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貴方に愛は誓えない。

作者: Mea

あまり深く考えずにお楽しみください。



私が、前世読んでいた恋愛小説の中のライバルキャラになってしまったと気づいたのは、家族と食事をしていた時。


並んだ料理を見て、ふと、おみそしるが食べたいなあ、と思ったのがきっかけ。


おみそしる?と突然頭に浮かんだ単語に疑問を持った瞬間。


私の頭の中に前世の記憶が流れ込んできた。


幸い、それで倒れたり、体調が悪くなったりはしなかったけれど。



私は、気づいてしまった。


この世界が前世の私が読んでいた恋愛小説の世界であることに。


そして、私がヒロインのライバルキャラであることに。


小説のラストでは、ヒロインと王子が結ばれる。


そのヒロインと結ばれる王子が、私の今の婚約者である。


小説の中では、ヒロインと王子は末永く幸せに暮らした、という文章で最後が締められていた。


つまり、私はいずれ王子に捨てられる。


だけど、実際に捨てられたかどうかは、分からない。


だって、小説の中心はヒロインと王子様で、私はただのライバルキャラだったのだから。


途中まで話に出ていたライバルキャラも、ヒロインと王子の恋が進むにつれて徐々に出番が少なくなり、物語の後半に差し掛かった時点で全く登場しなくなった。


彼とライバルキャラの間の婚約がどうなったのかも描かれていなかった。


これについて、読者たちは、いくつもの憶測を並べたてていたが、著者自身からその答えが出ることはなかった。


だから私は、この世界で繰り広げられる物語で私がどうなるかを知らない。


現時点で、彼は私と婚約している。


別に、前世でよく見た恋愛小説の悪役令嬢のように婚約破棄のために、もしくは自分の幸せのために奮闘しようとは思わない。


私は、物語の途中でフェードアウトするライバルキャラのままでいい。


幸い、と言ってもいいのか、まだ彼とヒロインの恋物語が始まるには時間がある。


その間に私は、私の望みを叶えなければならない。


私が望むのはただ一つ。


現時点から、この先もずっと、この世界で生きる彼がーー、私の現婚約者が幸せであることだけなのだから。








この世界で私が転生したと気づいて、まず最初にしたこと。


それは、彼を幸せにすることだった。



彼と私は婚約者同士だから、お茶会をしたり、互いに会いに行ったりする。


その中で彼と会話をしながら、彼が今困っていることや悩んでいることがないかを確認した。


彼が困っていたら手助けをしたし、悩んでいたら相談に乗って最善の策を考えた。


そうすることで、今この世界で生きている彼が、少しでも幸せを感じてくれたらいいと思って。



でも、私は決して彼と距離を縮めることはしなかった。


少しでも近づいてしまえば、物語のハッピーエンドが壊れてしまうかもしれないから。









そうして、いくつもの時が過ぎて、彼と私が学園に入学する年が来た。


学園への入学が物語の始まり。


つまり、彼とヒロインの未来永劫の幸せへのスタートなのだ。


3年間。


学園へ通い、勉強をする傍ら私は、物語のライバルキャラ同様にヒロインへ絡み、物語の進みを確認し、彼とヒロインが想いを通わせる様を見てきた。




彼とヒロインの物語が進むにつれて、私は彼らに絡む回数を徐々に減らし、最終的には彼らと関わることもなくなるーーーことはなく。


何故か、彼とヒロインとは物語の後半であろう場面でも絡むことが多かった。


まあ、私という転生者のせいで、物語に多少のバグが生じてしまったのだろう。







学園へ入学して早3年。


ーーーー今日。


彼はヒロインと結ばれる。


卒業パーティーの後、彼とヒロインは学園の裏庭の桜の木の下で愛を誓うのだ。


それを見届けるまでが私の仕事。


それを見届けたら私は、いろいろな国を旅してみようと思っている。


貴族の令嬢として、結婚し子供を産むのが当たり前であるこの世界で、旅をするという選択肢をとることは容易ではなかったが、私の兄と姉は肯定してくれた。


兄と姉は、渋る両親に、自分たちが家は継ぐし、他家との縁もつなぐので十分だろうと私の意見を後押ししてくれて、ようやく許可が下りた私は、旅に出ることが出来るようになったのである。



だから、彼を見るのも今日が最後。


今日、彼とヒロインの愛の告白を見届けたら、もう彼とヒロインを目にすることもないだろう。


少し胸が痛いのは無視して、私は裏庭に足を進める。


そこには、彼とヒロインがいて。


物語通りに愛を誓いあっている









ーーーはずだったのに。


裏庭の桜の木の下。


そこには、誰もいなかった。


私がはやく来すぎて、まだ来ていないのかも。


そう考えた私は、彼らがここに来るのを隠れて待つことにした。


隠れて桜の木の方を見ながらしばらく待っていると。


ふいに、ぱき、という音が私の後ろから聞こえ、


そっと振り向いた先にいたのは、


ヒロインと愛を誓いあうはずの彼だった。



ーーー彼が何でここに。


驚きを隠せない私に向かって、「随分探したよ。」と言った彼は、私の手を取って桜の木の方へ歩き始める。


桜の木の下まで私の手をつかんだまま歩みを進めた彼は、木の下で私の手を放してひざまづいて。


「あなたを愛している。婚約を終えて、どうか、私と結婚してくれないだろうか。」


ヒロインに伝えるべき言葉を口にした。


さすがに、物語の中でヒロインに伝えた言葉とは少し異なっていたけれど。


それでも、その言葉は私を困惑させるには十分だった。


でも、これだけは言わなければならない。


「申し訳ございません。


今までずっと婚約者という立場にいましたが、私は、貴方様に愛を誓うことができません。


貴方様には私よりももっとふさわしい方がいらっしゃるでしょう。


私は、貴方様が彼女と結ばれることを心より願っております。」







彼に断りの言葉を告げた翌日、私は、国を出た。


彼を心から愛している。だからこそ、私は、彼に愛を誓うわけにはいかない。

ちなみに、少女が愛を誓わない理由は、前世の彼女が読んだ恋愛小説のラストの文が関係しています。


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