やきそば大好き
皆様、突然ですが、やきそばは好きですか?
私は好きです。
この上なく好きです。
ただし外食でやきそばを頼むことはまずありません。
自分で作るやきそばが世界一大好きなのです。
その理由は……
まず、美味しい!
自画自賛すんなやと言われそうですが、私の作るやきそばは、食べたみんなが『うまい!』『プロみたい!』『こんな美味しいやきそばは初めて食べた!』と仰ってくれるのです。
母も私にやきそばを作ってほしがります。
一度だけ、親戚が集まった場で、母が『この子の作るやきそば、美味しいのよ~』と言ってくれて、緊張しながら大量のやきそばを作ったところ、ケチャップを入れすぎてしまい、『何これ』『は? ナポリタン?』『……』と言われてしまったことがありますが、失敗したのはそれ一度きりです。
調味料は目分量だし、気分によってケチャップを入れたりだしの素を入れたりと、その時々によって味が違うのですが、私にはやきそばの神がついているのでしょうね、毎回違う美味しすぎるやきそばが出来上がるのです。
美味しく作るコツはまず、麺を焼きながらいじくらないことです。
ほっておきます。炒めるのではなく、本当に、焼くのです。
屋台のやきそば屋さんなどを見ていると、とにかく麺をコテで混ぜくり返していますが、確かに演出としては見栄えがいいですが、あれでは美味しいやきそばは出来ません。
べっちょりとしてしまいます。
裏返す時、ほぐす時以外は決して触らないことで、麺のコシを殺さずに、まるでオイルでコートされたような仕上がりにすることが出来ます。
べちょべちょにならず、麺の一本一本が美しい、そんなやきそばを私は作れるのです。
次に、コツといえば、カゴメのウスターソースです。これがなければ始まりません。
今日、実は晩ごはんにやきそばを作ったのですが、うちのペットがなんでも口にくわえて持って行って隠してくれやがるやつで、カゴメのウスターソースをどこかに隠されてしまいました。いまだに見つかっておりません。
仕方なくとんかつソースで作ったところ、やはりダメでした。味にキレがないのです。食感も重くなってしまい、満足できませんでした。
麺を焼き、もういいかな?というところでウスターソースを豪快にかけ、そこからは豪快に麺を混ぜくるべし。全体に色が染み渡ったら、そこからもう一度、今度は重めの別のソースをかけるのですが、この二度目のソースは何でもいいです。オイルでコーティングされた麺にカゴメのウスターソースで味をつけ、その上に重いソースを着せる感じです。
最後のコツは、具なんかどうでもいいということです。
麺と一緒に焼いてもいいし、別々に焼いて最後に混ぜても、どうでもいい。
豚肉がなければソーセージでも、牛肉でも、ちくわでも、なくても、どうでもいい。
野菜は……キャベツはあったほうがいいですが、なければ白菜でも、キムチでも、なくても、どうでもいい。
最後に青のりや天かす、目玉焼きを乗せたり、マヨネーズなどかけてもいいですが、別になくても、どうでもいい。
麺とソース、そして焼き方こそすべて! それでいい。
私がやきそばを好きな理由ですが、次に挙げるなら何と言っても……
安い!!
近所のスーパーでやきそばの麺が1玉15円です。具などどうでもいい私にとっては15円で一食、しかもお腹いっぱい食べられてしまうことになります。実際には冷蔵庫にあるものを具にしますが、具はなんでもいいので、やきそばの具にするために何かを買って来るということはしません。
2玉にすれば超大盛り。それでも30円です。
カップラーメンとか買うのがバカらしくなります。
最後の私がやきそばを好きな理由は、思い出です。
小学校五年生の頃でした。私は友達と遊んで帰りが遅くなり、しかし家に電話をしていませんでした。
母は泊まりで出かけていて、父だけが家にいました。
父はとても顔が怖い人で、友達から『お前のお父さん、恐ろしい』と恐れられているような人でした。
私ははっきりいって父のことはよくわからなかったのですが、みんなが怖いというので私もビクビクしながら、もうすっかり暗くなった頃に、忍び込むように家に帰りました。
私がそーっと自分の部屋に入ろうとすると、食堂のドアがばん!と開いて、父がズンズンとスリッパの音を立てて私のほうへやって来ました。
「どこへ行ってた?」
低い、怒気を含んだ声でそう聞かれました。
「ごめんなさい。友達と遊んでたら、遅くなっちゃって……」
私が答えると、父はさらに不機嫌そうになりました。
「嘘つけ! ○○○してたんだろう!」
伏せ字の中は明かせませんが、とっても不謹慎で、父から見れば悪魔のするようなことです。正直、私はその時、友達と○○○していたので、頑なに、それがバレてはたまらないと、不自然なほど強く否定しました。
「違う! ○○○してない!」
「してたんだろう! 今夜はメシ抜きだ!」
私は部屋に籠もり、泣きました。
ごはんが食べられないことが辛かったのではありません。怖い父を怪獣のように怒らせてしまったことが悲しかった……のでしょうか? 正直よくわかりません。
ただ、もう泣くしか出来なくて、ベッドに突っ伏して泣いていると、ドアが外からノックされました。
父がそっとドアを開けて、言いました。
「やきそば……作ったぞ。食べに食堂へ来い」
父の作ったやきそばは味が薄く、麺もちょっと生っぽく、具にナメクジみたいな切り方をしたしいたけが入っていました。
私は鼻水をすすりながら、それを食べました。お腹が空いていたせいでしょうか。はっきり言って、今まで食べたものの中で、あのやきそばが一番美味しかった。
父はやきそばを食べる私に背を向けて、たばこを吸っていました。
なぜなんでしょうね。自分でもわからないのですが、あれから私は、やきそばが何よりの大好物になってしまったんです。
自分の作るやきそばが1番美味しいとか自慢しながら、あの時の父のやきそばには絶対に勝てないんです。