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ただいま

「それではメイおねえさま、またお会いしましょう」

「ルナーリア王女もお元気で。サリア王女のお土産選びも付き合って頂いて……ありがとうございます」

「あの時のみなさんの視線はよかったですわね……きっとわたくしとおねえさまが恋人同士に見えたのでしょう……ふふふ」

「え、えーと……」


 あれはただ単にルナーリア王女が町中にいるから、みんな驚いて見てただけじゃないかなあ。

 お付きの人もいたわけだし、そういう目で見る人はいなかった……はず……。



 ルナーリア王女の国に到着してから数日。

 報奨金を受け取った私は、この国の名物を食べたり、サリア王女へのお土産を買ったり。

 他もいろいろなことをやりながら過ごし、一足先にサリア王女への元へと帰ることになった。


 というのも魔法紙のサンプルの数が多く、使い切るにはもう少し時間がかかってしまうからだ。

 既に交易品となることは確定してはいるものの、使い方を教えるのはルナーリア王女が今のところ一番うまいから、もう少しだけ滞在することになった。

 久々に家族と会えたんだし、もっとゆっくりして行ってもいいと思うんだけどな。


「おねえさまと離れ離れになるのは寂しいですが……おねえさまのお役に立てるようにがんばりますわ」

「ありがとうございます。ですが、がんばり過ぎて倒れないように気をつけてくださいね」

「ええ、メイおねえさまに心配をかけてしまっては嫌われてしまいますからね。……それでは、また数日後にお会いしましょう」

「それではお先に失礼致します」


 こうして、私は帰国を始めた。

 護衛に雇われた冒険者は全員が女性で構成されており、万が一のことがないようにとの心遣いだ。

 ……確かにこの世界の男の人、割と男尊女卑の思考の人が多いんだよね。

 モンスターの素材などを狩れる冒険者が稼ぎ頭だからかな。

 だからこの心遣いはとてもありがたかった。


「それではメイ様、これからしばらくの間よろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします」


 その後、私たちは軽く自己紹介を終えると、馬車を走らせ始めた。




**********




「護衛ありがとうございました、どうか帰路もお気を付けて」

「こちらこそ、途中での料理ありがとうございました。旅の途中であのような美味しいものを頂けるとは思っていませんでしたので……機会があればまたよろしくお願い致します」


 4日後、私は無事に王都へと到着し、護衛の人たちとの最後の会話をしていた。

 全員が女性で構成されていたので、途中の町では簡単に作れるお菓子を振る舞ったり、保存のきくお菓子を道中でおやつとして渡したり、できるだけ仲良くなれるように心がけた。

