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僕に欠けているもの  作者: 狼と子羊
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完璧な少女と普通な少年

俺は問題のリードとやらとグラウンドの片隅で話をしていた。


「いや、会ったことは無いはずですよ。今日は友達のお願いでちょっとお話しできたらなって。」


「まあいいけどよ。早くしてくれるか?そろそろサークルが始まっちまう。」


「ああ大丈夫っす。そんなに時間かかんないんで。」


 ま、長く話すこともないだろう。


「実は俺の友達が先輩に一目惚れしたらしくってですね。それで先輩の好みやら何やら聞いてきてくれってことで。」


「なんだそりゃ。つかそれ俺に言っちゃっていいのかよ。普通隠して聞くだろそういうの。」


「直球勝負が俺のモットーなんで。」


「なんつーかその女子は可哀そうだな。お前が馬鹿だって事実が。」


 全くいったいどこの誰が馬鹿だというのか。


「ただ、悪かったな。俺はすでに彼女がいるんだよ。」


「ん?そうなんすか?」


「ああ、リリアっつーんだけど知ってるか?お前一年だろ?同じ学年だと思うが。」


「ああ知ってますよ。」


「なら話は早いな。付き合ってそろそろ一か月ぐらいか。まあそういうことだ。そのお友達には悪いんだが。」


「成程、ちなみに分かれるご予定は?」


「ねえよ!マジで直球だなお前。普通聞くかよそういうこと。」


 普通って言葉が俺には一番似合わないんでね。


「ふーん、それでどうなんすか?そのリリアって子は。いい子なんすか?」


「ん?まあいい奴…、というか俺には出来過ぎなぐらいだな頭もよけりゃ運動もできる。気立てもいいってんで彼女としちゃ最高だろ。」


 ん…?


「そうっすか?意外とどんくさい感じがするっすけど。」


「アイツがどんくさい?マジで言ってんのか?あいつがやらかしたところなんて見たことねえよ。完璧すぎて怖いくらいだ。…マジでな。」


 そういう先輩の顔はどこか暗いものが見え隠れしていた。何か俺はちょっと思い違いをしているのだろうか。


「そろそろいいか?もう始まっちまう。」


「ああすいません。頑張ってくださいねスティーラ。」


「おう。ありがとよ。」


 そういうと彼は杖集団に向かって走っていった。もうサークルが始まるのだろう。程なくして部長らしき人物が主導となってミーティングを始めていた。


 そのあと俺はリードの所属する二年の教室で適当に聞き込みをしてみたのだが大した情報は手に入らなかった。まあ良くも悪くも()()なやつらしい。


 さて、一旦エリーと合流するか、まあ、あんまり収穫は無かったが…。一応ある程度情報が集まったらあの辛気臭い部室に集合することになっている。俺は伸びをしながらゆっくり足を進めていった。


「あら早かったわね。」


 部屋について俺が机に突っ伏してグダグダしてると扉が開いた。エリーの方も落ち着いたらしい。


「おう、そんなに収穫は無かったがな。」


「あら奇遇ね私もよ。」


 そういうと俺の対面に椅子を引いてエリーが腰かける。昨日と同じビビッドな髪型にアクセ、朝の準備が大変そうだ。


「私はあのリリアって子の友達何人かと話をしたんだけど、正直大したことは聞けなかったわ。あんまり二人でいるところを見たことは無いみたい。ただ気になることはあったわね。」


「気になる事?」


 何かあるのだろうか。


「あの子自分の事をどんくさいって言ってたでしょ。でも実際はまるで逆。成績優秀、運動神経も抜群。魔法だって完璧のそれ。文武両道を地で行くような女みたいよ。一つ言うなら結構頑固というか、諦めが悪いらしいわ。それも美徳でしょうけど。」


