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お泊り会

 模擬試験も終わり、最後の4回目の模擬試験に向けて、着々と準備を進める私たち。

 3回目の模擬試験では1年生で習う範囲よりも更に先の問題が出されたため、次を見越してこちらも先を予習する形で授業をやっていく。

 3桁の引き算、かけ算、そして割り算。

 更に分数、小数点以下の計算などなど、やる事は盛りだくさんだ。

 計算関係も難しいんだけどそれ以上に難しいのは……。


「歴史きらいー、面白くないもーん……」


 いわゆる社会の範囲。

 難しい用語や単語が多いため、基本的には学年が進んでから学ぶことになるんだけど、試験範囲が2年生よりも先までということを考えると、出てきてもおかしくはない。

 今まではこんなことなかったんだけどなあ。この世界でも受験戦争みたいなものがあるからかな……。


 さておき、サリア王女は面白くないとやる気が出ないから、もし社会が範囲に加われば致命的だろう。

 寝る前の物語とかなら普通に聞き入ってくれるんだけどなあ……そうだ!


「それではしばらくお待ちいただけますか? 何とかしてみせますので」

「ほんと!? メイおねえちゃんすごい!」

「メイおねえさまなら何とかしそうなのが凄いですわね……」


 よし、そうと決まれば今日から作業を始めないと……。

 この日は社会の方は置いておいて、算数を重点的にすることにしたのだった。




**********




「――……ということで、この国ができあがったのでした。めでたしめでたし」

「面白かったーっ」

「確かに……教科書だと事実が並べられてるだけで面白くありませんからね……」


 この締め方の通り、いわゆる物語形式……紙芝居的なものを作って、それを読み聞かせる形にしてみた。

 登場人物は主要な人たちだけ、地名や用語も試験に出そうなものに絞って少なめに。

 それが功を奏したのか、二人とも熱心に聞き入ってくれたようだ。


「サリア王女は物語がお好きですからね。この形式の方が良いかと思いまして」

「うん! いつも聞いてるのと同じぐらい面白かった!」

「そうですわね。メイおねえさまなら作家にもなれるぐらいに面白いお話が多いですわ」


 うーん、いつもの物語が面白いのは私が元いた世界のお話をベースにしてるからなんだけど。

 さすがにそれを言ってしまうと転生者とバレるから内緒にしている。


「あれ? そういえばルナちゃんもメイおねえちゃんのお話聞いてるの?」

「ええ、わたくしが以前おねえさまのお部屋に押し掛けたんですけど、その時にうっかり眠ってしまって結局聞けずに落ち込んでいたら、おねえさまがわたくしの部屋に来てくださるようになりましたの」

