「あれはおまじないなんですけど……」と言いたいところだけど、サリア王女が凄く澄み切った目で私を見るので、断れなかった。
王妃様も口裏を合わせて、治ったフリをしてくれるんだろうけど……。
「そ、それじゃいきますね……い、いたいのいたいのとんでけー……」
私は王妃様の腰に手を添え、おまじないをかける。
……うう、結構恥ずかしい……。
「あ……あらあらあら……?」
あれ? なんだか思ってたような反応ではないような……。
「め、メイさん……何をしたのかしら……?」
「え、えっと……どういうことです?」
「本当に、腰の痛みが引いたのだけど……」
「え、ええっ!?」
嘘でしょ!?
だって、これはただのおまじない……。
「おねえちゃん、サリアの時も痛いの取ってくれたもんね」
「え? え?」
まだ現状が理解できない私。
え? 本当にあの時、痛いのが飛んでいったの!?
「め、メイさん。ちょっとヴィルトも呼んでくるわ。少し待っててちょうだい」
「わ、分かりました」
王妃様はそう言うと陛下の元へと駆けていった。
……本当に腰の痛みが無くなっているようだ。
まさか、本当に……『いたいのいたいのとんでけ』で痛みだけ飛んでいったの……??
つまり、気づいていなかっただけで、あの時も実は魔法が使えてたってこと……???
その後到着した陛下に同じようにおまじないをかけると、本当に痛みがなくなったようだ。
これにより、私の魔法は今のところ『|痛みを取る魔法』と『他者に魔力を分け与える魔法』の二つがあることが判明したのだった。
**********
「……確かに魔力が回復しているようね」
その日の午後、魔法訓練場で王妃様が魔法を使った後、私が『他者に魔力を分け与える魔法』を使ってみた。
すると、王妃様曰く「身体に魔力が満ちる感じがする」とのことだ。
発動条件は『相手に触れていること』のようで、『キスしていること』じゃなくてよかった……。
もしそうならサリア王女以外に使えないしね。
「あとはメイさんの魔力量も把握しておきたいところだけど……」
「それなら何回か魔力譲渡をして計りますか?」
「いえ、それを使ってみましょう」
王妃様が指し示したのは、私の薬指につけている指輪。
そういえばこれ、魔力量が多いほど遠くの指輪に共鳴するんだっけ。
「この指輪の最長の共鳴距離、この町の端から端と聞いた覚えがあります」
「ええ、実はそれ私とヴィルトが作った記録なの」
「そうなの!? ママすごーい!」
私も驚いた。
でも二人の魔法使いとしての活躍を思えば、順当な結果ともいえる。
「実際にかなり離れたルナちゃんと共鳴したのでしょう? それなら最初から町の端と端から試してみましょう」
「わ、私はそんなに魔力量は無いと思うのですが……」
「もしダメでもそこから距離を縮めていけばいいだけだし、ね?」
「メイおねえちゃん、がんばって!」
私に期待のまなざしを上目遣いで向けてくるサリア王女。
……サリア王女の希望ならがんばらなきゃ。がんばっても魔力量が増えるわけではないけど。
「それじゃ決まりね。サリアは……あなたから離れたくないだろうし、ルナちゃんに協力してもらいましょ」
「そうですね。……協力して頂いたお礼も考えておかないと」
「ふふ、『第二夫人になりたいですわ!』とか言いそうね」
「え、ええ……確かに……」
ルナーリア王女は私とサリア王女の仲が公認になっても、宣言通り第二夫人の座を狙っているようだ。
私には前世の日本での記憶もあるから一夫多妻制には慣れないけど……この世界では一般的なものらしい。
しかし、一国の王女を第二夫人というのもね……。女の子同士だからこどもも産めないし……。
「サリアも仲のいいルナちゃんなら喜んでくれるわよー」
「うん! サリアもルナちゃん好き!」
ああ……こうやって外堀って埋められるんだね……。
「……そういえば、王妃様は私とサリア王女が結ばれることを望んでいたような行動をよくされていましたが……あれはどういった意図があったのです?」
「ええ、実はこの子は男の子が大嫌いでして……」
「いじわるするんだもん、きらーい」
一国の王女様に意地悪って……不敬罪とかで訴えられても文句が言えないような……。
こどもって本当に怖いもの知らずだなと改めて思う。
「サリア、最初の模擬試験では順位が低かったでしょう? この国は実力主義なところもあって、そのせいで数人の男の子にバカにされたことがあったの」
「な、なんといいますか……怖いもの知らずですね本当に……」
「ええ、ヴィルトも『一族郎党焼き尽くしてやろうか!』って怒ってたわ」
ええ、そうですね。あの陛下ならそれぐらいやりかねませんね。
「それで、サリアは男の子が大嫌いになったの」
「だから、身の回りをお世話するメイドだけでなく、家庭教師の人や魔法の教師であるソシファさんも全員が女性だったんですね」
「ええ、メイさんに声をかけたのも、あなたが女性だったからなの」
なるほど、私の他にも教師なんていっぱいいるはずなのに、私に声がかかったのはそういう経緯もあったんだ。
「それでサリアがあなたに凄く懐いてね……ここまでサリアが気を許したのって初めてだったの」
「サリア、おねえちゃんが大好きだもん!」
「この国はもう長男が跡継ぎになるのは決まってるし、それならサリアの好きにさせてあげようって思って……サリアに聞いたら『おねえちゃんとならずっと一緒にいたい!』って言うから、私も応援しようと思って……」
なるほど、そして最終的に私とサリア王女が結ばれた、と。
私としてはこの世界のお父さんやお母さんに孫の顔を見せられないのは残念だけど。
それでも、自分の命を懸けた魔法を使ってまで私を暴漢から助けてくれるほど、私の事を好きでいてくれるサリア王女の想いには応えたい。
「……そういえば、メイさんはいつまでサリア王女呼びなの?」
「え、えーっと……」
「おねえちゃん……」
サリア王女が哀しそうな目でこちらを見る。
た、確かに結ばれたなら呼び捨てとかの方がいいんだろうけど……。
「そ、それでは……サリア。……これでいいですか、サリア?」
「敬語も禁止ね」
「が、がんばります……」
「えへへー、嬉しいなー」
こ、こんな呼び方してるの陛下の耳に入ったら怒られそうではあるけど……。
でも、なんとかなるように努力しよう。
「それじゃ、話も一段落したし、実験の続きといきましょう」
「分かりました」
その後、実験の結果、私の魔力量は陛下や王妃様と同等かそれ以上、ということが分かった。
神様、初めは転生したのに特典なしとか言っててごめんなさい。
実際にはこの能力のおかげで大好きな人を守ることができました。
今度教会に行って懺悔しよう、そう思うのだった。