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06.魔術士ハルト1

 春から初夏に移る途中。抜けるような青空。爽やかな風が草原を走り、新緑が波のように揺れている。見渡す限りの草原。遠くに木々が生い茂る森が広がる。森は幾重にも重なり高さを見せ緑の壁を作っている。


 草原に一筋、線を引いたように石畳の街道が通っている。石畳の街道は2頭立ての馬車がすれ違えるほどの幅が有る。石畳は一定の大きさと間隔で石材が並び、材料の加工技術、測量などが適切に行われている事を感じさせる。


 街道を一頭の馬が駆けている。馬の手綱を握るのは、この世界において一般的な魔術士の服装の男。上下が一続きになったワンピースのような、薄茶色の外套に身を包んでいる。外套は腰紐でひとくくりしている。厚手の麻を使った外套は、縫い目が整っており悪くない仕立てだ。肩掛けの紐。紐は背中の麻袋につながっている。麻袋には旅に必要な品が詰まっている。

 魔術士の男は黒髪をなびかせ街道を進んでいた。理知を感じさせる透き通った青い目。くっきりとした鼻立ち。引き締まった頬。どこか朴訥(ぼくとつ)としているが、整った顔立ちだ。幼さは無いが少年の名残が有る。成人前後といった年齢だろう。


(塔の新たな指令、聖獣の追跡調査。珍しい指令だ)

 男の名はハルトと言う。魔術機関"蒼の塔"の調査員だ。"蒼の塔"は多種族からなる共和国の独立機関であり、魔術の研究開発や魔術を活用した情報分析を行っている。情報分析により共和国の政治、軍事戦略などに関わる重要機関が"蒼の塔"である。


 ハルトは魔術機関"蒼の塔"所属の魔術士として街や人里から離れた地の外部調査を行っている。人族・亜人種の脅威となる魔獣・魔物の調査や、魔術的な変化の調査などを主に行う。


 "蒼の塔"から、ハルトに次のような指令が有った。

<<耳長族を守護する聖獣"ヤム"を追跡し、目的地を探れ>>

 耳長族とは、長身痩躯、眉目秀麗、長寿を誇り森を好み生活する亜人種、いわゆるエルフのことである。


 ハルトは聖獣"ヤム"に関して、文献で得た知識を思い浮かべていた。

(聖獣"ヤム"。険しい山岳に生息する、山ヤギに似た姿をした獣。魔術で翼を作り、低速で飛ぶ事ができる。敵対した場合は、高威力の攻撃魔術を放つ)

(耳長族(エルフ)を守護する獣で、耳長族(エルフ)の里の間を定期的に移動する。人族には友好的とされるが、行動原理や倫理観は謎が多い)

(かつて耳長族(エルフ)を襲った魔族1000体を空中から一方的に殲滅した記録が有る。敵対した際の脅威度から"蒼の塔"の観察対象になっている)


 続いて、指令の続きを思い浮かべる。

<<聖獣"ヤム"が規定の経路を外れ、中立地帯を移動している。記録に無い行動だ>>

<<今は休戦協定中で、他国に軍事行動と思われるとまずい。単独任務が適切だ。街道沿いに聖獣の後を追って欲しい。聖獣の進路が不明確だが、概算で14日後に追いつく計算だ>>

 聖獣は空を飛ぶが、移動速度は早くない。飛行する高度は高すぎず、人族の身長10倍ほどの高さを飛ぶと言う。後を追い、追跡調査を行う。国益に関する懸念が出れば、臨機応変に対処する。といった所だろう。


 ハルトは単独任務に必要な隠密魔術と、規模が小さいが対人・対魔に優れた攻撃魔術を使う。単独で安定した成果を出せるのがハルトの強みで有り、今回の調査に選ばれた理由だ。


 ハルトは左腕につけた腕輪を見た。腕輪は鈍い銀色で光沢が有る。指二本分ほどの太さが有り、複雑な模様――魔術式が刻まれている。

(紫が混じり始めている)

 腕輪の中心には親指大の深い青色の宝石がはまっている。青色の宝石は時折紫のまだら模様が波紋のように広がっては消え、複雑な色合いを見せている。腕輪には体外に漏れる魔力を抑える魔術式が刻まれていた。


(聖獣に追いついた数日後が危険か。時間は有る。おそらく問題無いだろう)

 最低限の荷物による旅で、書物も持ち歩いていない。旅の時間は長く、十二分に考える時間が有る。どのような状況でも生還できるよう、ハルトは思案を巡らせるのであった。

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