 頑固か…。俺とは縁遠い言葉だな。マジで。


「ああそれなら俺もリードってやつから聞いたよ。どうにも完璧な子らしいな。」


「えぇ、うちのクラスでいう所のララみたいな感じね。あのいけ好かない女と違ってリリアの方がまだマシだけど。」


 つくづく思うがエリーのララ嫌いは何か理由があるのだろうか。あんまり聞き出さない方がよさそうではあるが。


「だからこそわからないのよあのリリアって子がクズと付き合い続ける理由が。別れることも難しくないでしょうに。」


「まあその辺は人間の関係性だからな個人の優秀さとはまた違ってくるだろ。ただ別れる方法ねえ…。俺たちを頼る理由が分かんねえな。自分一人でだって別れるのは難しくなさそうに思えるが…。いや、違うのか?本当の問題は…。」


「何ぶつぶつ言ってんのよ。で?あんたはどうなの。何か聞き出せたの?」


「いや特に何も。」


「爽やかに言うんじゃないわよ。ぶっ飛ばすわよ。」


 実際何もいい情報が聞けなかったんだからしょうがない。問題は次の動きだ。


「で。どうやったらリリアの目を覚まさせられるかしら。どう考えたって周りが見えなくなってるわよ。」


 うーん。どうなのだろう。人づてに話を聞いただけだし、俺自身リリアの事が分かったってわけじゃないだろう。ただなんというか違和感があるんだよな。目を覚まさせるってのも別れさせるってのも。


「つか本当に何も聞けなかったの?DVが始まった理由とかそのヒントみたいなものは無いわけ?」


「いや、リードも彼女に不満があるわけでは無さそうだったが…。ん?待てそもそもなんでリードは暴力を振るうんだ?彼女がどんくさいわけじゃないなら理由がない。なんでこんなことになってるんだ?」


 暴力なんてものを持ち出すのならそれ相応の理由があるはずなのだが…。そりゃ彼女だってドジを踏むこと自体はあるだろうがDVってことはある程度頻繁に振るう暴力なはずだ。


 周囲からの評価とDVがまるで結びつかない。…違うな俺たちが叶えるべきは依頼の完了。その過程や結果はおそらく問わないはずだサイモンがああなのだから多分そうだろう。時間設定の短さからもそのあたりが伺える。となると…。


「でどうするのベルトット。明日も聞き込みしてみる?あまり時間ないっていうか明日が実質最終日になりそうだけど。」


 明後日が結果報告なら手を打てるのは実質明日まで、明後日にリリアから良い返事が聞けなければ依頼完了とは言いにくいか。


「まあ、それなりの案はある。上手くいくかは自信ないけどな。重要なことは彼女が良い子でありリードの事がどれくらい好きなのかってところだな。」


「何?別れるように説得するってこと?ま、それが一番手っ取り早そうだし、…でも大変そうね。大分依存しかかってるみたいだし。」


「明日になってみないとな。上手くいくかもわからないし。ま、気楽に。だろ?」


「そうね。私も何回かこういう依頼の手助けをやらされたけど全部成功したわけじゃないし。大体サイモンって頭がいいようで馬鹿なのよ。なんていうか自分にできることは他人にもできるだろうみたいな事考えてる節があるわよアイツ。」


 それは同感。なんというか人を高く評価し過ぎなキライがあるようには思う。


「まあいいわ今日できることは何もなさそうだし。どうするの?またどこかに食べに行くの?」


 おっともう夕飯の時間か。確かにお腹は空いてきている。


「いや、今日は学食で勘弁してください。マジでやべえんです…マジで…。」


「しょうがないわね。学食って嫌いなのよね。騒がしいったらありゃしないわ。」


 確かに食堂の騒がしさはどこの学園だって同じだろう。それを好む者もいれば毛嫌いする者だっている俺も後者ではある。


「無料で食えるんだぜ?多少の我慢も仕方ねえだろ。」


「味は悪くないんだけどね。味は。」


「確かに。」


 うちの学食は優秀な学園ということもあってか、かなりおいしい。正直三食これでもまあ問題ないくらいには。メニューに飽きるってことがなければ、の話だが。


 そうして俺とエリーは学食で夕飯を取った後適当に時間を潰してその日は終わりを告げた。明日のことは明日考えるのが良いだろう。くだらないことを考えたって眠りが浅くなるだけだ。

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