 もう一度依頼を受けたいと思えてもらえたら嬉しいし、この国の評判も上がるかもしれないしね。

 もちろん、彼女たち全員が私のことを気にかけてくれていたからというのもある。


「それにしても、途中ではお風呂に入れないこともあるのがちょっと厳しいですよね」

「分かります、大きい町でもないと公衆浴場なんてそんなにありませんから……夜はお風呂に入ってさっぱりしたいですよね」

「ここは公衆浴場がたくさんありますし、おすすめの場所を紹介しますよ」

「本当ですか、それでは是非! メイ様もご一緒にいかがですか?」

「いえ、私はなぜか『帰ってきたらすぐに王城まで』との命を受けていまして……できることならお風呂で汚れを落としてからお城に帰りたいのですが……」


 向こうでの滞在中、王妃様から私へ宛てた手紙が到着し、サリア王女が寂しがっているからこちらへ戻ってきた時は即座に王城まで、とのことだった。

 ……流石に綺麗にしていった方が失礼がないと思うんだけど、王妃様の命なら仕方がない。


「そうですか、残念ですね」

「私もご一緒したかったのですが……代わりといってはなんですが、こちらがおすすめの公衆浴場とお食事どころです。これだけあれば足りると思うのですが……」

「そ、そんな……お代金まで頂くのは気が引けます……。依頼料は既に頂いておりますし……」

「いえ、私の命を守って頂いたお礼です。それに同じ女性ですもの、常に身体を綺麗にして、美味しいものを食べたいと思うのも一緒でしょう?」

「……ありがとうございます。また、あなたのような方とご一緒できると嬉しいですね」


 こうして護衛の人たちに別れを告げた私は、久々の王城へと足を向けたのだった。




**********




「あらあらあら、お久しぶりねメイさん。サリアが首をながーーーーくして待ってるわよ」

「お久しぶりです王妃様。しかし、よろしかったのでしょうか? せめて旅の汚れを落としてからの方が失礼がないかと思っていたのですが……」

「ふふふ……実はね、メイさんのために既にお風呂の用意をしてあるの。ここのお風呂、メイさんはお気に入りでしょう?」


 確かに広くて温度もちょうどよくて……でも私のためにっていうのはちょっと申し訳ない。

 なにせ使うのはサリア王女たち王族の人たちだから。


「さ、それじゃお風呂の前にサリアに会いに行ってあげて。メイさんが帰ってくるのをずっと待ってたのよ」

「わ、分かりました。ですが一旦着替えてからの方が……」

「いいのいいの。どうせお風呂に入った後に着替えるんだし」


 ……やっぱり押しが強いなあ王妃様。

 もちろん逆らうわけにはいかず、サリア王女の部屋の前まで連れて来られることに。


「……失礼します」


 ノックをして声をかけると、すぐにこちらに振り向くサリア王女。

 そして椅子を飛び降りてこちらに駆け出してくる。


「おねえちゃんっ!」

「わ、わ、危ないですよサリア王女」


 サリア王女は私に飛びついてきて、危うく転びそうになるところを王妃様が支えてくれた。

 すごくしっかりとした力で、本当に過去冒険者だったんだなというのが分かる。


「うー……だって、だって……」

「ほらほら、サリア。がんばりを見てもらうんでしょ。そのままじゃメイさんが動けないわよ」


 王妃様にたしなめられ、サリア王女は私から離れる。

 そして家庭教師の人が分厚い紙の束を私に差し出す。


「これは……全部、テスト用紙……ですか?」

「ええ、あなたがいない間に勉強をがんばって驚かせたくて……いつも以上にやってたわ」

「すごい……」


 数もさることながら、問題のほとんどを正解していて、どれだけ勉強をがんばったのかよく分かる。

 この調子だと魔法の方もかなり練習したんだろうな。


「ちょっと買ってきたお土産だけでは足りそうにありませんね……」

「ふふ、それならいつも以上に甘えさせてあげて。メイさん欠乏症になりかけてたもの」


 何その欠乏症って。

 まあでも、寂しい思いをさせてしまったのは事実だし、サリア王女のしたいようにさせてあげよう。


「それじゃ、一緒にお風呂入りたい! お風呂!」

「そう言うと思って用意してあるわ。お若いお二人でごゆっくり」


 なるほどそういう戦略なんですね王妃様……先にお風呂に入らせなかったのって……。

 それにしてもこの人、何を考えてるのか全く分からないのが怖い。


「それじゃ行こ、メイおねえちゃん!」

「そうですね、旅のお話はそこでしましょう」

「わーいっ!」


 喜んでぴょんぴょん跳ねるサリア王女。

 旅の間のお話でも楽しんでもらえたらいいな。

 そう思いながら私たちはお風呂へと向かった。




**********




「……はい、できました」

「ありがとー。それじゃ今度はサリアがおねえちゃんの背中を洗ってあげるね」

「それでは、よろしくお願い致します」


 こうして一緒にお風呂に入るのも久しぶりだな。

 最初は王族の人と一緒にお風呂なんて畏れ多い……って思ってたけどもう慣れてしまった自分が怖い。

 もちろん王妃様も一緒だと緊張はするけど……サリア王女とだと姉妹で入っている感覚になりつつあった。


「ごしごし……きもちいい?」

「はい、旅の疲れが癒されるようです」

「えへへー……」


 実際にお風呂の癒し効果だけでなく、妹のような存在のサリア王女に背中を洗ってもらうのは癒し効果が倍増しているように感じられた。


「あのね、メイおねえちゃん……」

「どうしました?」

「……えいっ」

「ひゃっ!?」


 突然、サリア王女が後ろから私の背中に抱きついてきた。

 柔らかいサリア王女の肌の感覚が背中に広がり、あまりにも予想外の出来事過ぎて一瞬思考が停止してしまう。


「どどど、どうされましたか?」


 なんとか振り絞って出せた答えがそれ。

 しかし、サリア王女は更に強く抱きしめてくる。

 そして……。


「……あのね、サリア……作れた?」

「な、何をでしょうか……?」

「えーっと……『きせいじじつ』?」

「ふぇ……?!」


 あまりにも予想外の答えに素っ頓狂な声をあげてしまう。

 きせいじじつ……キセイジジツ……既成事実?


「あのね、ママがメイおねえちゃんとずっと一緒にいたいなら『きせいじじつ』を作っちゃいなさいって……裸で抱き合えばいいって……」

「えぇ……」


 純粋なサリア王女になんてこと教えてるんですか王妃様!?


「え、えぇと……そんなことをしなくても、私はずっとサリア王女のお傍にいますよ。私はサリア王女の専属メイドですから」

「ホント?」

「ええ、もうサリア王女のお傍を離れませんから……それでよろしいでしょうか?」

「……うんっ!」


 どうやら納得してくれたようだ。

 ……しかし王妃様、何を考えているのやら……。


「それじゃ『きせいじじつ』作れたってママに言っておくね!」

「そ、それだけはダメです!」


 万が一そんなことを陛下が聞いたら卒倒どころじゃない上に、私が社会的に死んでしまう。


 その後、なんとか説得を繰り返し、「ずっと傍にいるという約束をした」、という形で報告してもらうことにしたのだった。

 ……ある意味、今回の旅で一番疲れたよぉ……。

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