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『秋の歴史2022』投稿作品

祖父が残した切手

作者: 桜橋あかね

僕は高校の夏休みに、父の実家へ一人で帰省した。

本当は両親も一緒にと考えたんだけど……


「折角の高校最後の夏休みだ。お前一人で、思い出作りをしたらどうだ」


と、父の提案があって、そうする事になったのだ。


▪▪▪


「……こっちですよ」

駅へ降り立つと、祖母と叔母が出迎えてくれた。


「2泊3日、お世話になります」

そう僕が言うと、二人は嬉しそうに頷いた。


父の実家は、町の離れにある。

叔母の車に乗せてもらい、40分程かけて着いた。


実家の住居はそこそこ広く、蔵もあって、田んぼや畑もある。


「そんじゃ、中へお入り」

祖母が言う。


「お邪魔します」


日本家屋の、独特の匂いがする。

そのまま、寝床の一つに案内され、荷物を置いた。


「居間でゆっくりしてきなぁ。今、お茶を淹れるから」

と祖母が言うと、台所へ向かった。


「……あ、ありがとうございます」


「そんじゃあ、私は一旦お家に帰りますね」

そう叔母が言った。

(実家から少し離れた所に、叔母の家があると聞いた)


居間をまじまじと見た僕は、一つ気になる物を見つけた。


(なんだろ、これ)


近づいて見てみる。

……それは、額縁の中に入っている『切手』だった。

今の時代じゃない。結構昔のやつみたいだけど……


「なんじゃあ、その切手が気になったかのぉ」

その時、祖母がお茶とお茶菓子をのせたお盆を持って言った。


「あ、え、はい……」


「それはなあ、『記念切手』と言うもんじゃよ」

お盆をテーブルに置いて、祖母はそう言う。


「記念切手?……ああ、何となくニュースで聞いたことがあります。でも、これって結構古い物ですよね」

僕がそう返す。


祖母は額縁を手に取り、僕は側で覗き込む。


明治から大正の時代、そして昭和初期の記念切手が額縁の中にあると、祖母から話を聞いた。


「でも、これって何処で手に入れたんです?」

気になった事を聞いてみた。


「じいちゃんは、元々医者でな。とある軍人から譲り受けたらしいんじゃよ……」


その軍人さんは、記念切手を欠かさず集めていたらしいのだが、戦争の時に祖父にお世話になったとの事で、感謝の気持ちとして渡してきたみたいなのだ。


「結構、貴重な物ですよね、これ……。よく渡してくれましたね。」


「その軍人の方はな、一足遅ければ命を落としていたらしいんじゃ。……だからじゃと思っとるよ」


そうか、本当の『命の恩人』なのか。

それだったら、大切な物を渡したくなる気持ちは分からなくもない。


「じいちゃんが()っとった。『これは絶対に残して欲しい』、とな。」


▪▪▪


それから祖母が亡くなったと聞いた時、『記念切手』を譲り受けた。


――この切手と思い出、記憶をずっと残しておきたいから。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 切手に込められた物語が素敵でした。 おばあちゃんの口調がほのぼのしていて、ほっこりできました〜
[良い点] たとえ人の命に限りはあっても受け継いでくれる人がいる限りは、その思いは永遠である。 軍人さんから御祖父さんに託された切手は、それに込められた想いや逸話も一緒に、御祖母さんの手を経てお孫さん…
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