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第6話 引っ越しと再会(2)

「そういえば梢さん、柊也しゅうや様の方はいいんですか? 確か昨日伊勢から戻られたばかりなんですよね?」

 一通り片付けが終わった頃、ふと思い出したように梢さんに尋ねる。

 たしか庄吾しょうご様と一緒に伊勢の方へ出張されていたのよね。

 庄吾様とは亡くなった紫乃さんの旦那様の弟にあたる方で、現在日本の最強の術者といわれる『七柱』のお一人。

 七柱はその名のとおり全員で七人おられ、時折他家からの支援要請を受け、地方へ出張なんて事もよくあるのだ。

 今回はその出張に次期ご当主でもある柊也様も同行されていたというわけ。

 どこの一族でも術者不足は深刻なのよねぇ。特に京都と三重は昔から異形の巣窟なんて言われているから、万年人手不足だとも言われている。


「柊也なら別に放っておいても大丈夫よ。沙姫ちゃんみたいに昨日今日出会ったばかりという訳じゃないからね」

「いや、その……私と蓮也はそんな関係ではなくてですね」

 私はただ久々に再会されたのだから、一緒にいなくていいのかと……

「ふふ、私は一言も蓮也さんの名前は出していないわよ?」

「っ///////」

 は、嵌められた!

 自分でも顔が真っ赤になっている事を自覚してしまう。

 このままではからかわれる一方なので、なんとか話を逸らそうと別の話題を探す。


「そ、そういえばこの紙袋はなんですか? けっこう大きいみたいですけど」

 それは梢さんが持ってこられた大きな紙袋。片付けの邪魔だからと取り敢えず横にどけておいたのだ。

「そうそう忘れていたわ」

 そう言いながら梢さんが紙袋から出されたのは、真新しい制服が二着分。おそらく紫乃さんが手配してくださった高校の制服なのだろう。

 でもこれって……

「あのぉー、この制服ってもしかして聖桜女学院せいおうじょがくいんのものじゃ……」

 聖桜女学院、都内屈指のお嬢様学校で、財界のご令嬢から大手財閥のお嬢様まで、早い話が頭に超が付くほど大金持が通う女子高校。

 そしてその最大の魅力ともいえるのが某有名デザイナーがデザインしたといわれる、この可愛いらしい制服。実は女子の間では結構憧れの制服だったりするのだ。


「よく知っているわね。私もここの卒業生なのよ」

 私の葛藤に気づいていないのか、梢さんが制服のカバーを外しながら『一度試着してみて』と真新しい制服を手渡してくる。

「まってまって、ここって学費が凄く高いんじゃなかったでしたっけ?」

 正確な額は知らないが、年間何千万と掛かる学費に、社交界用のドレスや研修費という名目の旅行費用が別にいるんだと、昔誰かに聞いたことがある。

 もちろん懐事情に優しい一般入学枠もあるらしいが、その学力ととんでもない競争力で、途中からの編入は非常に難しいとも聞いている。

 そんな学園に編入試験も受けていない私と胡桃がどうして入れるだろうか。


「もしかして紫乃さんがまた裏工作をされたんじゃ……」

 何と言っても現代において日本最大といわれている結城家のご当主様だ、政界関係者や学校職員に働きかけ、裏口入学を斡旋されたんじゃないかと疑ってしまう。

「もしかして沙姫ちゃん、裏でお金が動いているんじゃないかって心配してる?」

「えっと……まぁ、そんなところです」

 もともと私たち術者は政府公認の裏世界の住人だ。多少強引に進めたとしても、大概のことは政府がもみ消してくれるが、流石にお金の力をつかっての裏口入学は、真面目に試験を受けて学園に通われている人には申し訳ない。

 そう考えていると。


「ふふふ、以外と真面目なのね、でも大丈夫よ。寧ろ学園の方が是非にって言ってきているぐらいよ。多分学費なんかも多少免除されるんじゃないかしら?」

「へ?」

 学費が安くなったうえに、学園の方が歓迎している? どういうこと?