「……おねえちゃんのお部屋?」


 あっ、ルナーリア王女、それを言っちゃ……。


「ずるい! わたしまだメイおねえちゃんのお部屋行ったことないのに!」


 ……やっぱりこうなるよね。


「私のお部屋は殺風景で、面白いものはなにもありませんよ?」

「うー……でもでも、一回行ってみたいのー……」

「みなさん、クッキーが焼けましたよ……ってあら?」


 そんな話をしていると王妃様がおやつのクッキーを届けに来てくれた。

 そっか、物語を話してたらもうそんな時間なんだ。

 私はクッキーを受け取りつつ、サリア王女が私の部屋に来たがっていることを王妃様に伝える。


「メイさんさえよろしければ一度サリアを泊まらせて頂けないかしら?」

「メイおねえちゃんのお部屋にお泊りできるの!?」

「こらこら、まだメイさんは了承されてませんよ」


 王妃様はサリア王女をたしなめるが、既にサリア王女は行く気満々だ。

 断ったりしたら悲しんじゃいそうだし、同性の部屋だから問題はないと思うけど。


「だ、大丈夫ではあるのですが……ベッドは一つしかありませんし、寝具の質はサリア王女が使われている方が上ですし……」

「いいの! おねえちゃんと一緒に寝られるもん!」

「……あ、あの……」


 会話に入りたいのか、ルナーリア王女がそっと手を挙げる。

 まあ、そうなるよね。


「わたくしもよろしいでしょうか……」

「ルナちゃんもいっしょ! 楽しそう!」


 あー、確かに私も小学生の時の夏休みに仲のいい友達とお泊り会したなあ。

 普段とは違う友達の部屋でゲームしたり、お話したり、好きな子告白会したり……確かに楽しかったな。


「分かりました、それでは本日の夜でよろしいでしょうか?」

「はーい!」

「分かりましたわ! うんとかわいい服を着ておねえさまにアピールしないと……」


 ルナーリア王女、そんなことしたらサリア王女もマネしそうな気がするんですけど……。


「ママ、わたしもかわいい服! いちばんかわいいのがいい!」

「あらあら、それならとっておきを用意しなきゃ。あ、メイさん。警護にはソシファを付けるので安心してくださいね」

「あ、ありがとうございます」


 ただのお泊り会がなんかすごいことになってるけど……ま、いっか。

 二人のいい思い出になるといいんだけど。


「そういえばメイおねえさま?」

「どうされました?」

「わたくしが以前おねえさまのお布団で眠ってしまった時、いつの間にか部屋に戻っていたのですが……メイドを呼んでくださいましたの?」

「いえ、あの時は『影』さんからルナーリア王女の家の位置をお聞きして、私がおんぶでそちらまで……」


 そこまで言ってハッとして口を止める。

 しかし時すでに遅し。


「じーっ……」


 サリア王女がこちらを見ている。

 だよね、そうだよね。


「サリアも、サリアもおんぶー」


 私の後ろに回り、おんぶをせがむサリア王女。

 断ったら泣き出しそうだから、私はその場にしゃがみ込み、サリア王女をおんぶする。


「えへへー、高ーい」


 普段とは見える景色が違うからか、サリア王女はご機嫌だ。

 サリア王女は私にぎゅーっとしがみつき、全身で嬉しさを表現する。

 背中に温かさを感じながらも、サリア王女を落とさないように足をしっかりと持つ。


「そういえばメイおねえさま、『影』のことをご存知でしたのね」

「そうですね、その一件以降は一度もお会いしていませんが……」

「それでは今日のお泊りの時に改めてご挨拶させますわ。」


 ということは今日は4人でのお泊り会かな。

 夜が長くなりそうだし、つまむためのお菓子もちょっと準備しておこう。




**********




「お初にお目にかかります、私は昼の『影』」

「そして私が夜の『影』になります」


 まさか、『影』が二人……しかも双子の姉妹とは思っていなかった。

 どうも、ルナーリア王女の影に二人で入っているらしく、昼と夜の二交代制で警護をしているらしい。

 確かにそれなら24時間ずっと安全を保つことができる。


「しかし凄い能力ですね。要人警護に特化した……」

「はい。ですが制限もありまして……お互いに信頼しあっている相手の影にしか入ることはできません」


 なるほど。制限がなければ暗殺もし放題だからね。

 この世界のスキルとかはよく分からないけど、強すぎるから制約が課されている感じなんだろうか。

 まあでも信頼してる相手と共謀すれば暗殺なんてお手の物なんだろうけど。


「ルナーリア王女はお二人をとても信頼されていらっしゃるのですね」

「ええ、わたくしがもっとずっと小さい時からずっと一緒ですわ。寂しい時は影から出て傍にいてくれたり……迷惑もたくさんかけてしまいましたが……」


 ルナーリア王女が二人の方を見る。

 そしてスカートを両手で摘まみ上げ二人に向かってお辞儀する。


「わたくし、必ず立派なレディになりますから、これからもよろしくお願い致しますわ」

「勿体ないお言葉……」

「これからも我ら、ルナーリア王女様のために身を粉にする所存です」


 ……こういう信頼関係、いいなあ。


「それではお菓子を準備しましたのでお話しましょう。『影』の方もどうぞ」

「我々にまで……? 本当にメイ様はルナーリア王女様の仰る通り女神様のような御方……」


 んん?

 なんかすごい格上げされてない?!


「ルナーリア王女、お二人にいったい何を吹き込まれたのですか?」

「あら、わたくしは思ったままのことを伝えていますわよ」

「おねえちゃん女神様なの? すっごーい!」


 あっ、サリア王女にも尾びれ背びれどころか翼まで付いた情報が。

 ……まあ、一晩経てば忘れてるでしょ……。



 そんなこんなで5人で楽しく会話をしたり、トランプみたいなゲームをしたり。

 王女たちは普段よりも夜更かしできたのが楽しかったようだ。


 ……ちなみに寝る時は私が中心、左右の腕にサリア王女とルナーリア王女が抱きつく形となった。

 寝返りも打てないような状況のおかげで、あまり眠れなかったのは言うまでもない……。

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