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世界でいちばん冷たい君
僕が今まで出会ってきた人間の中でおそらく君が一番冷たい人間だろう
君は人に興味がなかった
人を嫌うのでも傷つけるのでもなくただ干渉しなかった
そんな君に前からずっと聞いてみたいことがあった
君の目の前に線路の路線を切り替えることができるレバーがある
君がそのレバーを切り替えればトロッコの行き先が変わり一人が死ぬ
君がそのレバーを引かなければトロッコの行き先が変わり五人が死ぬ
君は一体どうする?
世界でいちばん冷たい君は少し迷った後に言った
その時は自分が線路に飛び込んで…死ぬよ
僕は君のその時の悲しそうな顔を一生忘れない
世界で一番冷たい君はこうして命を失った
誰もいない君の墓の前に置いてあった六輪の花を僕は忘れない
僕は知っている
その六輪の花が君の痛さだと
僕はその六輪の花をそっと持ち帰った