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目覚め

「……あれ……? ここは……?」


 暖かい陽射しに包まれ、温もりの中で私は意識を取り戻した。

 周りを確認しようと身体を起こそうとすると、右腕に何か違和感がある。

 そちらを見ると、サリア王女が私の腕に抱きついたまま眠っていた。


「……そうだ、私たちは暴漢にさらわれて……」


 徐々に脳も起き始め、私が意識を失うまでのことを思い出していた。

 そして周りの景色に見覚えがある……ここはサリア王女の私室……ということは、私たちは無事に帰ってこられたみたいだ。

 サリア王女は気持ちよさそうに眠っていて、魔力不足も無事に解消されたのが分かる。

 ……なんで私がサリア王女のベッドで、サリア王女に抱きつかれて寝ているかまでは分からないけど……。


「ん……メイ……おねえちゃん……」


 サリア王女が寝言で私の名前を呼ぶ。

 その唇の動きを見て、そういえば私、緊急事態とはいえサリア王女にキス……口移しをしたことを思い出す。

 じっと唇を見ていると、サリア王女の柔らかい唇の感触がまだ私の唇にあるように感じる。


「……っ」


 そんな事を考えてしまったせいか、サリア王女の顔を見るとトクンと心が跳ねる。

 ……今後、普通に接すること、できるかなあ……。


「……あれ……? メイ、おねえちゃ……」


 サリア王女がゆっくり目を開け、私の方を見る。


「メイおねーちゃんっ!」


 眠たそうな表情から、一気に喜びの表情に変わり、勢いよく私に抱きついてくる。

 私はサリア王女を受け止め損ね、ベッドに押し倒される形になってしまう。


「サリア、そろそろ起きなさ……あらあらあらあら……」


 間が悪く、そこに王妃様がドアを開けて部屋に入ってくる。

 サリア王女は気づいていないのか、私をきつく抱きしめたままだ。


「うふふ、お楽しみのところを邪魔しちゃ悪いわね。出直すことにするわ」

「わ、わー! 違うんです! 違うんですー!」


 ドアを締め直そうとする王妃様を引き止め、誤解を解くために少しばかりの時間を要したのだった。




**********




「……それでは今回の件についてまとめようか。メイにはつらいことを思い出させてしまうから気が引けるが……」

「いえ、私なら大丈夫です。今回の事件は大きなものですし……しっかり対処しなければなりませんから」

「ああ、そう言ってもらえると助かる」


 あの後王妃様に聞いたところ、どうやら私は1日中眠っていたようで、あの事件の影響なのかまだ身体の節々が痛むこともあり、ベッドの上からの参加となった。

 ……でも、サリア王女のベッドから、というのはちょっと気まずいような気がするけど……。


「さて、我々があの変身スキルを持つ者から得た情報だが――」




 ……事件の経緯はこうだ。


 まず、あの変身スキル持ちの男がスキルを使い、お城に潜伏。

 その間に兵士と同じ装備を調達し、男の協力者に提供。協力者たちは町に潜んでいたらしい。

 そして、この国の最高戦力である陛下か王妃様がいない隙を狙っていたそうだ。


 そこに、北でダンジョンの魔物の大発生が起き、陛下が応援に入る。

 それを機にして、男は早馬を出して南の軍隊を動かし、南に王妃様が出陣。

 次にソシファさんを薬で眠らせ監禁、それと同時に町の協力者たちに兵士の格好をさせて招集し、同士討ちに見せかけて私たちの脱出を促す。


 そこから後は私が経験した通り、サリア王女の魔法で誘拐は失敗、ルナーリア王女が救援に駆けつけ、抵抗している間に陛下と王妃様が駆けつけてくれて……という流れだ。


「そういえば、どうやってルナーリア王女は私たちを見つけられたのです?」

「それは……これですわね」


 ルナーリア王女は薬指にはめた指輪を見せてくれる。

 確かこれって……。


「馬車で移動中、この指輪が共鳴したんですの。それで気になって周りを見渡してたら、突然水の柱が見えて……」

「こちらに向かったら、私たちが襲われていた……と」


 確かに辻褄は合う。けど、かなり離れていたはずなのに共鳴したなんて……サリア王女がルナーリア王女に助けを求めて、ルナーリア王女のことを思い浮かべていたのかな?

 それで指輪が共鳴を起こして……といった感じだろうか。


「メイさん、私から聞きたいことがあるんだけど、よろしいかしら?」

「はい、私に説明できることであれば」

「サリアは魔力が枯渇していたけど、どうやってそれを解消したの?」

「どうやって……と言われましても……マジックポーションを飲んで頂いたとしか……」


 ……もしかして、口移しをしたことでキスをしたから責任を取れとかそういう……?


「いえ、それだけでは絶対に魔力枯渇は回復しないの。……最初の魔法訓練の時を覚えている?」

「確か……魔力が枯渇してサリア王女が転びそうになって……」

「そう、軽度の枯渇ならマジックポーションを飲んで回復できるわ。でも、あの時のサリアは違った。そうじゃないかしら?」

「……確かに小規模とはいえ、王妃様のウォーターサイクロンのような魔法を……」


 そうだ、魔力の消費量が違うんだ!

 最初の魔法訓練の時は消費が少なかったから1本で回復したけど、ウォーターサイクロンでも1本で回復するのは確かにおかしい。

 じゃあ、どうしてサリア王女は魔力が回復したの……?


