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しばしのお別れ

「メイおねえさま……わたくし少しの間、国に帰らなければなりませんの」


 いつもの授業の前に、ルナーリア王女にそう切り出された。

 国の方で何かあったんだろうか?


「えー、わたしまだルナちゃんと一緒にいたいー」


 サリア王女から不満の声があがる。

 実際に二人で勉強を始めてから、一人の時よりも楽しそうにしてたしね。


「それがですね……この前の模擬試験で同着1位を取ったのと、魔法が使えるようになったのをお祝いしたいとお父様が言ってまして……」


 ああ、なるほど。

 確かにサリア王女のお父さんも、サリア王女の1位のお祝いにミノタウロスを狩ったぐらいだし、お祝いしたい気持ちは分かるかも。

 ……さすがにルナーリア王女のお父さんまでミノタウロス狩ったりはしないよね?


「それと……その、メイおねえさまにお願いがありまして……今度、陛下に一緒に謁見して頂きたくて……」

「えっ」


 なんで私が……?

 そんな気持ちに思わず声が出てしまう。


「詳しくはその時にお話しますので……もちろん、サリア王女も一緒にきて欲しいのですわ」

「うんっ、サリアも行くー!」


 なんだろう……?

 私とサリア王女もいないといけない理由って。


 ……とりあえず、その時になったら分かるみたいだし、今は授業を進めていかなきゃ。


「分かりました、私も同席します。……それでは今日の授業を始めましょうか?」

「大丈夫ですわ」

「今日もがんばるー!」


 その後は気合の入った二人と一緒に、1年生の範囲よりも更に先の予習をしていく。

 もちろん現状の苦手な部分の対策も行い、うっかりミスを無くして次回の模擬試験も満点を目指したい。


 こうして時間は過ぎていき……。




**********




「ふむ、ルナーリア王女よ。儂に相談とは?」

「それは……あの魔法の絵を各属性10枚ほど、わたくしにお売り頂きたいのです」

「なるほど、理由を聞いてもよいだろうか」

「はい。実は――」


 ……どうやら、ルナーリア王女の国の友人にも、ルナーリア王女同様に魔法が使えずに悩んでいる友人がいるらしい。

 その子たちのために私の描いた絵を持ち帰り、魔法の指導を行いたいということだ。


「ふむ、実に友人想いだ。よかろう、30枚ほど持ち帰るといい。金額は10枚と同額でよい」

「ありがとうございます! ……ですが、30枚もよろしいのでしょうか?」

「そうだな、こちらにも利があるということだ」

「利が……?」


 どういうことだろうとルナーリア王女が首を傾げる。

 それを見た王妃様は私の方に顔を向ける。


「メイ、ルナーリア王女に説明してあげなさい。あなたならできるでしょう?」


 ……うーん、王妃様がこちらを見てたから嫌な予感はしてたけど……。

 私なりの解釈だと……。


「先行投資、ということですね。実際に使用して効果があると分かれば、新しい交易の品として確立できる……と思います」

「うむ、そういうことだ」


 新しい商品というのはなかなか受け入れられない、ということがままある。

 元いた世界だと、インフルエンサーの人やテレビが紹介して……そんな感じで伝播していくことが多かった。

 ルナーリア王女の友人なら貴族かそれに近しい人だろうし、その人たちが効果があると言えば、これ以上の宣伝効果はこの世界ではないはずだ。


「さすがですわメイおねえさま……惚れ直してしまいます……ぽっ」

「おねえちゃんすごーい!」


 褒めてくれるのは嬉しいんだけど、惚れ直すとかこの場で言ったら、変な誤解を受けかねないんですけど!?


「それと……もう一つ。陛下、こちらをお読みいただけますか?」

「これは……ふむ、なるほど」


 ルナーリア王女が手紙を差し出すと、陛下はそれを受け取り、ゆっくりと読み始める。

 そして何度か頷いたあと、私の方に目を向ける。


「メイよ、すまないがルナーリア王女について行ってもらえないか?」

「わ、私がですか……?」

「隣国の王は儂の友人でな。そやつが『かわいい娘が勉強など、とても世話になったメイドがいると聞く。ぜひ直接礼をしたいので同行させて欲しい』と言っておるのだ」


 なるほど、私がルナーリア王女に呼ばれた理由って……。

 確かに勉強と魔法、両方を見てはいたけど。


「パパ、サリアも! サリアもいくー!」


 うん、まあこうなるよね。


「できればそうさせてやりたいが……サリア、お前は今狙われておってな……」

「ど、どういうことですの?」

「サリアを人質にとって、儂とスィーズの力を利用しようとするバカな輩がいると聞いたのだ。そやつらの確実な証拠をまだつかめていなくてな。その状態でサリアが出歩けば……どうなるかは分かるだろう?」


 最悪、ルナーリア王女まで巻き込んで、二人とも人質になってしまう恐れがある。

 それなら安全なこの国に留まっておいた方がいいだろう。


「うー……メイおねえちゃん……」


 サリア王女が今にも泣きだしそうな顔で私の服の袖をつかむ。

 確かに今は専属メイドだからサリア王女の傍にいるのが私の役目だろう。

 けど、私が行かないことで国交に影響が出てしまうとしたら……。


「サリア王女。用事を済ませたらすぐに戻って参りますので……もちろん、お土産もたくさん買って帰りますから……」

「ホント!?」

「はい。道中、ルナーリア王女に色々お聞きして、サリア王女が気に入りそうなものをお選びします」

「うー……それじゃ、いい子にしてる。……ぜったい、ぜったいだよメイおねえちゃん」

「ええ、もちろんです」


 ほっ、なんとかサリア王女を説得できた。

 滞在費もだけど、お土産用にちょっと多めにお金を持って行かなきゃ。


「うむ、話はまとまったようだな。メイよ、出張にかかる費用はこちらで出そう」

「よろしいのですか?」

「ああ、清算が終わったらアイツにあとから請求するからな」

「ふふ、私たちとルナーリア王女の両親は元冒険者仲間ですからね。お金のことは心配しないで行ってらっしゃい」


 そうなんだ。

 陛下と王妃様が冒険者なのは知ってたけど、ルナーリア王女のご両親まで仲間だったなんて……世界は割と狭いなあ。


「メイおねえさま、それでは準備をして、出発は一週間後にしましょう」

「分かりました。それまでは今まで通り授業をして過ごしましょう」


 こうして、私は初めて国を出ることになる。

 まさかそれが隣国の王様からの表彰になるなんて思ってもみなかったけど……。


 そして、出発までの間はしばらく会えなくなるサリア王女のわがままを聞いてあげることにした。

 一緒にお菓子作りをしたり、一緒にお風呂に入ったり、一緒のベッドで寝たり。

 今までも何回かやってはきたけど、少しでも一緒にいる時間を長くしたいから出発までの毎日そんな感じだった。


 ……それにしてもルナーリア王女が『旅の間に、メイおねえさまをわたくしに振り向かせてみせますわ!』と意気込んでいたのがちょっと気になるけど。

 まあ、いつも通りだなって思っておこう……。

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