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第14話 未熟な精霊術師(1)

 それは私と胡桃くるみ聖桜女学園せいおうじょがくえんに編入して、三ヶ月が経った頃に突然起こった。


「沙姫さんお疲れみたいね」

 体育の授業のため更衣室で体操着に着替えている時、私の様子を心配したクリスが話しかけてくる。

「うん、まぁね」

 クリスには私が結城家にお世話になっており、その関係で妖魔退治のアルバイトをしていることは伝えてある。

 妖魔退治の大半は、人目がつかないよう夜間に行われることが多く、自動的に私のアルバイトも深夜になることが大半。一応学校側にも此方の事情は察してもらっているので、お昼からの登校や体調不良でお休みを頂いたりもするのだが、私は今人生の中で一番学生生活を満喫している関係、こうして可能な限り登校するよう頑張っている。


「一応私も事情は察しておりますが、些かアルバイトの量が多くございませんこと?」

「私もそう思ってるんだけど、あの現場を見てしまえばねぇ。私だけのんびりしているなんて事も出来ないのよ」

 正直私もここまで妖魔退治の依頼が多いとは予想だにしてはいなかった。

 これでも紫乃さんからは気を使われ、回ってくる依頼はある程度厳選されてはいるのだが、さすが日本で一番の人口密集地というべきか、次から次へと仕事の依頼が舞い込んでくる。

 恐らく元から妖魔の発生件数は多かったのだろうが、5年前に起こった東京近海での大悲劇により、当時この地を守護していた足利一族が滅亡してしまった。それだけでも大損失なのに、他の東京都を守護する結城家、千葉家、宇都宮家、吉良家からも多くの優秀な術者が参戦しており、それぞれ大きな傷跡を残してしまったのだ。

 現在は結城家の先導の元、なんとか平穏を保てる状況には持ち直せたらしいが、未だに前衛を主とする精霊術師が不足しているのだという話だ。


「そんなに多いんですの?」

「もうビックリするぐらいにね」

 クリスは幼少時代に裏世界から抜けている関係、余り妖魔絡みのことは知らないらしい。

 だからと言って、素人同然のクリスを巻き込むなど私は考えてもいないし、何より彼女の両親がそれを許さないだろう。

「まぁ、そんな感じでアルバイトが大変なのよ」

 一応ここにはクリスや胡桃以外の生徒もいるからね。妖魔退治の事はアルバイトと表現させてもらっている。

 そんな会話をクリスとしていると、近くで話を聞いていた女子生徒たちが興味を示したようで。

「ねぇ、前から気にはなっていたんだけど、沙姫さんって何のアルバイトをやっているの?」

「そう、実は私もそれが気になっていたのよ。噂じゃイケナイお仕事をしてるって話だよね」

「私も聞いた、確か夜のお仕事なんだよね?」

「この間、かっこいい男の人と街を歩いていたって聞いたよ」

「キャー、沙姫さんってやっぱり彼氏がいるんですのね」

 わいのわいの。

 途中から何だか雲行きの怪しい内容にすり替わっていたが、すべて誤解だと言い訳をさせてもらいたい。

 確かに妖魔退治が夜になってしまう関係、そんな会話をクリスに話していた事もあったし、蓮也に食事を奢らせるために二人で出かけた事もあった。

 流石に現場では変装しているため、私の姿が目撃される事はないだろうが、話には尾びれ背びれがつく事はあり得るので、どうせ面白おかしく話が広まる過程で、夜のお仕事=イケナイ仕事という風に解釈されてしまったのだろう。


「皆さん誤解なさらないでくださいませ。沙姫さんのお仕事はそんな如何わしいものでは決してありませんわよ」

 自称私の一番の友人でもあるクリスが、迫り来る女生徒たちに注意する。

「そんなの分かってるって」

「沙姫って見た目だけはいいんだけど、中身がねぇ」

「うんうん、この前なんてナンパ男を問答無用で蹴り倒していたもの」

「アレは凄かったわ。私ちょっと相手側に同情しちゃった」

 わいのわいの。

 アレ、アレアレ?

 何だか話が更に変な方向に変わっていき、今度は私の自虐ネタに変わっていく。

 当初こそお嬢様学校だと身構えてはいたのだが、蓋を開ければ何処にでもいそうな恋に恋する女の子たち。中にはお嬢様然とした生徒もいるのだが、そういった人たちは別のグループみたいなのが出来上がっており、私と胡桃はこの性格からも前者のグループ入りを果たしてしまった。

 ちなみにお嬢様口調のクリスと彼女の友人である太田 未夢さんも、同じグループだったりする。

 みんな分かってるなぁ、クリスが実はすごくいい子だって事を。


「それで実際はどうなの? 男はいるの、いないの? どっち?」

「い、いないわよ」

 完全にアルバイトの話題から私の男性の話へと変わり果ててしまっている。

 女の子って他人の恋バナには目がないのよね。だからと言って、私が当事者になる事は正直ご遠慮したいところ。

 おのれ胡桃、巻き込まれないよう一人こっそり逃げ出しおって。

「そんな事よりみんな着替えなくていいの? 授業始まっちゃうよ!」

 今は授業と授業の合間の休憩時間。早く着替えないと次の体育の授業に遅れてしまう。

 盛り上がってしまった女性陣からはブーブーと野次が飛びまくるが、回避方法としては一番有効的だろう。


「もう後で絶対続きをやるからね」

 なんだが私が悪者になっている様な気もするが、こういったやり取りも学生生活ならではの醍醐味。以前は遊ぶ暇があるなら修行をしろ、といった環境だったため、学校が楽しいと感じた記憶が一切なかったのだ。

 内心友達と会話が出来るワクワクと、自分の恋話から逃れられた事にホッとしながら、私も遅れないよう体操着に着替えるためにスカートを下ろす。

「さささ、沙姫さん、それって!?」

「ん、どうしたのクリス。そんなに慌てて」

 今更私の下着姿なんて珍しくもないでしょ。

 ここが男女共学ならば、痴漢対策でスカートを履いたままズボンを履いたりするのだろうが、生憎とここは女子しかいな女子高校。流石に暑いからといって、スカートをめくって中を仰ぐ、なんて子はいないが、シワになることを嫌って先にスカートを脱ぐなんて事は別段珍しくもなんともない。

 それに普段から胡桃にあられもない姿を披露している関係、今更下着姿を友人に見られたからといって、気にするほどのものではないだろう。

 そう思っていたのだけれど、次の瞬間クリスの一言で私の顔は一気に真っ赤に染まる。


「さ、沙姫さん……、それ男性物の下着ではありませんの!?」

 へ?

「…………………………」

 ///////////

 クリスに促されるまま視線を下へと送ると、そこにあったのは見慣れぬ男性物のトランクスを履いた私の姿。

 その様子をみていた胡桃が少し悩んだ末、謎が解けたというようにポンと手を叩きながらボソッと一言。

「あぁ、蓮也様の下着が紛れ込んでしまったんですね」

 この一言がダメ押しだった。

 すっかり鎮静化してしまった先ほどの騒ぎが再び湧き上がり、更衣室は空前絶後の大騒ぎ。

 私は男性……蓮也の下着を履いたまま取り囲まれ、顔を真っ赤に染めながら隠す事も逃げ出す事も出来ず、その後全然集まらない生徒を心配した先生が更衣室へとやってこられるまで、この騒ぎが収まる気配を見せなかった。

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