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離れて初めて分かること

「んん……朝……? そ、そうだ、サリア王女を――って……?」


 朝、窓から射し込む日の光で目が覚める。

 少々寝坊したようで、急いで支度をしないとと思い、ベッドから飛び起きると見慣れない部屋。


「……あー、そうだ。今は旅の途中だったね……」


 それでようやく脳が起き、今は隣国への旅の途中だったことに気付く。

 馬車で移動しておよそ4日の行程で、野宿は避けて途中にある村や町の宿屋で寝泊まりしているのだ。


「ん……おねえさま……?」


 隣で寝ていたルナーリア王女も目を覚ます。

 ……この旅の間は一緒のベッドで寝たいと言っていたが、流石に一人用のベッドだとスペースが厳しく、分かれて寝ている。

 というか、身分的には別々の部屋の方がいいと思うんだけど、ルナーリア王女たっての希望ということでこういうことになっているのだ。


「目が覚められましたらお着替えをしましょうね。今日は私が手伝いますので」

「ああ、メイおねえさまに着替えさせてもらうなんて……夢のようですわ」


 そんな事を言いながら、顔を少し赤らめるルナーリア王女。

 いやいや、普段メイドたちにやってもらってますよね!?


「……と、とりあえずお着替えを……そういえば、影の人たちって着替えとかはどうされているんです?」

「彼女たちは影の中で着替えや食事をされていますわ。影の中が部屋みたいになっているらしいんですの」

「凄いですね……窮屈ではないのかなと思ってたんですけど……」


 私はそんな会話をしながら、ルナーリア王女の寝間着を脱がし、服を着せていく。

 途中途中で「おねえさまに服を脱がされるの、ドキドキしますわ……」などという言葉が聞こえてきたけど、聞かなかったことにしよう。


「あとはボタンを留めて……」

「ふふ、メイおねえさまは手際がいいですわね」

「サリア王女はお着替えの時、早く遊びたいのかよく動かれるんですよ。だから手際がよくなったのかもしれませんね」

「あら、少々気になりますわね。朝食の時にサリアさんのこと、もっと教えてくださいます?」

「大丈夫ですよ。それでは私も着替えますね」


 そして私も服を着替え始めたのだけど……すごく熱い視線を送られてるのが分かるから、ちょっとやりづらかったのはここだけの話。




**********




 そんな感じのやりとりをしながら数日。

 ついにルナーリア王女の故郷へと到着する。


「他の国に来るのは初めてですが……こちらも大きいですね」

「ふふふ、美味しいお店やかわいらしいアクセサリー屋さんなど、もちろんいろいろありますわよ。サリアさんへのお土産も買わないとですわね」


 ルナーリア王女は王女様なのにお店に詳しいのは意外だった。

 王女様ってあまり出歩かないイメージがあったんだけど、そうでもないのかな。


「それでは謁見を済ませたらご案内をお願いしてもよろしいでしょうか?」

「ええ、もちろんですわ。……それにしても、メイおねえさまはサリアさんのことになると嬉しそうに話されますわね」

「え、えっと……そうなのでしょうか?」

「ええ、この前の着替えの時とか、その後の朝食の時とか……どんなお土産がいいか相談された時とか……他にも……」


 あ、あれ?

 私……そんなに嬉しそうにしてたっけ……?


「やはり正妻はサリアさんにお譲りして、わたくしは側室あたりに……」

「あ、あの……外でそう言うことはおっしゃらない方がいいかと……誰が聞いているか分かりませんし……」

「では王城の中ではよろしいんですの?」

「そ、それはもっとダメなような……」


 もし、こんな話をルナーリア王女のお父さん……国王陛下や王妃様に聞かれたらタダじゃ済まない気がする。

 いや、気がするとかじゃなくて確実に。


「と、とりあえず、まずは謁見を済ませましょう」

「そうですわね、お父様やお母様に、将来わたくしが妻になる方を紹介しませんといけませんもの」


 ルナーリア王女はそう言って、頬に両手を当てて顔を赤らめる。

 ……うん、謁見が荒れる予感しかしないんだけど。




**********




「お、終わったぁ……」


 不安なところはあったものの、様々な人がフォローしてくれて謁見は無事に終わった。

 褒賞として日本円にして約50万もの大金まで頂いてしまい、至れり尽くせりだ。


「お疲れ様ですメイおねえさま。今日はこちらで過ごしていいとお父様が言ってましたわ」

「報奨金だけでなくそこまで……よろしいのでしょうか?」

「ええ、それだけメイおねえさまの功績が凄いんですの――」


 聞くと、幼少期に魔法がうまく使えない人は、うまく使える人に比べて使いこなせるようになるまで最低でも2年以上の期間を要するらしい。

 ルナーリア王女も魔法がうまく……というより全然だったらしいんだけど……魔法よりも勉学に力を入れていたとか。


「それなのに、まったく勉学ができなかったサリアさんに抜かれて、落ち込んでいたところに声をかけられて……」

「それで一緒に勉強して、魔法も使えるようになったんですよね」

「ええ、おかげでお父様も大喜び。報奨金はまだまだ出し足りないぐらい、そう言ってましたわ」


 50万で出し足りないって……でも、魔法の扱いを2年以上の短縮ができるなら安いものなのかな?


「それでその……明日はわたくしの友人たちにこのメイおねえさまが作られた魔法紙を使って、魔法が使えるようになるか試してみたいのですが……一緒にきていただけませんか?」

「そういうことでしたら喜んで。私は魔法が使えないので使い方の説明だけになりますが……」

「大丈夫ですわ。魔法の部分はわたくしが説明します。……ああ、これがおねえさまとの初めての共同作業……」


 ……なんか、最後の言葉は引っかかるけど、魔法について困ってる人の手助けになれればいいな。


「さて、この魔法紙は大事に使わないといけませんわね」

複写(コピー)のスキルで増やすことはできないのですか?」

「ええ、複写のスキルで造られたものは魔素が含まれていて、そこから更に複写をしようとすると、魔素の影響でうまく複写できないんですの」


 なるほど、コピー防止が自動的についてる感じなんだ。

 確かにそうじゃないといくらでも偽造できるから、交易品にもならないしね。


「……なので、オリジナルを作れるメイおねえさまは凄く貴重な人材なのですわ。だからあまり他人に知られてはダメですの」

「分かりました、ご忠告ありがとうございます」

「もし悪用するような者が現れたら、わたくしが国家権力(お父様の力)にお願いして潰して頂きますわ!」

「え……あ……そ、その……バレないようにガンバリマス……」


 あまりに熱が入った語りようにちょっと引きつつも、ルナーリア王女なりに私のことを思ってやってくれているんだなと感じたのだった。




 後日、魔法の使えなかったルナーリア王女の友人が、私の描いた魔法紙で魔法が使えるようになって大喜びしているのを見て、誰かの役に立てるというのはやっぱり嬉しいものだと改めて思った。

 その後、魔法紙の有用性を国王様が認め、新しい交易品として魔法紙の輸入を決めたとか。


 サリア王女のためにと思って描いたものが、こうしてたくさんの人に喜んでもらえるものになるなんて、描いた当初は思ってもみなかったな。

 ……サリア王女、今頃寂しくしてないかな……お着替えとかで他のメイドの人に迷惑をかけてないかな……。


 …………あ、あれ? また私、サリア王女のことを考えてる……。

 ルナーリア王女にあんなこと言われたから……なのかな……。

 い、いや、これは専属メイドだから! 専属メイドとして気になってるだけ! きっとそう!

 そう考えて、私は気持ちを落ち着かせるのだった。

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