「そう、絶対に1本で魔力が回復するはずはないの」

「あの後もマジックポーションをサリア王女に飲んでもらったとか……そういうのではないのですか?」


 私は口移しでマジックポーションをサリア王女に飲ませ、その後意識を失った。

 その後にサリア王女がマジックポーションを飲んでいれば、説明がつくはずだけど……。


「いえ、あの後すぐにサリアは穏やかな寝息を立てていたわ。……そう、魔力が完全に回復したの」

「……奇跡が起こった、としか言いようがないですね……」

「いや、仮説はある」

「仮説……ですか?」


 今まで黙って話を聞いていた陛下が口を開く。

 どうやら陛下には何か考えがあるみたいだけど……なんだろう?


「……メイがサリアに魔力を譲渡した、という可能性がある」

「わ、私がですか!? でも私は四属性どれにも適正がないはずでして……」

()()()()()、だろう?」


 言われてハッとする。

 もしかして……。


「四属性以外にも魔法がある……ということでしょうか?」

「ああ、歴史上でも数人程度しか確認されていないが……特殊な魔法を使う者がいたらしい」

「その特殊な魔法を私が使えて、その魔法というのが……魔力の譲渡、ということでしょうか?」

「その通りだ。そしてメイの魔力量は人よりも多いはず……これなら今までのこと全てに辻褄が合う」


 本当にそんな魔法を私が使えるのだろうか……?

 そして魔力量が多いの……?


「確かにそれなら話が合いますわね」

「ルナーリア王女……」

「メイおねえさま、さらわれている途中でわたくしの事を思い浮かべませんでしたか?」

「確かに、助けて欲しいって……」


 そう、馬車の中で陛下や王妃様、ルナーリア王女に助けを求めた。

 そして、確かにその時も指輪を指にはめていた……。


「メイさんの魔力量が常人よりも多いから、ルナちゃんの指輪に共鳴を起こした。そして、その魔力をサリアに譲渡したことで、サリアの魔力枯渇を治した。更に……慣れていないのに魔力を一度に使い過ぎたせいで、意識を失ってしまった……」

「確かにそれなら全部説明できますわね」

「で、でも……サリア王女がルナーリア王女の指輪を共鳴させたという可能性は……?」

「それはもう二人に実験してもらったわ。結果は……ダメだったの」


 ……ということは、私の魔力量は……。


「……メイはサリアの命の恩人だ、心から礼を言わせて欲しい。そして……危険な目に遭わせてしまい、申し訳なかった!」


 そう言って、陛下が深々と頭を下げる。


「お、お顔を上げてください陛下! それに、サリア王女がさらわれてしまったのは、私がソシファさんに変身した男に気付かなかったからで……」

「いえ、ずっと城に潜入していたあの男に気付かなかった私たちも同罪です。メイさんだけの責任ではありません。……私からも、サリアを……大切な娘を助けてくださったこと、感謝します」

「王妃様……」


 まさか、こんなに感謝されることになるなんて……さらわれた時には思ってもみなかった。

 責任を取って死刑になるのも覚悟してたんだけど……。


「メイおねえちゃん!」


 突然、サリア王女が私のことを呼ぶ。


「あのね、サリアを助けてくれてありがと……」

「いえ、私こそサリア王女に助けられました。ありがとうございます」


 実際、あのウォーターサイクロンがなければ私はあの男に……。


「でもね、サリアちょっと怒ってるの」

「……そう、ですよね。苦しい思いをされましたし……」

「違うの、サリアが寝てる間にちゅーしたこと!」

「えっ」


 確かにキス……というか口移しをしたけど……そこ!?


「だからね、もう一回、ちゅー……して?」


 サリア王女が私のベッドに入り、上目遣いでこちらを見てくる。

 視線を陛下や王妃様、ルナーリア王女に向けるけど、みんな優しい目で私を見ている。


 ……そうだね、ちゃんと私も責任を取らなきゃ。


「わ、分かりました。それではサリア王女、こちらへ……」

「うんっ!」


 サリア王女は私へ近づき、腕を伸ばせば抱きしめられる距離に。

 私は腕を伸ばすとサリア王女を抱き寄せる。


「これからもずっと、お傍にいさせてください」

「うん、ずっと、ずーっと一緒にいようね」


 サリア王女の返事を聞くと、私は両手でサリア王女の顔を引き寄せ、目を閉じ、唇を重ねた。

 あの時は緊急事態だったからゆっくり感じられなかったけど……今回は違う。

 まだ幼い、ぷにっとした唇が私の唇と重なり、その心地良さに思わず心が奪われてしまう。


 時間にしたらほんの数秒の出来事だったけど、永遠のように感じられた一瞬だった。


「えへへー……おねえちゃんとちゅーしちゃった……」


 唇を離すと、サリア王女は天使のようなかわいらしいほほえみを浮かべる。

 思わずもう一度抱きしめてしまいたくなるほどに。


「ふふふ……おめでとう、二人とも」

「あーあ、やっぱりおねえさまの心はサリアさんのものでしたわね。でも、第二夫人は諦めませんわよ!」

「サリア……幸せそうでよかった……」


 祝福してくれる王妃様。

 まだまだ私のことを諦めきれないルナーリア王女。

 そして、サリア王女の幸せな表情を見て号泣する陛下。



 ……こうして、私とサリア王女の関係は、王室公認となったのだった。

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