「えっとね、聖桜が財閥のお嬢様達が通う学校ってのは知っているわよね?」

「はい、結構有名な話ですから」

「つまりね、そんなお嬢様達が通う学校なら当然警備なんかにも力を入れられているのよ。でもそれはあくまでも目に見える人的な方面への抑止。当然妖魔や悪霊といった方面については全く意味がないわけ。近年は術者不足が響いちゃって、どうしてもそっち方面の人材が確保できないらしいよ」

「あぁ、そういう事ですか」

 話の途中だが、梢さんが言おうとしている事がようやく理解できる。

 近年の術者不足は非常に深刻。地方から術者を集めてくれば今度はそちらが手薄になり、若い世代を教育しようにもまだまだ時間も費用もかかってしまう。

 そんな中で妖魔が出るか出ないかわからない学園に、貴重な術者を365日配置できるかと言われると、やはり難しいということなのだろう。

 費用の方も普通の警備員より割高なうえ、実質的な仕事の量は一般の警備員以下。しかもD級妖魔以下はすぐにその場に影響を及ばす可能性は低く、事件が見え隠れし始めてからでも十分に間に合ってしまう。

 弱い妖魔って、まずは負の感情を抱く人間に取り付いたり操ったりするのよね。私たち術者はその時点で気配を感じられるんだけれど、普通の人たちの中では妖魔の気配はわからないから、徐々に周りを巻き込んでいき、表面に不穏な事案が浮かび上がったところで、ようやく術者へ連絡が入るというのが一般的な流れ。

 もちろん全く気づけず、殺人事件や行方不明事件になってからようやく判明する場合もあるが、そこは術者も普通の人間なのだから、たまたま運がなかったとして諦めてもらうしかないだろう。


「つまり私と胡桃の入学は、学園の妖魔対策ってわけなんですね」

「そういう事よ」

 なんだが『私を数に入れないで下さい』と胡桃から無言の視線を感じるが、彼女も一応朝倉家という血筋の血を引く術者の一人。本人は『精霊も呼び出せないのに術者だなんて言えません』と言っているが、瀕死の私に必死に治術をかけ続けてくれたからこそ、今も私はここに居られるのだ。

 確かに攻撃に関しては本人の言う通りからっきしだが、私は幼い頃からずっと彼女に助けられつづけている。


「まぁ、妖魔対策っていっても基本は学園生活を満喫していればいいわよ。学園側も保護者に対して安心させたいだけだし、学園内に妖魔が現れたって事なんて、私の記憶のなかでは10回程度しかなかったわよ」

「ふーん、そうなんですかって、10回もあったんですか!?」

 話の流れ的に、てっきり『現れたことなんて一度もなかったわよ』っと続くのかと思えば、返ってきたのは正反対。

 聖桜ってたしか中高一体の学園だったわよね。すると梢さんが通ったのは6年間ということになり、その6年間で10回も妖魔が出現したとなれば、結構な出現率になるのではないだろうか。


「財閥関係者の子達が通う学園だからね。親が恨まれていたり、学園に通っている間に親の会社が倒産したりして、妬み恨みって出来事が他の学園と比べると非常に多いのよ」

 なるほどね、聖桜女学園はいわば社会の光と闇が混ざり合っているような場所。普通に通っている生徒が全員光に照らされている訳ではないという事なのだろう。

 そう考えると私のような術者は、無償で雇える警備員という事なのね。

 聞けばほとんどがE級妖魔、出てもD級程度らしいので、適当に白銀か風華に任せておけば、私が知らない間に払ってくれているだろう。


「詳しくは当日校長先生の方から話をされるはずよ。あっ、教員の方が全員術者の事を知っているわけじゃないから、基本は隠密にね」

「わかりました。そういう事でしたらお引き受けさせてもらいます」

 妖魔絡みの事はある程度地位や信頼がおける方にしか教えられないからね。教員の方の中には臨時職員の方もおられるだろうし、財閥関係者のご令嬢と言えども、親から知らされていない子も居るはずなので、やはり通常通り術者や妖魔という言葉は、隠し通していた方が無難なのだろう。

 梢さんから受け取った制服に袖を通し、色々気遣っていただいた事に改めてお礼をする。

 初登校がタイミングよく3年の一学期からだという事にも感謝しなくちゃね。


「ところでこの趣味の悪い木彫りの熊はなに?」

柊也しゅうや様のお土産ですが?」

「……」

 帰り際に梢様が放った一言が原因で、後日柊也様がお説教を受けている姿をみかける事なる。

 結城家の次期ご当主にお説教をするとか、さすが紫乃さんが認められただけはあるわね。

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