祖父が残した切手
僕は高校の夏休みに、父の実家へ一人で帰省した。
本当は両親も一緒にと考えたんだけど……
「折角の高校最後の夏休みだ。お前一人で、思い出作りをしたらどうだ」
と、父の提案があって、そうする事になったのだ。
▪▪▪
「……こっちですよ」
駅へ降り立つと、祖母と叔母が出迎えてくれた。
「2泊3日、お世話になります」
そう僕が言うと、二人は嬉しそうに頷いた。
父の実家は、町の離れにある。
叔母の車に乗せてもらい、40分程かけて着いた。
実家の住居はそこそこ広く、蔵もあって、田んぼや畑もある。
「そんじゃ、中へお入り」
祖母が言う。
「お邪魔します」
日本家屋の、独特の匂いがする。
そのまま、寝床の一つに案内され、荷物を置いた。
「居間でゆっくりしてきなぁ。今、お茶を淹れるから」
と祖母が言うと、台所へ向かった。
「……あ、ありがとうございます」
「そんじゃあ、私は一旦お家に帰りますね」
そう叔母が言った。
(実家から少し離れた所に、叔母の家があると聞いた)
居間をまじまじと見た僕は、一つ気になる物を見つけた。
(なんだろ、これ)
近づいて見てみる。
……それは、額縁の中に入っている『切手』だった。
今の時代じゃない。結構昔のやつみたいだけど……
「なんじゃあ、その切手が気になったかのぉ」
その時、祖母がお茶とお茶菓子をのせたお盆を持って言った。
「あ、え、はい……」
「それはなあ、『記念切手』と言うもんじゃよ」
お盆をテーブルに置いて、祖母はそう言う。
「記念切手?……ああ、何となくニュースで聞いたことがあります。でも、これって結構古い物ですよね」
僕がそう返す。
祖母は額縁を手に取り、僕は側で覗き込む。
明治から大正の時代、そして昭和初期の記念切手が額縁の中にあると、祖母から話を聞いた。
「でも、これって何処で手に入れたんです?」
気になった事を聞いてみた。
「じいちゃんは、元々医者でな。とある軍人から譲り受けたらしいんじゃよ……」
その軍人さんは、記念切手を欠かさず集めていたらしいのだが、戦争の時に祖父にお世話になったとの事で、感謝の気持ちとして渡してきたみたいなのだ。
「結構、貴重な物ですよね、これ……。よく渡してくれましたね。」
「その軍人の方はな、一足遅ければ命を落としていたらしいんじゃ。……だからじゃと思っとるよ」
そうか、本当の『命の恩人』なのか。
それだったら、大切な物を渡したくなる気持ちは分からなくもない。
「じいちゃんが言っとった。『これは絶対に残して欲しい』、とな。」
▪▪▪
それから祖母が亡くなったと聞いた時、『記念切手』を譲り受けた。
――この切手と思い出、記憶をずっと残しておきたいから。